いっさいがっさい
「何故呼ばれたかは、分かっているな」
言葉と共に、三代目火影はじろりとカカシを睨め付ける。
常人ならば恐怖に居竦んでしなうような鋭い眼光だ。
火影の執務室という場所だけで、多少の威圧感を感じるだろう。
だが、火影の眼前に立つカカシは空とぼけた表情で首を傾げる。
「また何かどやされるようなこと、やりました?」
「苦情が来ておる。サクラの両親から」
遠回しな言い方をしても無駄だと判断した火影は、単刀直入に話を切りだした。「サクラの両親・・・・・」
呟いたまま、カカシは両腕を組んで考え込む。
彼らとは、つい先日顔を合わせたばかりだ。
サクラの部屋で。
両親の顔を思い出すのと同時に、カカシの頭にそのときの状況が甦ってくる。
「ああ、サクラとチューしてたのを見られたからかー」
「すぐに気づけ!このあほたれ」
合点がいったというように手を叩くカカシを、火影は怒鳴りつけた。
「教職に就いているという立場を忘れるな」
「・・・はあ。でも、おでこに軽くしただけですよ。それ以上はまだやってません」
「まだ、じゃなくてずっと駄目なんだ!」
額に青筋を浮かばせながら言う火影に、カカシは口をつぐむ。
年齢を考えると、これ以上彼を興奮させるのは体に良くない。「有望な生徒によけいなちょっかいは出すな。お前ならもっと他に相手がいるだろう」
「そうなんですよね」
嘆息する火影にカカシは淡々と答えた。
頬をかく彼が見つめているのは、執務室の窓の外。
目は風に流される雲を追って動いている。
火影の諫言ちゃんと聞こえているのかも疑問だった。
「カカシ先生!」
カカシの家の戸口に立っていたサクラは、彼の姿が見えるなり駆け出した
勢いよく胸に飛び込んできたサクラをカカシは抱き留める。
ちらりと火影の顔が頭をかすめたが、これぐらいならナルトが相手でもしょっちゅうしていることだ。
サクラだけ特別ではない。「ごめんなさい。火影様に怒られたんでしょう。うちの両親がよけいなことを言ったから」
「ああ、平気、平気。火影様の小言はいつものことだから、気にしないでいいよ。でも・・・」
急に途切れた言葉に、サクラは顔を上げてカカシを見る。
「もううちには来るな。俺も行かないから」
突き放すことを言いながら、カカシは笑顔を絶やさない。
次にサクラの口から出る台詞は、聞かずとも分かる気がした。
「先生、私のこと嫌い?」
「そうじゃないけど、俺は先生だから」
話すうちにも、サクラの嗚咽が聞こえてくる。
「ナルトやサスケの家にしょっちゅう様子見に行ってるから、同じ感覚でサクラのところに寄ったけんだど、親御さんに心配かけて悪かったよ」
「・・・・・」
「明日からは、また前みたいに」
「なれないもん!」
サクラは無理矢理カカシの言葉を遮る。
「私、先生とずっと一緒にいたいもの。一分一秒でも長くいたいもの。先生、責任取ってよ」
カカシにしがみついたサクラはそのまま大きな声で泣きわめいた。感情のままに涙をこぼすサクラを見て、カカシは改めて彼女は子供なのだと思う。
暗部という特殊な場所に長い間いたせいで、こうした素直な反応には慣れていない。
我が儘な子供など抹殺したいと思うのに、サクラだと不思議と可愛いのは何故だろうか。
額に触れた温かな感触に、サクラの泣き声は急速にしぼんでいった。「・・・・先生、何でいつもおでこにキスするの」
「なんでだろうね」
微笑むカカシを、サクラは困惑気味に見つめる。
サクラの腕の力はとっくに緩んでいたが、カカシは彼女の体を抱きしめたままだ。
木枯らしの吹く日に、火の玉のような子供体温が離れがたい。
また、他にも理由があるのかもしれない。
「サクラ、秘密を守れる?」
「え」
「これあげる。毎日は無理だけど、一週間に一度くらいなら来ていいよ。なるべく目立たない格好してきてね」
カカシが差し出したのは、彼の家の鍵。
もし、彼がいないときにサクラがやってきても、戸口で待たれるよりは人目につかない。
自分で言いだしたことだが、深刻めいた話にサクラは唾を飲み込んだ。「・・・・火影様には忠告されたのよね」
「平気だって言ったじゃない。でも、誰にも内緒だよ。皆の前ではただの先生と生徒」
急に怖じ気づいたサクラに鍵を握らせると、カカシはにっこりと笑いかける。
「全部受け止めてくれるんでしょう」
あとがき??
カカシ先生、よく分からない人ですね。
本人もたぶん分かってない。
基本的に感情が希薄なので、取り敢えず笑っておけばいいかという人。
ただ、サクラは手放したくないなぁと漠然と思っている。
そんな感じ。教師と生徒は禁断恋愛だと忘れそうなので、初心に返ってみました。
ちなみに、TVで三代目が頑張っていたので、火影は彼になっています。
これを読むときは奥村愛子の『いっさいがっさい』を聴いてください。強制。(笑)
歌詞と内容は全然違うけど、イメージソングなもので。