蝶蝶とお花
「サクラ、あんみつ食べたくない?」
にこにこ顔で訊ねるカカシはサクラの肩を抱き、すでに甘味茶屋への道を歩き始めている。
サクラが否の返事をしたところで、無理やり連れて行かれるのは分かっていた。
任務中でも暇を見つけてはサクラにちょっかいを出しているカカシ。
仕事が終われば、彼はなおさらサクラに体をくっつけてくる。
「・・・・あの、先生」
「んーー?」
「歩きにくいんだけど」
自分の顔を覗き込むようにして喋り続けるカカシに、サクラは口籠りながら言う。
頬を赤くしているサクラを見たカカシは、さらに顔を綻ばせた。
「あーもー、サクラ、可愛いなぁ〜〜v」
「キャーー!!!」
唐突にキスをされたサクラは思わず悲鳴を上げたが、カカシはかまわず彼女を抱き寄せる。彼が纏わり付いてくるのはいつものことだが、サクラが気にしているのは場所が公道だということだ。
もちろん、人目があるのだがカカシはまるで頓着していない。
振り返って自分達を眺める往来の人々と目が合うと、サクラはカカシの服を引っ張りながら必死に声を出した。
「先生、は、離れて、離れてよ!」
「えー、じゃあ、うちに来て続きする?」
「つ、続きって・・・」
サクラが目を白黒させながら呟いたそのとき、ふいに感じた殺気に、カカシは彼女を抱えたまま後退る。
上忍さえも怯えさせる、言い知れぬ恐怖。
ただならぬ気配は、彼らの目の前にいる一人の女性が放っているものだった。
「あんたらね・・・・、真っ昼間から私の里の風紀を乱すようなこと、やめてくれない」
里の長である綱手は、腕を組んで仁王立ちしている。
「いやだなぁ、火影様。自分がシングルだからって、前途ある若者達の邪魔をしないでくださいよー」
「フンッ!!!」
サクラの頭を撫でながら言うカカシに、綱手は握り拳を地面に叩き付けた。
地表を割る攻撃をさけたカカシは、口を尖らせながら綱手を見やる。
「そんなに短気だと、本当に嫁の貰い手ないですよ」
「カカシ先生!!!」
本人に全く悪気はないが、次々と禁句を口にするカカシをサクラは何とか押し止めた。
このまま諍いが続けば、付近の住宅に被害が及びかねない。「先生、私、火影様にお話があるの。ちょっとの間、向こうに行っていてくれない?」
「えーーー?じゃあ、俺も一緒に」
「駄目!先生はあっちに行って」
サクラに一喝され、カカシは電信柱の隅に押しやられる。
いささかしょんぼりとしたカカシだったが、その距離ならば話は聞こえずともサクラ達の姿は確認出来、彼女が隙を見て逃げ出すこともない。
「あの・・・話というのは、カカシ先生のことなんですけど」
「だろうね」
もじもじと話し出したサクラに、綱手も相槌を打つ。
あんな男に付き纏われれば、誰でも迷惑なはずだ。
しかも、自分の上司となれば、そう無下にも出来ない。「班、変えてあげようか?カカシを遠ざけたいんだろ」
「いえ、それは別にいいんです。先生のことは、嫌いじゃないですし」
「あれ・・・、そうなの」
確かにうつむき加減に喋るサクラは照れているだけで、嫌悪の表情はない。
だとしたら、どういった内容の相談事なのかと、綱手は首を傾げる。「カカシ先生って、ああ見えて、凄く女性にもてるんです。だから、何だか心配で・・・」
サクラがちらりとカカシのいる方を見ると、彼は道行く知り合いに声をかけられ、手を振り返していた。
愛想の良い彼は、誰に対しても明るい笑顔で応える。
ガールフレンドも多いらしく、サクラが一緒にいて出くわすカカシの友人は美人ばかりだ。
そのたびにやきもきしているサクラの内心に、カカシは全く気づいていない。
「このまま一緒にいても、大丈夫なのかと思って」
「あー、そういうことね・・・」
ただでさえ、上忍というだけで、里ではちやほやする人間が沢山いる。
カカシのように人当たりがよく、性格や顔に問題がなければよけいに人が近づいてくるはずだ。
実際、綱手も彼が付き合ってきた女性達の噂を何度か耳にしたことがある。
来るものは拒まず、去るものは追わずといった主義のせいか、その数は意外に多い。
しかし、そうした情報を伝えたところで、サクラの不安をあおるだけだろう。「サクラ、いいこと教えてあげるよ」
膝に手を当てて屈んだ綱手は、サクラに顔を近づけた。
「あの子の周りって、いつも誰かしら寄ってくるよね。一緒にいれば、分かるだろ」
「はい」
「でもね、カカシが自分から寄っていく人間って、あんただけなんだよ」
目をぱちくりと瞬かせたサクラの頭を、綱手は優しく叩いた。
「もっと自信を持ちな」
半信半疑ながら、綱手に背中を押されたサクラはカカシのいるところへと戻っていく。
考えてみると、同じ班のナルトはいつもカカシに抱きついては嫌がられている。
それはナルトの性別が男だからなのだと、サクラは勝手に思っていた。
だが、カカシは誰と話していても、常に一定の距離を保っている気がする。
相手がどんなに親しげに見える女性でも、それは変わらない。「サクラー、火影様に変なことされなかった?」
近づいてきたサクラを見ると、カカシはすぐに駆け寄った。
そして、当たり前のように彼女の背中に手を回す。
「よしよし。勝手にどこかに行ったら駄目だからね」
「・・・・うん」
小さく頷くと、サクラは彼の胸に手を添えてその顔を見上げた。
独り占めしたくても、出来ない。
でも、満ち足りた表情で自分を抱きしめるカカシを見たサクラは、不思議と今までのような寂しさは感じなかった。
あとがき??
カカサクのつもりが、サクカカに・・・・。おかしいな。
ふわふわしている蝶蝶には、待つだけのお花の気持ちは分からないのでした。