白衣の天使


カカシは努めて平静を装っていたが、下忍達全員が感じていた。
近頃、彼の様子がどこか変だと。
話しかけても上の空のことが多く、時たま苦しげな表情で屈み込んでいる。
食欲もあまりない。
日に日にやつれていくように見える彼に、その日サクラはついに口火を切った。

 

 

「カカシ先生!」
「んー」
「病院には、行ったの?」
「え」
カカシが振り向くと、服の裾を掴んだサクラが心細げに彼を見上げている。
「・・・何、それ」
「だって、何だか元気ないし・・・・顔色も悪いわ」
口籠もりながら答えるサクラに、カカシは困ったように笑った。
「大丈夫だよ。ただちょっと心配事があるだけで。このところ仕事も忙しいしね」
「・・・・」
カカシはサクラを安心させるために頭を撫でたが、彼女の気持ちは全く晴れない。
そして、サクラの不安は的中したのだ。

頭の上にある掌が離れたと思った瞬間、サクラの目の前で、カカシの上体が大きく傾ぐ。
膝を折り、腹を押さえたカカシにサクラは甲高い叫び声を上げた。

 

「カ、カカシ先生!!!」
サクラの声を聞きつけて集まってきたナルトとサスケは、青い顔で蹲るカカシに目を見張った。
「ナルト、サスケくん、誰か人を呼んできて!」
「わ、分かったってばよ」
二人が走り去ったあと、サクラは泣きそうな表情でカカシを介抱する。
荒い呼吸を繰り返すカカシは、時が経つにつれ苦しみが増しているようだった。

「サクラ、俺はもう、駄目だ・・・」
「ええ!!?」
「サクラ達に会えて・・・・、良かったよ」
顔を上げたカカシの呟きに、サクラの瞳から涙がこぼれ落ちる。
「嫌だ!そんなこと言わないでよ」
サクラは必死に呼び掛けたが、カカシの耳にもう彼女の声は聞こえていない。
それからナルト達が帰ってくるまでの間、サクラには途方もなく長い時間が経過したように感じられた。

 

 

 

 

「いい加減、覚悟を決めてよ」
「絶対に嫌だ!俺は帰るぞ」
呆れ顔で言うナルトに対し、カカシは険しい表情で首を振る。
薬で発作を抑えたカカシは、病院のベッドの上であぐらをかいて座っていた。
今は痛みが消えているが、病の元となっているものを取り除かないかぎり、治ることはないのだ。

「あのさー、盲腸の手術が失敗したってあんまり聞かないし、大丈夫だよ。こうして我慢している方が辛いって」
ナルトが必死に説得を試みるが、カカシは顔を背けている。
周りの者が目を離せば、すぐにも窓から逃亡を図ることだろう。
「あー、無理無理。その子の病院嫌いは筋金入りだからね。白衣恐怖症で、医者を見ただけで血圧があがるんだ」
「医者は昔から信用しないことにしていますから」
病室に見舞いにやってきたツナデにも、カカシは頑なな態度を崩さない。
幼い頃、両親に遊園地に行くと言って連れ出され、病院で予防注射を打たれたことは彼の心にトラウマとして残っているらしい。

 

「健康管理はしっかりしてきたし、俺はどんな病気もこの丸薬で治してきたんです」
カカシは医学書を見つつ自分で作った薬を見せたが、ツナデはそれを鼻で笑う。
「素人が。そんな鹿の糞みたいな薬が何の役に立つのさ。今まで大病をしなかったのは、運が良かっただけさ」
「カカシ先生、手術をしないと、本当に死んじゃうかもしれないんだよー」
ツナデの言葉に続いてナルトが追い討ちを掛けるが、それでもカカシは入院を拒んだ。
優秀な部下をみすみす殺すわけにいかず、ツナデは仕方なく最後の手段に出ることにした。

「入っておいでー」
戸口に向かって声をかけたツナデに、カカシとナルトは揃って振り返る。
皆の視線が集中する中、扉を開けて入ってきたのは、看護婦の衣装を身につけたサクラだった。
ピンクの生地の服は通常のものよりスカートが短く、下着が見えるか見えないかのぎりぎりの丈だ。
ツナデの手前までやってくると、サクラは顔を強張らせながら彼女を見上げる。
「あ、あの、ツナデ様。言われたとおり着ましたけど、これって・・・」
「カカシ、あんたが入院している間、サクラがこの格好で食事の世話から下の世話まで、24時間つきっきりで看護してくれるって」
「「えええ!!?」」
何も聞かされていないサクラは、ナルトとほぼ同時に驚きの声をあげる。
「手術、受けるでしょ」
「はい」
掌を返して微笑んだカカシは、ツナデに向かって素直に頷いていた。

 

 

「待ってーー、行かないでーーーー!!」
「もう来なくていいよー」
涙で訴えるサクラの腕をしっかりと掴んだカカシは、帰っていくツナデとナルトに笑顔で手を振っている。
「・・・ばーちゃん」
「邪魔したら、力一杯ぶん殴るよ」
ツナデの怪力を知っているナルトは、その一言に口をつぐむしかない。
「もうお嫁に行けないー!!」というサクラの悲痛な叫びは、病院を出たあとも長い間ナルトの耳にこびりついていた。


あとがき??
不安な出だしなのに、実はふざけたお話でした。
カカシ先生、倒れたときに自宅療養していたから、病院嫌いなのかと思って。
しかし、羨ましい・・・・。コスプレサクラと一緒に入院かぁ。サクラ、白衣じゃないのでタイトルに偽り有り。(^_^;)
ツナデ様の命令なので、きっとサクラが逃げないよう、病院側も見張っていると思います。不憫な。
食事はともかく、下の世話(いろいろな意味での)は12の女の子には辛いと思う・・・・。


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