女王様


「サクラー、これあげる」
靴を脱いであがりこんだサクラに、カカシは透明の小瓶を渡す。
中に入っているのは、水色のマニキュアだ。
「何、これ?どうして先生の家にこんなものあるの」
「前の彼女の忘れ物・・・」
近くにあった花瓶を手に持ったサクラを見て、カカシは慌てて言い換える。
「サクラのために買ったんだよ。もうすぐ夏だし、寒色系の色も涼しそうでいいかと思って」
「・・・・ふーん」

取り敢えず、花瓶でカカシの頭を殴ることを止めたサクラは大人しくそのマニキュアを受け取った。
まだ怪訝な表情だが、疑えばきりがない。
交際を始めたばかりで破局というのは、サクラにしても避けたい事態だった。

 

 

 

「あれ、さっそく付けてるの?」
「うん」
テーブルに菓子の皿を並べるカカシを気にせず、サクラは床に座り込んで作業に没頭している。
サクラに歩み寄ったカカシは屈んで様子を見たが、所々色が爪をはみ出していた。
刷毛を手に四苦八苦しているサクラに、カカシは思わず含み笑いをもらす。

「サクラってば、ぶっきーだねぇー」
「違うわよ!先生が見てるから、き・・・」
急に言葉を止めたサクラに、カカシはにやりと笑った。
「緊張する?」
「うるさい!!どうせ不器用よ」
途中で放り出そうとした刷毛ごと、カカシはサクラの手を掴んだ。
「貸して。やってあげる」

 

自分で言い出しただけのことはあり、カカシは手早く全部の爪を水色に変えていく。
それに比例して、サクラの心もどんどんブルーになっていくような気がした。
「・・・・前の人にもやってあげてたんだ」
「前の人なんて知らないよー」
塗りおえた爪を確認したカカシは、サクラから手を放してにっこりと笑う。
「はい、出来た。可愛いv」
サクラが用意してあった別の色のマニキュアも使い、爪にお花の模様が出来ている。
サクラにとっては不本意だが、カカシが彼女よりも器用だというのは、本当のようだった。

「サクラ、おでこ可愛いよね」
「え?」
サクラが顔を上げるよりも先に、カカシはその額に口づける。
頭を混乱させたサクラが何か言葉を発しようとしたときには、背中が床に接していた。
真上にあるのは、蛍光灯の明かりとその陰になるカカシの顔。
両手は万歳をするように頭上にある。
「まだ爪、乾いてないから暴れないでね」
「え、え、ちょっと!」
唖然とするサクラに構わず、カカシは彼女の唇を塞いだ。

自分は床に押し倒された。
何やら、服の中に誰かの手が入り込んでいる。
抵抗出来ないのは、せっかく塗り終えたマニキュアが、まだ乾いていないから。

 

 

「って、何、勝手なことしてるのよー!!!」
状況を把握するなり、サクラは勢いに任せてカカシの横面をはり倒した。
もちろん、上忍ならば簡単に避けられる攻撃だが、カカシは律儀に頬を押さえている。
わざと避けなかったのか、完全に油断をしていたのか、定かではない。

「先生、まさかこれが目的で私にマニキュアくれたの」
「いや、そういうわけじゃないけど、サクラとの距離が近いし、何かいい匂いがするし、サクラの手がちっちゃくて可愛いし、柔らかいし、何となく・・・」
言い訳をしながら、カカシは上目遣いでサクラの様子を窺う。
「怒った?」
心配げに自分を見つめるカカシにサクラは口をつぐんだ。
怒るよりも、突然のことに驚いたのだが、いちいち説明するのも気恥ずかしい。

 

「塗り直し!!」
カカシから顔を背けると、サクラは右手を彼に向かって差し出した。
服のどこかに付いたのか、色の乾いていなかった部分の爪がぎざぎざになっている。
「それと、他の人の爪は塗らないこと!」
「はい」
返事をしてから、カカシは彼女を見ながらおずおずと訊ねる。
「えーと、またはずみでチューとかしたくなったら・・・」
「根性で我慢して」
つんとした口調で答えるサクラに、カカシは複雑な表情で頷く。
「ラジャー」


あとがき??
サクラが女王様だったら、カカシが下僕でしょうか。(笑)
何というか、いい年した男の人が、ちっさい女の子に逆らえない構図が好きみたいです。
見返りはあるんですが。


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