狼さんとその獲物と子羊たち 5


猟銃を持って木々の間を歩いていたときに、明るい花畑を見付けた。
しかし、彼の仕事は花とは無縁のものだ。
だから、早々に立ち去るつもりだった。
綺麗に咲く花をつんで輪っかを作っている、その狼さえ見付けなければ。

柔らかそうな桃色の髪に、理知的な緑の瞳。
整った毛並みを見れば、どこかの家で飼われているのだと一目で分かる。
だけれど、逃すにはあまりに惜しい獲物だった。
ここまで彼の好みにぴったりの動物は滅多にいないのだから。

 

 

 

「帰ったぞ」
丁度、学校から帰宅したばかりだったサスケは、兄のイタチを玄関で出迎えた。
そして、彼が小脇に抱えているものを見るなり、目を丸くする。
狼の耳と尻尾を生やした桃色の髪の少女だ。
「それは・・・・」
「写輪眼を使って掴まえた。今晩二人で食べるんだ。美味そうだろ」
「・・・」
絶句したサスケは声を出すことが出来ない。
慌てて確認すると、少女はぐったりと目をつぶっているが息はしていた。

「だ、駄目だ!食べるなんて、そんなこと、俺は嫌だ」
「サスケ?」
「これは俺が面倒を見る。だから手は出さないでくれ」
いつになく必死に訴えるサスケに、イタチは暫しの間考え込む。
可愛い弟の頼み。
少々おしい気もしたが、ブラコン兄としては聞かないわけにはいかなかった。

 

 

花畑で突然暴漢に襲われたサクラが目を覚ましたのは、暖かいベッドの上だ。
夢でも見たのかと半身を起こしたが、部屋の様子はいつもとまるで違う。
思わず涙目になったサクラは、近くにいるもう一つの気配にようやく気づく。

「大丈夫か?」
気遣わしげにサクラを覗き込む少年は、彼女の額を冷やしていた濡れタオルを持っていた。
だが、そのようなことは、今のサクラにはどうでもいいことだ。
黒髪の、今まで見たこともないような美少年。
「王子様、ゲットーーー!!!!」
絶叫し、サスケの首に手を回したサクラは彼をしっかりと掴まえる。
彼こそ、サクラが夢にまで見た最高の獲物だ。
本当ならば、カカシよりも彼のような人間に最初に出会うはずだった。

「おい、やめろ!」
しがみつくサクラの手を何とか振りほどこうともみ合っている最中、開いた扉にサスケは振り返る。
「サスケ、夕飯の支度・・・・・」
言いかけて、イタチはドアのノブを握ったまま動きを止めた。
不自然に自分達を凝視しているイタチに、サスケは今、どのような状況なのかを初めて理解する。
サクラの手首を掴んでベッドに組み敷いていては、誤解するなという方が難しい。
「ち、違う!!これは」
「食事は俺が用意する」
踵を返したイタチは、一言残して部屋から出ていった。
「避妊はしっかりしろよ」

 

真っ赤な顔で肩を震わせているサスケに首を傾げたあと、サクラはきょろきょろと辺りを見回す。
「カカシ先生は?」
サクラの口から漏れた名前に、振り向いたサスケは訝しげに眉を寄せた。
「・・・お前、一人しか運んで来なかったぞ」
「そう」

 

 

 

 

うちは兄弟は早くに両親を亡くし、二人きりで森の中に家を建てて暮らしている。
兄は猟銃で獲物を仕留めて商人に売り、弟は毎日学校へ通っていた。
わざわざ人里離れた不便な森で生活しているのは、彼らの血が受け継ぐ特異な能力のせいだ。
町の人間達と親しく出来なくとも、二人でいれば寂しくはない。
だが、兄のイタチは自分に万が一のことがあったとき、弟が一人きりになることが気がかりだった。

「俺がいない間、サスケの友達になって欲しいんだ」
イタチに真顔で見つめられ、サクラはきょとんとした顔になる。
ここ数日様子を窺っていたが、幸いサクラはサスケに懐き、彼も文句を言いながら彼女の世話をよくしていた。
イタチにしか見せない笑顔をサクラにも向けていることが、心を許している何よりの証拠だ。

「サスケくんもお兄さんも、私の大事な人よ。食べるつもりはないわ」
サクラは、今さら何を言うのかという表情でイタチを見ていた。
サクラの頭を撫でたイタチは、柔らかく微笑する。
彼女を気に入っているという点では、イタチもサスケと同様の心情だった。

 

 

そうして、穏やかな数日はあっという間に過ぎた。
カカシがうちはの家の朝食の席に押しかけてきたのは、サクラが彼らの家に滞在して5日目のことだ。
乱暴に叩かれた玄関の扉を開くと、鬼の形相をしたカカシが立っている。
自分の前にいるサスケをどかすと、カカシはずかずかと家の中へと上がり込み、目的の人物を見つけだした。

