てでぃ 1


「そうだ。先生のお嫁さんになればいいんだわ」

掌を打ち合わせて言うサクラに、カカシは愛読書から目を離した。
カカシの家に上がり込んだサクラは、いつものように勝手に冷蔵庫からジュースを取り出してくつろいでいる。
「何の話さ」
「門限の話よ。門限。私ももう16だっていうのに、門限が17時って、あんまりよ!」
「まぁ・・・、そうかもね」
怒りの滲むサクラの言葉に、カカシは適当に相槌を打つ。

治安の悪かった昔に比べ、今は10歳前後の子供でも夜道を普通にうろついていた。
だが、サクラの父はしつけに厳しく、彼女の帰宅が17時を1分でも過ぎると一週間外出禁止になるそうだ。
任務で遅くなる場合でも、前もって父に居場所と連絡先を教えることになっている。

 

「だから、先生と結婚すればもう保護者の必要はないし、時間を気にせず外を出歩けるでしょ」
「それはそうだけど、でも・・・」
「そうよね!先生も同じ気持ちよね」
続くカカシの言葉を遮ると、満足げに頷いた。
「じゃあ、話をつけてくるから!!」
「え、ちょっと」
バッグを持ったサクラはカカシを振り返ることなく一目散に玄関へと向かう。
思い込んだら一直線にその方向へ進むのは、下忍の頃からのサクラの特徴だ。
それは時として長所にも短所にもなりえる。

扉の閉まる音を聞きながら、ソファーの腰掛けるカカシは深々とため息を付く。
「・・・俺達、いつからそんな関係に」
カカシの呟きは実に深刻な問題だった。

 

 

 

「本当に何もないの」
「ないよ」
「本当に本当―?」
行き付けの飲み屋で出くわした紅は、カカシの話を聞いて楽しげに笑っている。
「サクラちゃん、毎日のように遊びに来てたんでしょ。若くて健康で可愛いし、あんたが今まで手を出さなかったなんて信じられないわ」
「生徒の延長だよ。気づくといつもいるし、妹とか親戚の子とか、そんな感じで見てたんだな」
日本酒の入ったグラスを見つめながら、カカシは静かに言葉を続ける。

「実は日曜日にサクラの家に挨拶に行くことになってる」
「・・・・何にもないんじゃなかったの」
「ないよ!俺だって行きたくないさ!!でも、サクラが泣いて頼むから俺は・・・・」
段々と声の力を小さくしていったカカシは、最後には何故か涙目になっていた。
「問題は門限を遅くすることだよ。そうすれば話を大きくしなくてすむ、っていうか結婚なんてそう簡単に決まるわけがない」
「カカシさ、サクラのお父さんって、どんな人か知ってる?」
紅の唐突な質問に、カカシは首を横に振って答える。
「山で遭遇した野生の熊をね、術を使わず巴投げで倒したって評判なのよ。腕力だけならカカシより全然強いと思うわ」
「・・・・へぇ」
「サクラがどんな紹介の仕方をするか分からないけど、いきなり殴れたりしないように気を付けてね。骨折れるから」

 

 

逃げ出したい。
カカシはこのとき心からそう思った。


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