おかあさんのかぞく


「ど、どうしたの!!?」
二人の姿を見るなりサクラは目を丸くしたが、カカシは人差し指を口に当てて静かにするよう促す。
「寝てるだけだよ。すぐ帰るから、お邪魔していいかな?」
「うん。どうぞ」
快を背負うカカシは、開かれた扉をくぐって家の中へと上がり込む。
すやすやと寝入る快は小声で喋る二人を気にせずカカシの背中に掴まっていた。
両親は留守のようで、サクラが自分の部屋に布団を敷くと、快を寝かせたカカシはほっと息を付く。
「記憶がないわけだし、ずっと緊張していたみたいだな。疲れが出たんだよ」
「うん・・・・」

サクラの家族がどれほど親身に世話をしようと、やはりそれまで住んでいた家とは勝手が違う。
快が時折不安げに空を見上げていることに、サクラも気づいていた。
皆の前では明るく振る舞っていても、本当は帰りたかったのだろう。
だが、今の快は安心しきった表情で眠っており、サクラの口元も自然と綻んでいた。
「先生、快と仲良くなったんだ」
「・・・どうかなぁ」
カカシは首を傾げたが、快の手は何故か彼から離れていない。
カカシがいなくなることを拒むように、その掌をしっかりと握っていた。

 

 

「快って、寝顔も可愛いわよね〜v」
カカシに茶を持ってきたサクラは、クッションを頭に当てて横になる。
快を見守る眼差しは、同じ年頃の少年へのものというより、血を分けた兄弟に対するものだ。
「先生、快ってカカシ先生の隠し子じゃないの?」
サクラが振り向いて訊ねると、カカシは口に含んだ茶を吹き出しそうになった。
「な、何、それ!?」
「だって、ナルトがそっくりだって言っていたし、さっき先生が快をおぶって玄関に立っていたとき、私もそう思ったんだもの」
「・・・サクラ、快が生まれたあたりは、俺は仕事が忙しくて女の人にかまってる暇なんかなかったのよ」
「ふーん。その時期じゃないなら、身に覚えがあるんだ」

ハンカチでしきりに汗を拭くカカシに目もくれず、サクラはじっと快を見つめている。
「がっかり、快と親子になれるなら、先生と結婚してもいいと思ったのに」
「それは残念だ」
「でもさ、いい考えだと思わない?このまま快の家族が見つからなかったら、先生が引き取ってナルトやサスケくん、私も一緒に住むの。みんなで新しい家族になるのよ」
「随分子沢山だねぇ」
「そう。私がママで先生やナルト達が子供、きっと楽しいわよ・・・・」
あくびを繰り返すサクラは、だんだんと喋る速度がゆるやかなになり、急に静かになった。
見ると、傍らで眠る快と同じように、穏やかな寝息を立てている。

「不思議な子」
茶器をテーブルの上に置くと、カカシはサクラのマネをしてクッションを枕に寝転がってみた。
恋人志願者は大勢いたが、母親になりたいと言われたのは初めてだ。
サクラがママの、大家族。
想像すると確かに楽しそうで、なかなか悪くない未来予想図だった。

 

 

 

「・・・・面目ないです」
「いえ、気にしないでください」
玄関口でひたすら恐縮するカカシに、サクラの母親は朗らかに笑って言う。
帰宅してサクラの部屋を覗いてみれば、娘がその担任や快と一緒に眠りこけていたのだから、驚くなという方が無理だ。
快やサクラの寝顔を見ているうちに自分まで眠ってしまったとは、上忍らしからぬ失態だった。

「ママ、私、先生をそこまで送ってくるから」
「あの、本当にお邪魔しました」
申し訳なさそうに頭をさげるカカシだったが、サクラの母親は絶えず笑顔を浮かべている。
「またいらしてくださいね。先生のことはサクラからいつも聞いていましたけれど、思ったよりハンサムさんで驚きました」
「ちょっと、ママ、うちの先生にちょっかい出さないでよね!」
ふてくされたサクラを見て、母親とカカシは揃って苦笑した。
母親は彼女と同じ桃色の髪の美人で、サクラも成長すればこうなると思われる外見をしている。
何よりカカシが気に入ったのは、容姿よりも場を和ませる人柄だ。
どことなくサクラと共通したものがあり、そうした部分に好感を持ったのかもしれなかった。

 

 

「サクラのお母さん、綺麗な人だねー」
「好きになっても無駄よ。パパとラブラブなんだから」
「別に、そんな意味で言ったわけじゃあ・・・」
心外だとばかりに眉を寄せると、サクラはくすくすと笑いをもらした。
「冗談よ」
掌を握ってきたサクラを見下ろし、カカシもつられて笑顔になる。
優しい両親に恵まれ、穏やかで、あたたかな環境で育ったサクラ。
サクラと一緒にいて自然と心が和むのは、彼女が幸せな子供だからだろう。

「先生もね、私の家族よ」
繋いだ手に力を込めると、サクラは思い出したように言う。
「ナルトもサスケくんも快も、みんな家族。一緒に住むのは無理かもしれないけど、ずっとずっと大事よ」
「うん・・・」
十字路の手前で立ち止まったサクラは、にっこりと笑ってカカシに手を振った。
「じゃあ、先生。また明日」
「ああ、またね」

 

角を曲がり、サクラの姿が見えなくなってもカカシはその場に立ちつくす。
サクラの気配が消えたとたん、急に気持ちが萎えてしまった。
今まで知らなかった感覚だ。
「何だ、これ?」
胸を押さえたカカシはしきりに首を傾げている。
サクラが傍らにいたときは心が浮き立ったが、今は離れた掌が無性に寂しい。
自分の感情だというのに、どう解釈して良いか分からず、掌を見つめ続けるカカシだった。


あとがき??
この後、快くんは忽然と姿を消しました。
おそらく役目を終えたからですね。
春野家滞在中、快くんはサクラと枕を並べて寝ていたようです。本当に親子です。
投票してくださった皆様、有り難うございました。


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