「サクラ!」
ハムをのせたパンをぱくついていたサクラは、その声に反応して耳を峙てる。
「・・・先生?」
「無事だったかーー!!」
サクラに駆け寄ったカカシは、パンに噛み付くサクラごと椅子から抱え上げた。
行方不明だったサクラを、寝ずの捜索の末にようやく発見したのだ。
彼女の体を思い切り抱きしめたあと、扉に直行しようとしたカカシの腕を何者かが掴む。
カカシに険しい視線を投げかけているのは、サクラの隣りで食事をしていたイタチだ。

「うちのサクラを、どこに連れ行くんですか?カカシさん」
「うちのサクラーー??」
イタチの手を勢いよく振り払ったカカシは、彼を睨み付ける。
「お前が俺のサクラを誘拐したんだろ!首輪が付いていたんだから、どこの家で飼っているかすぐ分かったのに」
「迷子の狼を保護しただけです」
誰かが引きちぎったと思われる首輪を見せながら主張するカカシに、イタチは悪びれもせずに答えた。
もちろん、イタチはサスケの担任をしているカカシの存在を知っていて、彼の家がある場所も分かっている。
だが、どうしても彼女が欲しかったのだから、仕方がないというのがイタチの言い分だ。

 

「せっかく来て頂いたのに申し訳ないですが、少し遅かったようですね。サクラはもう、うちはの者なんですよ」
自分をひたと見据えながら言うイタチに、カカシは声を詰まらせる。
「・・・どういう、意味だ」
「夜を共にしたということですよ。彼女の体には一生消えることのない印が残っています。カカシさんがまだ手を出していなかったとは、意外でしたけどね」
「・・・・・」
状況についていけないサスケとサクラは、固唾を呑んで二人の会話に聞き入っている。
もちろん、その内容については理解出来ていない。
「・・・サクラ」
「はい」
「イタチやサスケと、一緒に寝た?」
「うん。気持ちよかったよ」

ベッドがふかふかで暖かかったから、という意味なのだが、カカシの顔からは一気に血の気が引いていった。
「分かったでしょう。サクラは俺達の所有物です」
意地悪く笑うイタチに、カカシは項垂れたままサクラから手を離す。
今まで、大事に守り、慈しんできた存在。
それを横からかすめ取られた衝撃は計り知れない。

 

「・・・・って、ちょっと待て」
「イタタタッ、や、やめてよ!」
ぐいぐいと耳を引っ張られたサクラは涙目でカカシの顔を叩く。
サクラの頭の上にある耳が本物だと確認したカカシは、腕組みをしているイタチを鋭く睨んだ。
「お前、嘘をついたな」
「何のことです?」
「人間と交わると狼の耳と尻尾は無くなるんだよ。サクラはまだ子供だ」
憤るカカシに対し、イタチはくすくすと笑い声をたてた。
「あなたもご存じでしたか?」
「お前―!!」

カカシがイタチに向かってがなり立てる中、サスケは彼を指差しながらサクラに声をかける。
「サクラの言っていた「カカシ」は、やっぱりこいつのことだったのか」
「うん」
「じゃあ、今日はこいつと一緒に帰れ」
サスケの口から出た思いがけない言葉に、イタチは驚きに目を見張った。
「サスケ?」

 

いつもそばにいて見ていたから、嫌でも気がついた。
イタチやサスケがどんなに優しく接しても、サクラの顔が時折寂しげに曇るのを。
元いた場所に、戻りたいのだろう。
だけれど、サクラは自分から帰りたいとは言わない。
本人も自覚がないのかもしれなかった。

「サクラ、またいつでも戻ってこい。待ってるから」
「うん」
嬉しそうに笑ったサクラはそのままサスケに飛び付く。
面白くない気持ちで頬を膨らませるカカシだったが、サクラが手元に戻るならば暫しの我慢だ。
もちろん、うちは兄弟は二人ともサクラを諦めたわけではい。
今後もサクラの周りに出没してカカシの頭を悩ませることになるのだが、彼らに懐くサクラにとっては幸せな話だった。


あとがき??
本当はイタチの登場予定はありませんでした。もっとサク→サスでした。
どうしてこんな話に・・・・・??
サクラは、ナルトに釣られてカカシを「先生」と呼んでいるようです。
パラレルだとサスケがサクラに優しく出来て書きやすいなぁ〜〜。
今度、サクラにしつこく絡むサスケ(?)でも書いてみようか。年齢制限付き。
イタチ兄が最初に「サクラを食べる」って言ったのは大人向けの意味だったんですが、サスケはそのまま料理すると思ったようです。
ピュアだなぁ・・・。

ちなみに今回の力関係はこんな感じ。
イタチ視点・・・サスケ≧サクラ>カカシ
サスケ視点・・イタチ&サクラ>カカシ
カカシ視点・・・サクラ>サスケ>イタチ
サクラ視点・・・サスケ≧イタチ&カカシ

カカシ先生、不憫な・・・・。(涙)
ちなみにイタサスもイタサクも両方好きです。ラブv
という気持ちがよく表れた作品でした。終わり。
今回カカシ先生がこの作品の核心に触れる大事な台詞を言っているんですが、まぁ、いいでしょう。


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