それから
「カカシ先生――!」
「うわっ」
背後からナルトに突進されたカカシはそのまま前方に倒れそうになるが、既の所で踏みとどまる。
「お前なー、いつも突然抱きついてくるのやめろよ」
「駄目?」
「駄目。男に引っ付かれても全然嬉しくないし」
さも不満げに言うカカシはナルトの手を引き剥がしながら、サクラへと顔を向ける。「女の子のサクラならいつでも大歓迎だよ。ほら」
「・・・・それは命令ですか」
両手を広げて促すカカシに、サクラは冷ややかな眼差しで訊ねる。
「え、いや、自主的な行動として」
「任務が終わったのなら、帰ります」
困ったように頬をかいたカカシを一瞥すると、サクラはくるりと踵を返した。
「あ、待って、サクラちゃん。一緒に帰ろう」
駆け出したナルトはサクラに追いつくと、振り向いてカカシに手を振る。任務中も任務のあとも、サクラはカカシに対して素っ気無い態度を崩さない。
カカシと顔を合わせてすぐに懐いたナルトとは正反対だった。
「あんた、よく先生に飛びつけるわね」
「サクラちゃん、カカシ先生のこと嫌いなの」
「嫌いじゃないけど、好きでもない」
不思議そうに訊ねるナルトに、サクラは淡々と答える。
「どんな顔しているのか分からないし、自分のことも何一つ話さない。あんな得体の知れない人を同じ班の仲間だなんて思えないわ。中忍のイルカ先生の方が真面目で尊敬できたもの」「確かに何を考えているかは俺もよく分からないけどー・・・」
ナルトは考えるように目線をあげて言葉を続ける。
「カカシ先生はいい人だよ」
「何でそう思うのよ」
訝しげに問うサクラに、ナルトはにこーっと笑う。
「勘」
ナルトと別れてすぐ、降り出した雨にサクラは近くの花屋に飛び込んだ。
折り良く店番をしていたいのは、サクラに傘を貸し出した。「ちゃんとあとで返しなさいよねー」
「分かってるわよ!」
喧嘩口調のいのに応えながら、サクラはピンクの花柄の傘を開いて外へと出て行く。
雨はまだ本降りだったが、サクラの家はここから目と鼻の先だ。
傘があれば、そう濡れずに自宅までたどり着けるだろう。小走りに路地を抜けようとしたサクラは、視界の隅に何かを留め、振り返る。
電信柱の陰にしゃがみ込んだ人。
遠目だが、白髪のその人物は間違いなくサクラの担任だった。
帰路を急ぐ人々が通り過ぎる中、サクラは気配を消して様子を窺う。
「俺んち、もう沢山犬いるから世話できないんだ。ごめんなー」
傘を差したカカシが話しかけているのは、地面に置かれた段ボール箱だ。
サクラの目では確認できないが、何か動物の耳が見える。
捨て犬か捨て猫に話しかけているようだった。
「いい人に拾われろよ」
立ち上がったカカシは、数歩も行かないうちに戻ってくる。「これ、やる」
カカシは自分の持っていた傘を動物の入った段ボール箱にかざした。
これで、一時といえども雨露は凌げる。
再び歩き始めたカカシだが、やはり足はすぐに止まった。
腕組みをして暫く考えたあと、もう一度動物のいる段ボール箱の前で屈み込む。
「お前さー、忍犬になれるか?修行、厳しいけど」カカシに抱えあげられた仔犬は、もちろんカカシの言葉を理解できず「キャンキャン」と吠えている。
だがそれは非難の声ではなく、喜びの歓声のようだった。
「そっか、うちの子になるか」
仔犬を抱きしめて笑うカカシは、拾われた犬よりも嬉しそうに見えた。
「うわ!」
翌朝、任務地へとやってきたカカシはさっそく後ろから誰かに抱きつかれる。
7班の下忍でこのようなことをするのは一人しかいない。
「ナルト!!お前、いい加減に・・・・」
振り向くなり、カカシは目を丸くして彼女を見つめた。
「サクラ?」
「カカシ先生、おはようございます!」
唖然とするカカシに、サクラはにっこりと笑って挨拶をする。
サクラが体を離してナルト達のいる方へと走っていったあとも、カカシはまだ呆然と立ち尽くしていた。「サクラちゃん、先生のこと気に入らなかったんじゃないの?」
「別に、普通」
こそこそと耳打ちするナルトに、サクラはくすりと笑う。
「あんたの勘もたまには当たるのね」
あとがき??
それからというもの、カカシ先生に懐いたサクラでした。
カカシ先生はマスクと共にガードを作って周りに本心を隠している感じなので、サクラも最初から信用しないかと思って。
カカシ先生に抱きつけるナルトは羨ましいです。(笑)
極悪人と言われている人でも、動物や子供好きだと聞くと本当はいい人なのではと思えてしまう、気がする。