メジルシの記憶 5


木ノ葉隠れの里を囲む城壁。
入ることも困難だが、出る際にも入念な荷物検査がある。
カイとレンの二人が里を離れたのは、滞在期限が切れるぎりぎりの日だ。
行きはカイが捕らえられるというアクシデントがあったが、帰りは実にスムーズに通過出来た。
それなのに、カイは見張りの忍者がいる門を見つめたまま動こうとしない。

「どうした?忘れ物か」
「うん・・・ちょっと」
「じゃあ、早く戻った方が」
「いや、いいんだ」
レンの肩を叩いたカイはそのまま踵を返す。
「行こう」
「ああ」

 

 

はるか上空、物見櫓から二人の様子を見ていたサクラの背後にはナルトが控えていた。
「本当に行っちゃうよー」
「うん」
「もう会えないかもよ」
「うん」
「向こうで綺麗な彼女作って結婚して幸せな家庭とか築いちゃうんだよ」
「・・・・・」
にこにこと笑顔を浮かべるナルトをサクラは睨みつける。

「あんたって、嫌な奴ね」
「真っ当な意見を言っただけです」
確かにそうだが、口に出して言われるとやはり不快だ。
カカシは何らかの理由で記憶を失い、カイという人間として生きている。
故郷の村の話をしているカイを見れば、彼がどれだけ満ち足りた毎日を送っているか伝わってきた。

「私のことなんて覚えてなくてもいいのよ。先生が生きていてくれて、健康で、自分の足で歩いていてくれれば」
「ふーん・・・」
「何よ」
膨れ面で自分を見るサクラに、ナルトはふと真顔になる。
「幸せの基準なんて人それぞれだよ、サクラちゃん。他人には決められない」
「・・・・」
「サクラちゃんのことを忘れるなんて、俺だったら最大級の不幸だ」

 

里の監視役であるカラスが悲鳴のような鳴き声をあげている。
カイ達の姿はもう見えなくなっていた。

 

 

 

 

「・・・ちゃん、お兄ちゃん!」

肩をゆすられたカイは、その声に我に返った。
見ると、オレンジ色のワンピースを着たサラが口を尖らせている。
「どうしたの、ぼーっとして。せっかく着替えてきたのに!」
「ああ、ごめん、ごめん。ちょっと考え事しててさ」
「もう」
さも不満げに呟いたサラだったが、その顔はすぐに綻ぶ。
「どう、似合う?」
「うん」
スカートの裾を広げてみせたサラに、カイは笑顔で頷いた。

カイの帰郷をこれ以上ないほど喜んだサラは、土産であるその服をさっそく着て彼の前で披露しているのだ。
出来ることなら、この幸せな空気を壊したくない。
だが、どうしても言わなければならないことだった。
そのために、この場所へと戻ってきたのだから。

 

「サラ、俺は木ノ葉隠れの里に帰る」

唐突に発せられた一言に、サラの動きが止まる。
振り返ったサラは、言われた意味が分からず、首を傾げた。
「・・・え?」
「俺が帰ったあとのことはレンに頼んである。心配は無用だよ」
「な、何を、言ってるの。お兄ちゃんの帰る場所はここでしょ」
「俺は君の兄のカイじゃない。木ノ葉隠れの里の上忍、はたけカカシだ」

カイは棚に置かれた額へと顔を向ける。
飾られている写真には、楽しげに微笑むカイとサラが写っていた。
サラと、本物のカイの写真。
サラの傍らにいるその男は、自分だと言われたら信じるしかないほどよく似た顔だった。

「思い・・出したの?」
「まだ全部じゃないけれど。俺がここに連れてこられた経緯はレンが話してくれた」
「・・・・・そう」
辛そうに顔を歪ませたサラは、目から大粒の涙をこぼすのと同時に呟く。
「ごめんなさい」

 

 

カイとそっくりな人間が森で発見されたのは、彼が病で死んで一年もしない頃だった。
発見されたときのカカシは生きているのが不思議なほどの怪我で、親身に看護をしたのは村医者の助手をしていたサラだ。
数日後、何とか意識を取り戻した彼は、左腕が全く動かず、記憶さえも失っていた。
着ていた服と額当てから、カカシが木ノ葉隠れの里の忍びだとすぐに分かる。
そして里に連絡しようとした医者とレンを止めたのが、サラだった。

「寂しかったの。あなたを見たときに、本当に兄のような気がして・・・」
「うん」
サラがカイを兄として慕っていたことは、彼自身が一番よく分かっている。
人口の少ない小さな村だ。
行方不明の仲間を捜して調査の忍びが派遣されようとも、村人達が口裏を合わせてしまえば外部の者に入り込む余地はない。
そうした環境で、崖から落ちて記憶を無くしたと説明されたカカシは、何も疑うことなく村での生活に順応していった。
木ノ葉隠れの里に行くというレンに無理矢理同行しなければ、昔の自分を思い出すことはなかったはずだ。

 

「小さい頃から忍びとして任務を請け負っていたから、今までこんな風に穏やかに暮らしたことはなかった。里には家族もいないし、サラや村の人には本当によくしてもらって、感謝しているよ。このまま村で生活できたら、どんなにいいかと思う。でも・・・・」
言い止して、彼はサラへと視線を移す。
脳裏をよぎるのは、記憶の奥底に眠っていた薄紅色の髪の少女の面影。
彼女と年齢の近いサラがそばにいたからこそ、錯覚していた。
自分のいる場所はここなのだと。

「待っている人がいるから、帰らなければならないんだ」
「・・・・」
俯いて泣くサラから返事はない。
それまでしていたように、彼はサラの頭に手を置いて優しく撫でる。
「サラのことも、レンのことも、村のみんなことは一生忘れないよ」


あとがき??
ナルトが好きです。
以上!

とういわけにもいかないような・・・・。
本当はここで終わりの予定でしたが、蛇足のエピローグをつけます。
カイとかレンとかサラとか、名前が全部二文字なのは面倒くさかったからです。考えるのが。
この世界って、横文字の名前付けてもいいのだろうか。メアリージェーンとかエリザベスメロディーとか。


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