ミニサクラ
玄関のチャイムをしつこく鳴らしたが、住人は出てこなかった。
両親の旅行中、サクラが一人で留守を預かっていることを知っているカカシはしきりに首を傾げている。
「おかしいなぁ、買い物か?まさか中で倒れているとかじゃないよな」
自分の言葉で急に不安になったカカシは、さっそく扉のピッキングを試みる。
上忍のカカシがその気になれば、一般家庭の玄関の鍵を開けることなどわけない。
ただ、見つかれば家宅侵入の罪に問われるだけだ。「サクラ、無事かーー」
難なく解錠に成功したカカシは呼び掛けながら部屋の内部まで上がり込む。
無人かと思われていた春野家。
そこには、返事はなくとも人の気配が確かにあった。
「・・・・何、あれ」
「隠し子?」
くの一達のひそひそ話がしんとした部屋に響いている。
上忍専用控え室に入るなり、カカシは仲間達の注目を一身に集めていた。
だが、彼の身なりは普段と同じで、特別奇抜な行動を取ったわけでもない。
皆が注視しているのは、カカシが手を引いて歩いている桃色の髪の小さな女の子だ。
訝しげな視線を気にせずカカシが指定の席に着くと、さっそくアスマが彼に近づいた。「誰なんだ、それは」
「・・・・サクラ」
俯きかげんで呟いたカカシに、アスマはその子供をじっと見つめる。
サクラというのはカカシの元生徒で、現在彼と交際中の恋人の名前だが年齢は15のはずだ。
何かの術かと思ったが、きょろきょろと落ち着かない様子で周りを見回しているのは、どう見てもただの幼児だった。
「それで、何がどーしてこうなったんだ」
「知らないよ。サクラの家に遊びに行ったらこの子がいた」
「・・・・別人じゃないのか」
「だって、他人のそら似にしては瓜二つだろ!それにサクラの家に一人でいたわけだし。ただでさえロリコン上忍とか十年前から目を付けていたとか教師の権力を使って無理矢理手込めにしたとか、謂われのない中傷を受けているのに。どうすればいいんだよ」
思い詰めた表情で話していたカカシはその場に泣き崩れる。
「全部本当のことじゃないか」
「・・・・・何か言った?」
「いいや」
首を振ったアスマは屈んで子供と目線を合わせた。
柔らかな桃色の髪につり目がちの瞳、手にはテディベアを抱えている。
歳は三つか四つ。
少女は口を引き結び、上目遣いにアスマを見つめていた。「確かに顔はサクラにそっくりだな」
「だから本人なんだよ!何で体が縮んだのか、俺は火影様に理由を考えてもらうためこの場所に・・・」
「でも、瞳の色がエメラルドじゃなくてサファイアだ」
涙ながらに語るカカシに構わず、アスマは口を挟む。
顔を上げたカカシの目からはすっかり涙が引いていた。
「嘘!??」
「嘘をついてどうする」
アスマを押しのけて子供の顔を覗き込んだカカシは、確かにその瞳が青いことを確認した。
「これって、どういう・・・・」
「カカシ先生――!!!」
大音声と共に出入り口の扉が乱暴に開かれ、カカシは体を硬直させる。
恐る恐る首を後ろへ向けると、鬼の形相をしたサクラがカカシを睨みつけていた。
「ちょっと、うちの子を誘拐するなんてどういうことよ!!!ベランダで洗濯物を干している間にいなくなったから、こっちは胸がつぶれそうなほど心配したのよ!!」
「どうしてここに?」
「目撃者がいたから。マスクをした怪しい忍びが子供を連れ回していたって聞いてピンときたの」
アスマの質問に答えながら、サクラはずかずかと子供に向かって歩いてくる。「怖かったねー、モモちゃん。変なおじちゃんに連れて行かれて。こっちにおいで」
声音を一変させたサクラが優しく手招きすると、子供はすぐに彼女の腕の中に飛び込んでいった。
こうして並ぶと、二人がますます同じ顔だということがはっきりする。
子供の登場に混乱したカカシがとっさにサクラ本人だと勘違いしたのも分かる気がした。
残る謎はサクラと瓜二つの子供の正体だ。「それで、いつ生んだんだ?」
煙草の火を消したアスマは未だ呆然としているカカシの代わりに訊ねた。
怪訝な表情でアスマを見たサクラは、その意味に気づくなり真っ赤な顔で声を張り上げる。
「わ、私の子じゃないわよ!!従姉の子供を預かっていたの!モモちゃんの母親はこの建物の下で待ってるわよ」
ひと騒動あったものの、子供は無事サクラの従姉である女性に手を引かれて帰っていった。
遠ざかる後ろ姿をカカシは名残惜しそうに見つめている。「可愛かったなぁ・・・モモちゃん」
「カカシ先生、小さい子供苦手だって言ってなかった?だからモモちゃんが来ること黙っていたんだけど」
「サクラと同じ顔なら話は別だよ―」
カカシはにこにこと笑って傍らを見る。
「サクラ、やっぱり最初の子供は女の子にしようねv」
「は?」
あとがき??
勘違いカカシ先生の話。冷静な突っ込みを入れるアスマ先生が好きです。
うちのカカシ先生はサクラが絡むとお馬鹿になります。ごめんなさい。
ちなみにモモちゃんが素直にカカシ先生にくっついてきたのは彼の顔が好みだったからです。面食いなんだな。