僕は君に、二度恋をする


7班が解散して、自分の元部下達が個々に活動し始めたばかりの頃だった。
サクラのもとに舞い込んだという、長期任務。
なんと、国元を離れて三年がかりの潜入捜査だ。
断る自由も認められているが、サクラはそれを易々と受けたらしい。

 

 

 

「サクラ、度胸あるねぇ。ホームシックで帰るってことは、絶対出来ないのよ」
「大丈夫よー」
明るく答える彼女は、生き生きとした表情で、これからの不安など微塵も感じさせない。
初めての重責を案じていないはずがないのに、サクラはずっと笑顔だった。
もしかしたら、ナルトやサスケよりも、女の子の方が度胸があるのかも知れない。

「それで、どうしてこんなところに呼び出したのよ」
出発を明日に控えて、身近な人間に別れの挨拶をするというのは分かる。
でも、俺が呼び出しを受けた場所は、アカデミーの音楽室に通じる非常階段。
5階の踊り場からは、敷地内にあるプールや手裏剣投げの練習場がよく見える。
太陽は丁度真上にあって、サクラや俺の顔を照らしていた。

 

「だって、密会しているみたいで、楽しいじゃない」
「・・・・密会」
「先生、やらなかった?授業さぼってこういうところで友達とお喋りしたり、煙草吸ってみたり」
あっけらかんとしたサクラの言葉に、自分は思わず声を張り上げていた。
「サクラ、優等生じゃなかったの!?」
「だって、真面目なばかりだと息が詰まるでしょ」
言っていることは教師として感心できなかったけれど、サクラの悪戯な笑みが可愛かったから、反論しなかった。

「それでね、今日呼んだのは最後に先生の素顔を見せて欲しかったからなの。ここなら誰も見てないから大丈夫よ」
俺より2、3段上の部分で手摺に寄りかかっているサクラは、両手を会わせて懇願した。
くだらないことを気にしていたんだな、と思いつつ、俺はサクラに笑いかける。
「・・・・いいよ」
「本当!?」
「でも、「最後」って言葉使うのは、やめて」

 

別れ際に「さよなら」とか、「最後に」とか、俺は絶対に言わない。
本当に会えなくなってしまうような気がするから。
会えなくなってしまった人が、確かにいるから。
俺はもう、誰も失いたくない。

 

「分かったわ」
感傷的になった自分の気配を感じ取ったのか、サクラの顔は少し寂しげになった。
「じゃあ、はい」
サクラの望み通りに、俺は口元を隠している布地と額当てを取る。
外気に当たった頬に風が当たって、少しこそばゆい。
それに、教え子とこうして改めて面と向かうと、妙に照れくさかった。

「・・・・何だ。普通の顔じゃないの」
「サクラが見たいって言ったんだろ」
拍子抜けしたサクラの声に、俺は心外だとばかりに言い返す。
「ごめんなさい。普通じゃなかったわ」
すぐさま訂正したサクラは、くすりと笑って俺の頬に手を当てる。
サクラが段の上にいるせいで、その目線は自分とほぼ同じだ。

「普通の人より全然格好良いです」
顔が不自然に近いと思ったけれど、避けることはしなかった。
俺に、ただ唇が触れるだけのキスをしたサクラは、にっこりと微笑む。
「餞別」

 

 

俺から離れた彼女の手を、名残惜しく感じたのは、本当。
でも、追いかけるほど、自分の気持ちに確信はなかった。

「カカシ先生、またね」
それが、階段を駆け下りていくサクラからの、お別れの言葉。
何か返事をしたところで、もう彼女には聞こえないことだろう。
自分の思いなどまるで無視して、サクラはひどく勝手だ。

「俺が餞別貰ってどーすんだよ・・・・」
ため息と同時に言うと、手摺から身を乗り出して、下方を見下ろす。
元気に駆けていく桃色の髪の少女が小さく見えて、何だか置いてけぼりをくらった感じだった。

 

 

 

 

俺の元を去った春風からは、時折、長い手紙が届く。
身の回りのことが書かれた、日記のような手紙。
それが届くのが密かな楽しみで、手紙が来なくなってしまうのが寂しくて、返事は必ず出した。

仕事がうまくいかない。
上司に褒められた。
長雨が続いている。
気になる男の子ができた。
ちょっとした彼女の日常に、一喜一憂する。
何があっても、元気にしていてくれれば、それで良いと思っていた。

 

 

 

 

「お兄さん、一緒にお茶でも飲みに行かない?」

日曜の午後、街を歩いていた俺はそういって、声をかけられる。
無視しようかと思ったけれど、反射的に振り向いた俺の足は、そのとき全く止まってしまった。

黒髪を腰のあたりまで伸ばし、翡翠の瞳で自分を見つめる魅力的な女の子。
心臓を鷲掴みにされたかのような感覚に、息苦しさを感じた。
一目惚れ、というのだろうか。
棒を飲んだように立ちつくしてしまった俺に、彼女は急に不機嫌そうに眉を寄せる。

「ちょっと、何で気づかないのよ!先生」
険のある声だったが、それは確かに自分の教え子のもの。
その瞬間、もうすぐ帰れそうだと書かれていた手紙の文字が頭をよぎった。
「・・・サクラ?」
「遅いーー!せっかく里に帰って一番に先生に会いに来たのに!!」
すねた口調で言うと、サクラは人目を気にせずに俺の腕の中に飛び込んできた。
以前と同じ行動なのに、俺はどうしたらいいか分からなくて、行き場のない手を彷徨わせる。

 

「か、髪が」
「任務の間はずっとこうだったのよ。すぐに元に戻すわ」
動揺する俺の問い掛けに、サクラは即答した。
女性らしい体のラインとすらりと伸びた手足、少しシャープになった輪郭に薄くひかれた口紅。
彼女の変化に目を見張ったけれど、一番変わったのは、おそらく俺の内心だ。

「先生、私に会いたかった?」
「うん」
上目遣いで訊ねてきたサクラの言葉に素直に頷くと、彼女の顔はたちまちに綻んだ。
躊躇したのは、三年前のこと。
里の外の世界を見て、一回り成長して戻ってきた彼女に俺は再び心を奪われてしまっていた。


あとがき??
うちのカカシ先生、いつも「可愛い」と言われてしまうのですが、やっぱり「可愛い」系だった・・・・。
タイトルは某女性向けゲームから取ったのですが、気にしないで下さい。(笑)
7班が解散したのがサクラが14の時なので、三年後は17歳です。(←マイ設定)

サクラが任務先から恋人らしき男性を連れて帰っていたり、長々しい駄文だったのですが、完結できそうになかったので途中で切りました。(^_^;)
14万打記念駄文でした!


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