ぽっちゃり天国


その日の7班の任務は、とある民家の壁の塗装。
サクラが倒れたのは、壁のペンキを半分塗り終えたときのことだった。
地表にうつぶせになり、ぴくりともしないサクラに、7班の面々は慌てて駆け寄る。

「さ、サクラちゃん!!」
「おい、ナルト、揺らすな」
サクラの上半身を起こし、その顔色を窺ったカカシは彼女の額に手を当てた。
熱はなく、むしろ顔は蝋のように白い。
「シンナーの匂いにやられたのか?」
ペンキの缶を見やったカカシが怪訝な表情で呟いた直後、サクラの腹が大きな音を立てて鳴る。
それこそが、サクラの倒れた原因だった。

 

 

 

「いやーーー!!!絶対、嫌!!」
部屋の片隅に体を寄せ、カーテンにしがみついたサクラは鼓膜に響くようなキンキン声をあげた。
テーブルには、サクラの好きな料理ばかりが並んでいる。
普通ならば喜ぶべきことだが、ダイエット中のサクラにすれば拷問そのものだった。
「何だよー、サクラのために俺が丹精込めて美味しく作ったのに」
「馬鹿なこと言わないで!!早く家に帰してよ!」
半べそをかいたサクラはなるべく料理が目に映らないようにしながら叫ぶ。

サクラが目を覚ましたときには、すでにそこはカカシの自宅で、彼がキッチンから出てきたところだった。
「好きなだけ食べていいよ」
皿を持ってにっこりと笑ったカカシが、サクラには悪魔そのものに見えていた。

 

「人がダイエットしているのを知っていて、ひどい!」
「ひどいもへったくれもないよ。任務中に空腹で倒れたら仕事にならないだろ」
「もう倒れないし、みんなに迷惑もかけないわよ!だから家に帰して!!」
「・・・迷惑とかじゃなくて、サクラの体を純粋に心配してるんだけど。成長期にきちんと栄養をとらないと、後々体に弊害が」
「よけいなお世話なのよ!もう、放っておいて」
サクラが甲高い声で言うなり、カカシの顔色がにわかに曇る。
「そーいうこと言うんだ。へーー・・・・」

ゆらりと立ち上がったカカシは料理の乗った皿を脇に置いてサクラの肩を掴んだ。
驚いて身を引こうとしたサクラだが壁際なためそうもいかず、そのまま床に押し倒される。
「ギャーー!!!な、何するのよ!」
「強行手段」
皿の上の料理を咀嚼したカカシは、目を見開いているサクラと唇を合わせた。
どこをどうされたのか、体を動かせない上に顎を固定されていては拒むことは出来ない。
サクラが口内のものを飲み下したことを確認して顔を離すと、カカシは呆然とする彼女を見下ろしてにこやかに笑う。
「もっとして欲しい?それとも、自分で食べる?」
「た、食べる!!食べるからどいてよ!」

鼻歌を歌ってテーブルに戻るカカシを尻目に、サクラは両手を床につきがっくりと項垂れる。
衝撃のあまり、すぐには立ち直れない。
「わ、私のファーストキスが・・・・」
レモン味ということ噂は耳にしたが、リゾットの味のキスなど聞いたことがなかった。

 

 

 

「あれ、綺麗に食べたねぇ」
「やけくそよ!!」
今になって腹が立ってきたサクラは、乱暴な口調で言う。
だけれど、カカシはにこにこと微笑んで頷くだけだ。
「元気になったみたいで、良かった良かった」
「・・・・」
全く良くない、と思ったサクラだが次は何をされるか分からないという不安から口には出さない。
カカシの言うとおり、テーブルにあった料理はあらかたサクラが平らげていた。
量から考えて、リバウンドは必死だ。

「はい、これご褒美ねv」
とどめとばかりに甘い香りのするカップを渡され、サクラはテーブルに突っ伏したくなった。
「先生、私、本当にもうお腹がいっぱいで・・・・」
「サクラ、今日何の日か知ってる?」
「・・・2月14日」
さらりと答えてから、サクラははっとなる。
カップの中のホットチョコレートを凝視したあとに顔をあげると、意味ありげに微笑むカカシと目があった。

「これは義理チョコかしら。それとも・・・」
「んー、サクラの胸がもうちょっと成長してくれたら、本命になるかも」
「もう!!」
頬を膨らませるサクラに、カカシは明るい笑い声を立てる。
「でも、本当にもう少しふっくらとしていた方が女の子は魅力的だと思うよ。抱き心地もいいし」
「・・・・先生ってば、いやらしい」
「別に変な意味じゃないよ」
「ふーん」

苦笑するカカシを横目で睨みながら、サクラはカップの中身をすする。
彼女の顔が赤く染まって見えるのは、おそらくチョコレートが熱いせいだけではない。
からかわれていると知っていても、ダイエットの中止を心に誓ってしまうサクラだった。


あとがき??
バ、バレンタインっぽくない。というか、妙なエロさが・・・・。すみません。
私もカカシ先生の手料理が食べたい。口移しはごめんだが。


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