パペット


サスケを待ち伏せるために、いのが7班の任地にやってくるのはいつものことだ。
そして、サクラへの嫌がらせも日常茶飯事。
カカシの持っているそれは、いのにとってサクラをからかうのに格好の材料だった。

 

「仕事は終わったー?あら、サクラってば随分と縮んじゃって」
「ハハハ。いのちゃんってば、毎回毎回。本物はあっちだってば」
「嫌だ、そっくりだから間違えちゃったわー」
笑い合うカカシといのを尻目に、サクラは額に怒りの青筋を立てる。
いのが言っているのは、カカシが後生大事に抱えている人形のことだ。
カカシの手作りだというそれは、サクラを知る人間が見れば、彼女の姿形を模しているのだとすぐに分かる。

「カカシ先生、いい加減その妙な人形を持ち歩くの、やめて!」
「えー、これ、結構よく出来てるでしょ。任務中も買い物中も食事中も、お風呂も一緒なんだよ。ちゃんと防水加工されているから」
笑いながら言うカカシに、サクラはついにぶち切れた。
「人形とお風呂になんて入らないでよー!!!」
「いや、ちゃんと服も脱げるようになってるし、イタタタッ」
ぽかぽかとサクラに叩かれながらも、人形を高い場所に抱えたカカシはそれを手放そうとしない。
カカシが始終サクラ人形を連れ歩いていることで、二人は出来ているという迷惑千万な噂が立っているのだ。
同じ班で行動しているナルトとサスケがそれを信じていないことが救いだが、サクラは元凶となるものを一刻も早く排除したかった。

 

 

 

草木も眠る丑三つ時、サクラは一階の両親の部屋を気にしながら家の外へと抜け出す。
目的は、サクラ人形の奪取。
日々気配を殺す練習を繰り返し、カカシが寝ている隙に住居に侵入して人形を奪う自信はあった。
念のため、覆面で正体を隠したサクラはカカシの住む建物を見上げてごくりと唾を飲み込む。
「いざ!」

用意した器具でカカシ宅のドアの開錠に成功したサクラは、そろそろと廊下を進んだ。
カカシのいるところに、人形がいる。
目指すは寝室だ。
それらしい扉を順番に開けていったサクラは、ついにその場所にたどり着いた。
人形と枕に並べて熟睡する上忍を見下ろし、サクラは小さくため息を付く。
「全く、こんなもの作ったりして・・・」
心の中でぼやきながら、サクラは元凶である人形を引っ張ろうと手を伸ばした。

 

練習したというだけあって、サクラの気配消しは完璧だ。
だが、それも素人を想定してのこと。
突然強い力で手首を握られたサクラは、思わず悲鳴を上げそうになった。
「・・・誰」
誰何するカカシの手元にはどこから取り出したのか、刃物がちらついている。
カーテンの隙間からもれる月明かりにもその煌めきはは明らかで、サクラは慌てて覆面を取り払った。

「怪しい者じゃないわ!私よ、サクラ。先生、落ち着いて」
夜半の侵入者が怪しくないはずがないが、サクラは必死に弁明を始める。
喋り続けるサクラを据わった目で見ていたカカシは、徐々に表情を和らげていった。
「サクラ?」
しっかりと頷いたサクラを、カカシは満面の笑みで抱きしめる。
「人形が成長して大きくなるなんて、知らなかったなぁ」
「ギャーー!!何、寝ぼけてるのよ!!!本物、本物よ!先生の人形はあっち!」

 

 

テーブルには急須と二つの湯飲みが置かれ、パジャマ姿のカカシと忍び服のサクラが向かい合わせに座っている。

「・・・サクラ、不法侵入は立派な犯罪なのよ。俺は生徒を犯罪者にしたくないんだけど」
「分かってるわよ」
頬を膨らませたサクラはぷいと顔を背けた。
「カカシ先生がいけないのよ」
「俺?」
「そうよ。あんな人形なんかを可愛がったりして」
「・・・・」
そっぽを向くサクラを見つめながら、カカシは唐突に手を叩いた。

「何だ、そうだったのか!いやー、俺が悪かったよ」
「・・・え?」
「サクラに寂しい思いをさせていたなんて、俺は馬鹿だなぁ」
「ええ?」
「もう離さないから、心配しないで」
湯飲みを持つサクラの手を、カカシはその上から握り締める。
きらきらと瞳を輝かせるカカシに、サクラは何故だか非常に嫌な予感がした。

 

 

 

「あらー、お二人さん、今日もラブラブねー」
「ハハハ。いのちゃんってば、からかわないでよ。サクラは恥ずかしがり屋なんだから」
「・・・・」
カカシに肩を抱かれたサクラはげんなりとした顔で俯く。
サクラが人形相手に嫉妬していた、と勘違いして以来、カカシはサクラにべったりだ。
任務中のみならず、サクラの行く場所にどこでも付いて来る。
これならば自分に似た人形を持ち歩かれた方がずっとマシだった。

「今夜からは一緒にお風呂も入ろうねv」
「入りません!!!」
目くじらを立てるサクラに、カカシは小声で耳打ちをする。
「不法侵入がばれたら、半年は監獄入りだよ。木ノ葉隠れの里は犯罪者に容赦ないから」
言葉に詰まったサクラに対し、いのがさらに追い討ちを掛ける。

「サスケくん、任務終わったんでしょー。邪魔なサクラにはカカシ先生が付いているし、私達は一緒にお茶でも飲んで帰りましょう」
「・・・行かない」
「またまたー、照れ屋なんだからーー」
すたすたと歩くサスケにいのは無理矢理くっついていた。
握り拳を作ったサクラは、傍らのカカシを殴ることをすんでの所で思いとどまっている状況だ。
この上、傷害罪などと騒がれたらたまったものではない。
それまで様子を傍観していたナルトは、いの達の姿が見えなくなるのと同時にカカシの上着の裾を引っ張った。

「ねぇねぇ、カカシ先生。あのサクラちゃんにそっくりの人形、いらないなら俺に頂戴」
「あー、あれは散々使ったからねぇ。俺専用だし。作り方なら教えてやるよ」
にこやかに応えるカカシに、サクラはたまらず両手を天に向かって突き上げる。
「もう、いい加減にして!!!」


あとがき??
カムイさんのサイトの、サクラ人形を作るカカシ先生のイラストを見て書きたくなりました。
よって、カムイさんに捧げます。
へこんでいるときに、いろいろ応援メッセージを有難うございました。

「パペット」は操り人形の意味です。「マペット」と続けたくなる。牛さん、蛙さん・・・・。
好きな女の子に似せて作った人形を持ち歩くカカシ先生は、『赤ずきんチャチャ』のセラヴィー先生がモデルです。
ちなみに、原作でのカカシ宅の間取りは忘れてください。(^_^;)
カカシ先生にいいように操られているサクラ嬢の話でした。


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