ぽっちゃり天国 2
ホワイトデーを間近にひかえ、アクセサリーやバッグ等の売り場にはそこかしこにカップルの姿がある。
ラブラブな恋人同士、そして彼女へのプレゼントを店員に相談する男性達の間を縫うように進むサクラは、不機嫌そのものといった表情で品物を物色していた。
彼女は、ホワイトデーのお礼の品を探しているのだ。
とはいっても、彼女自身のものではない。
風邪で寝込んでいるカカシに頼まれた、彼がもらったチョコレートに対するお返しだ。「何で私が・・・・」
ぶつぶつと呟くサクラは、楽しげな男女を横目にさらに怒りのボルテージを上げていく。
金はカカシから十分に預かっていた。
相手が誰かは言わなかったが、サクラとしては聞きたくもないことだ。
「うんと高いもの買っちゃうから!!」
そうしてサクラが時間を掛けて選んだのは、プチダイヤの輝くハート型のペンダントとマシュマロのセットだった。
寝ているカカシを思い、サクラは『簡単v美味しいお粥の作り方』の本と材料を買い込んで彼の家に戻る。
合い鍵を使って扉を開けると、キッチンから灯りが漏れていた。
訝りながらキッチンに入ったサクラは、鍋を持って調理場に立つカカシと出くわす。「先生、起きていて大丈夫なの!?」
「んー、何か食べないと早く治らないかと思って・・・」
「私が今からお粥を作るわよ!先生はちゃんと寝てて」
ふらつくカカシから鍋を奪い取ると、サクラは彼の背中を寝室に向かってぐいぐいと押した。
「サクラってば、お粥なんて作ったことあるのー?」
「・・・・もちろんよ」
微妙な間を空けて答えたサクラは、『簡単v美味しいお粥の作り方』の入った足下の鞄を蹴り、カカシの視界から消す。「それで、頼んでいたものは?」
振り向きながら訊ねるカカシに、サクラはプレゼントの入った紙袋を押しつけた。
満面の笑みを浮かべたカカシは、紙袋を受け取ると同時にサクラの頭をポンと叩く。
「有難うー。じゃあ、はい、これ」
「?」
そのまま紙袋を押し返されたサクラは、怪訝な表情でカカシを見上げた。
「何?」
「だから、これはサクラのものなの」
さらりと答えたカカシに、サクラは目を見開く。「わ、私、先生にチョコレートなんてあげてないわよ!」
「今からお礼の品を渡しておけば、来年はくれるかなぁと思って」
笑いながら言うカカシに、サクラは開いた口が塞がらない。
面白くない気持ちで、必死に選んだプレゼント。
それが自分のものになるとは、まるで思っていなかった。「あの、物凄く、高いものを買っちゃったんだけど・・・・。お釣りはこれだけだし」
「来年が楽しみだなぁー」
青ざめた顔で小銭を見せるサクラに、カカシはさも楽しげに笑った。
サクラが調理を始めて数十分後。
「先生、お待たせー」の声に、カカシは目を開けた。
ベッドの傍らに座ったサクラは、盆に乗せた粥を匙でかき混ぜる。「腕によりを掛けて作ったからね。はい」
のそのそと上半身を起こしたカカシに、サクラは息を吹きかけて冷ました匙を持っていった。
「・・・やっぱり、あんまり食べたくないなぁ」
「元気が出ないわよ!」
力強い口調のサクラに対し、カカシは悪戯な笑みを浮かべる。
「じゃあ、サクラの口移しなら食べる」カカシはサクラが顔を真っ赤にして怒ると思ったのだが、彼女は意外に冷静だった。
「いいわよ」
カカシが驚く暇もなく、粥を口に含んだサクラはそのまま彼に顔を近づける。
予想外なのはそれだけでなく、粥には米の他に苺味のマシュマロが混ぜられていることが判明した。
唇を離したサクラは、何とも言えない表情のカカシににっこりと微笑んだ。
「リゾット味のキスとホットチョコレートのお礼。あとは、一人で全部食べてねv」
「・・・・・」カカシは無言のまま甘い香りのする粥の器を見つめる。
彼は甘い物はあまり好きではない。
だが、サクラのささやかな復讐である粥は、今後の彼女との関係の円滑化のために、避けては通れない道のようだった。
あとがき??
バレンタインデーに書いた話にリベンジを、と人様に言われて考えました。
うーん。マシュマロ入りお粥、どうだろう。マシュマロ味のキスは甘そうだな。