カカシ先生のアイス
じりじりと照りつける太陽が、道々を行く人の体力を容赦なく奪い取っていく。
ナルトはいつも羽織っている上着を小脇に抱えていたが、それでも汗は止めどなく流れてきた。
5月というのに、30度以上まで気温が上昇している。
さる屋敷での雑用任務を終えた7班は、疲労のために重い足取り帰路を歩いていた。
「・・・・見ている方が暑いんだけど」
「本当に」
話すことすら億劫で、ナルトとサクラはその視線で言いたいことを伝えあった。
彼らの見る方向にいるのは、愛読書を読みながら歩くカカシだ。
彼は忍びの証である装束をいつも通りきっちりと着ている。
もちろん、口元のマスクもそのまま。
それなのに、およそ暑さとは無縁の涼しい表情でカカシは読書に没頭していた。「変温動物なのよ。きっと」
サクラの呟きにナルトも、その隣りにいるサスケも頷いて同意を示す。
汗一つかかないカカシの横顔を見ていると、本当にそう思えてくるから不思議だ。
マスクの下の素顔といい、その素性といい、長い間共に行動しているというのにカカシについて何も知らない下忍達だった。
「・・・・食べたい」
解散地点まであと少しという場所まで来たとき、先頭を歩いていたナルトが唐突に立ち止まる。
すぐ後ろにいた三人は、彼と同じように歩みを止めた。
「え?」
「アイス食べたい!!先生、買って!!!」
振り向いたナルトは、とある店先を指差しながら大きな声で主張し始める。
彼の示す駄菓子屋には、通行人の見える位置に『アイスクリーム』の冷凍庫があった。
「食べたい」と繰り返すナルトを見たあとに、カカシは傍らをちらりと見る。
「サクラも食べたいの?」
「・・・うん」
頬を伝う汗をハンドタオルでぬぐったサクラは素直に首を縦に動かす。
ナルトのように子供じみたねだり方はできないが、その意見には諸手を挙げて賛同したい気持ちだ。
「サスケはー?」
カカシの問いかけに、サスケは何も言わずに彼の瞳を見据える。
皆と同じように汗を流す彼の顔を見れば、何を言いたいかはおのずと伝わった。
「そうね・・・、お前らにはこの間“一楽”でおごってもらったし、いいよ。一個ずつな」
「わーい!」
「わーい」
「・・・・」
元気に喜びを表現するナルトとサクラを尻目に、サスケはすたすたと冷凍庫へ向かう。
あれこれ言い合いながら真剣にアイスを選ぶ三人を見つめ、カカシは自然と顔を綻ばせていた。
「俺、これねー」
ナルトは棒状になったソーダ味のアイスを嬉しそうに口に含む。
サスケはイチゴのアイス最中。
「カカシ先生は?」
自分用のソフトクリームを持つサクラは、レジに向かうカカシに訊ねる。
「俺、甘いの苦手だし。少しで十分だから」
「えー?」
会計をすませたカカシは、店先で並んで待つ下忍達ににっこりと笑いかけた。「サクラ、ちょっとこっち来て」
近づいてきたサクラに顔を寄せたカカシは、その右手にあるソフトクリームをぱくりと食べる。
自分のすぐ間近にあるカカシの顔に、サクラはぎょっとして立ちすくんだ。
以前、“一楽”で見ることを失敗したカカシの素顔。
まさか、こうも簡単に自分達に晒すとは思っていなかった。
ナルトとサスケも、サクラと同じように目を丸くしている。「わ、私のアイス・・・・」
「いらないなら、俺が引き受けるよ」
口元の布を戻しながら言うカカシに、サクラは顔を真っ赤にして反発する。
「食べるわよ。私が選んだんだもの」
「そう?じゃあ、もうちょっともらおうかな」
「あげない!」
サクラはカカシに背を向けてアイスをかばうような仕草をした。
その顔は赤いままだ。
原因は、垣間見たカカシの素顔が意外に好みのタイプだったからか、照りつける灼熱の太陽のせいか、自分でも分からない。
「暑いな・・・」
「暑いよね・・・」
二人の姿を傍観しながら、周りの気温が2、3度上昇したような気がしたサスケとナルトだった。
あとがき??
日記に書いたものにいろいろ付け足しました。
7班が好きです。
サクラのアイスを選んで食べてるあたり、カカシ先生らしいと思いました。