ずるい大人 2
夕方の商店街を、カカシは紅と連れだって歩いていた。
カカシが両手に持っているのは、今夜の夕食の材料だ。
とはいっても、自分が食べるものではない。
「イルカ先生との仲は順調なのー?」
「うん。昨日もお邪魔したし、良い感じよ。男の人を落とすには手料理がいいって本当なのね」
うふふっと少女めいた笑いをもらす紅を、カカシは半眼で見つめている。
今日もこれから彼の家に向かうらしいが、カカシがその買い出しに付き合い、荷物持ちまでしているのは報告書を書く手伝いをしてもらったからだ。
面倒なことを先延ばしにする性格のカカシは、いつも提出期限のぎりぎりに苦しむことになってしまう。「ねぇ、イルカ先生のどこがいいの?頭の中はナルトのことばっかりだし、真面目すぎて融通効かないし、俺達より下の中忍だよ」
カカシは心底不思議に思いながら訊ねる。
その美貌と均整の取れた体から、紅は木ノ葉隠れの里で絶大な人気を誇るくの一だ。
カカシの目から見て、どうもぱっとしない平凡忍者のイルカに惚れる理由が分からない。
「可愛いところ。私が近づくとすぐ赤くなって俯いちゃうところがいいの」
「・・・・ふーん」
カカシの理解の範疇を超えた答えだったが、好みは人それぞれだ。
他者が口出しすることではない。
「カカシは?この頃、浮いた話聞かないけど」
「好きな人ならいる。でも片思いなの」
頭をかきながら言うカカシを、紅はさも意外だというような表情で見た。
「何?」
「片思いなんて、似合わない。気になる女がいたらすぐに手を出す男だと思ってた」
「手は出したよ。でも、告白していないだけ」
「あ、そう」
すでに興味を失ったのか、紅は飾り窓の中の服を眺めながら相槌を打つ。
「顔を見ると、つい茶化しちゃうんだよねぇ。本気なんだけどさー」
一人で喋り続けるカカシは、紅の方へと顔を向けるなりぎくりとして動きを止めた。紅が気にしていたブティックから出てきた、一人の少女。
片手に店のロゴの入った紙袋を持つ彼女はカカシ達をじっと見据えている。
「あら、サクラ、買い物?」
複雑な表情で佇むサクラに近づいた紅は、にこにこ顔で彼女に話しかけた。
「・・・デートですか?」
「そうなの。これから彼の家で一緒に夕食作るのよ」
「え、ちょ、ちょっと」
「実はずっと前からラブラブなの!みんなには内緒ね」
何故か狼狽しているカカシの腕に自分の手を絡めると、紅は楽しげに笑う。
もちろんその気は全くないが、ほんの遊び心だ。
「そうなんですか」
紅に釣られて、にっこりと微笑むサクラにカカシはさらに顔を強張らせた。「ああ、あの、サクラ・・・」
カカシが何か言葉を発しようとした瞬間だった。
足を肩幅に開き、片足を引いて軽く腰を落としたサクラは、見事な右ストレートをカカシの脇腹に命中させる。
非力なサクラのパンチだとしても、かなりのダメージだ。
「最低!!」
握り拳のまま叫んだサクラは、目を丸くして自分を見ている往来の人々を気にせず駆け出していった。
紅は人混みに紛れて消えたサクラから、足元で蹲るカカシへと視線を移す。「・・・・あれ、もしかして、片思いの彼女?」
腹を抱えて呻いていたカカシは、やがて手で顔を隠してしくしくと泣き始める。
「ひどすぎる」
漏れ聞こえる声は悲痛な響きを持ち、紅の言葉が図星だったことを伝えている。
これほど打ち拉がれるカカシを見たのは初めてで、紅はどう声を掛けたらいいのか分からなかった。
「え、カカシ先生とサクラが!!!」
紅の手作りの金平牛蒡を頬張っていたイルカは、話を聞くなり驚きに目を見張った。
向かいの席で茶をすする紅は、静かに頷いている。
「片思いって言ってたけど、サクラのあの様子だと彼女の方も好きみたいね」
「でも、教師と生徒の恋愛は御法度のはず・・・」
いやに冷静に話し続ける紅に、イルカは困惑気味に口を挟む。
「野暮なこと言ってると、女の人にもてませんよ。イルカ先生」
「・・・・」そのまま黙り込んだイルカは、思案顔で食事を続けている。
怒ったのだろうかと心配になった紅だが、味噌汁を飲み終え、箸を置いたイルカはおずおずと喋り出した。
「あの、カカシ先生がサクラのことを好きって、本当に本当なんですか?」
「・・・・は?」
「いえ、前々から思っていたんですけど、カカシ先生と紅先生はよく一緒にいるし、何でも話してるみたいだし、同じ上忍同士だし・・・・みんながお似合いって言っているから・・・実際のところ二人の関係はどうなってるのかと」
消え入りそうな声で呟くイルカを見つめ、紅は何とも言えない気持ちになった。
あれほど大事にしている生徒の行く末よりも、カカシと紅の間柄について考えているイルカ。
しかも、以前から気になっていたらしい。
どうやら期待を持って良さそうだと思った紅は、嬉しそうに笑った。「イルカ先生、実は私、今まで仕事優先の生活だったから、料理はあんまりしたことがなかったんです」
「はぁ・・・」
「私の愛情たっぷりの手料理を食べた男の人は、目の前にいる中忍の先生が初めてですよ」
あとがき??
カカシ先生達はどうなったんだろう??
あとはご想像にお任せします。
サクラも先生のことが気になっているようだし、たぶんハッピーエンドです。わたくし、紅先生のお相手はこだわり無いので、アスマ先生でもイルカ先生でも可だったりします。
皆さんのご意見を聞いたら、アスマ派とイルカ派の数が微妙だったので、久々にイルカ先生にしてみました。
しかし、どちらも捨てがたい・・・・・。
イルカ先生は「カカシさん」と呼んでいた気がしますが、あえて「カカシ先生」。そんな親しいように見えなかったんだもの。
うちのナルトは可愛い顔に裏があるけど、イルカ先生はそのまま可愛い人です。
付き合い始めなので遠慮があるというか、敬語の二人でした。