狼さんとその獲物と子羊たち 7


イタチが自分をどう思うかと訊いてきたとき、サクラは迷わず「大好き」と答えた。
嘘をつく必要などなかったからだ。
そして嬉しそうなイタチを見た瞬間、ふと、思った。
カカシは今までそのような問いかけをしたことがない。

イタチがサクラの肩に手を置くと、カカシは嫌そうな顔をして二人を見ていた。
そして、サクラは憂鬱な気持ちでドーナツを眺める。
どうして訊ねてくれないのだろうか。
カカシが相手ならば、いつでも「一番好き」と答えることが出来るのに。

 

 

 

 

「カカシせんせーー」
仕事を終え、帰宅しようとしたカカシは門の前で生徒に呼び止められた。
「いつもわき目も振らず帰っちゃうけど、何か急ぎの用事でもあるの?」
「ねーー」
「たまには私達と遊んでよ!!」
数人の生徒に囲まれたカカシは、彼らを無理に振り切るわけにもいかずに立ち尽くす。
熱血教師のガイや真面目なイルカと違い、カカシの授業は生徒の意思を尊重したものだ。
つまり、彼らに勉学の意思がないと、課外授業と称して外で遊ばせてしまう。
おかげで教師達には評判が良くないが、生徒達の人気は高かった。

「じゃあ・・・、ちょっとだけね」
「わーーい」
生徒達の懇願に折れたカカシが仕方なく承諾すると、彼らは喜んで飛びついてくる。
広場を利用しての「かくれんぼ」や「鬼ごっこ」。
生徒達は楽しそうだったが、カカシの方は気が気ではない。
家では我が侭なお姫様がカカシの帰りを待っている。
彼女は一度つむじを曲げたら、なかなか機嫌を直してくれないのだ。

 

 

少しのつもりだったのだが、カカシが家についたときには日は暮れていた。
しかし、何故か窓から明かりは見えない。
嫌な予感がしていたが、カカシはそっと扉を開けて中に入っていく。
明かりをつけてすぐ真横にサクラが立っていたときは、悲鳴を上げそうだった。

「び、び、びっくりしたーー!!!なんで暗くしていたのさ」
「・・・・おかえりなさい」
カカシの質問には答えず、サクラは彼の顔を近づけてくんくんと匂いをかいでいる。
つい先ほどまで一緒にいたのだから当然だが、何人もの子供の匂いがはっきりとついていた。
サクラは面白くない気持ちで頬を膨らませる。

「臭い」
「えっ?」
「人間臭いのよ。あっち行って!」
「ちょっと、サクラ。遅くなったのは悪かったって」
「近寄らないでよ、嫌い!!」
「サクラーー」
自分に背を向けたサクラに、カカシは泣きそうな声を出す。
もちろん、その怒りが嫉妬からきているとは全く気づいていない。

「いつも一人にして悪いと思ってるよ。何でも欲しいもの買ってあげるから。新しいお洋服?それとも帽子や鞄??」
「いらない!!私が欲しいのは、そんなものじゃないわ!」
思わず声を荒げると、カカシはよほど驚いたのか、目を丸くしてサクラを見つめた。
「じゃあ、何?」
「・・・・」
改めて問われて、サクラは言葉につまる。

 

自分が本当に欲しいもの。
それは何だろうか。
答えは喉まで出掛かっているけれど、うまく表現できそうにない。
困りきった表情で自分を見ているカカシに、サクラは涙が出そうになる。
気まずい沈黙の中、扉を叩く音はカカシにもサクラにも天の助けのように聞こえた。

 

 

 

「何かあったのか。元気がないな」
「うん・・・」
べったりと張り付いたまま離れないサクラの額に、サスケは手をあてる。
「少し熱がある」
「うん」
「今日はもう寝た方がいい」
「うん」
優しい言葉の数々に、サクラは頷いて答える。
それでも、視線の先にいるのは彼ではなくカカシだ。

彼は今日獲れた兎の肉を裾分けにやってきたイタチと何か話し込んでいる。
いつもならば、サクラがイタチやサスケに抱きつけばすぐに目くじらを立てて飛んできた。
それが可笑しくて、嬉しくて、サクラはよけいに彼らにくっついていたのだ。

 

「そばにいて欲しいのは、誰だ?」
呟かれた声に、どきりとする。
見上げたサスケの瞳は静かで、サクラは落ち着かない気持ちで俯いた。
「サスケくんのこと、大好きよ」
「・・・・」
誤魔化すように笑ってみせると、サスケはため息と共にサクラの頭をポンッと叩く。
痛くはないはずなのに、心に錘が乗っかったようだ。

「本当よ。サスケくんが好き」
声に出して気づく。
だけれど、もっと好きな人がいる。
サスケの腕を握る掌に力を込め、サクラはもう彼を食べることは出来ないのだと思った。


あとがき??
何が何だか。
まさかサスケに助けられる日が来るとは思わなかったよ・・・。おおお。
中途半端な作品で申し訳ない。
駄文投票ランキング2位でした。
投票してくださった皆様、有難うございました!


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