なんてったってアイドル


TVで見る薫ユミは可愛い。
だが、握手会で実際に見た薫ユミはその何倍も可愛かった。
柔らかく微笑む彼女とその掌のぬくもりを、ナルトは一生忘れないことだろう。
営業用スマイルだとしても、目を合わせて笑ってくれただけで満足なのだ。

 

「はぁーー、可愛かったなーーー、ユミちゃん最高ーーーーー」
サインをしてもらった写真集を抱きしめ、ナルトは譫言のように繰り返す。
握手会の会場から出てずっとこの調子なのだが、傍らを歩くサスケは咎める様子もない。
ナルトほどでないにしろ、薫ユミに魅了されたという点は同様だった。
「でも、本当によく似てるよな!」
「・・・あ?」
「ユミちゃんとサクラちゃん。あと5、6年くらい経てばサクラちゃんもああなるのかなぁー」
仰天するサスケを横目に、ナルトは「胸は無理だろうけど」とよけいな一言も付け加えた。

「似てるって、あの二人が?」
「そっくりじゃん。ピンクの髪とか緑の目とか。ユミちゃんが髪を短くしておでこを出せば、サクラちゃんだろ」
「・・・・」
今さら何を言うのかという顔をされ、サスケはユミとサクラの顔立ちが似通っていることに初めて気付く。
歌番組で最初にユミを見たとき、妙に気になった意味がようやく分かった。
「でも、サクラちゃんってば俺の前でこんな風に笑ってくれないしねー、あー、本当に可愛い」
「・・・」
写真集の表紙を見つめるナルトはうっとりと呟くが、サスケはノーコメントだ。
彼女に惹かれた理由が分かったからには、ユミの姿がサクラに重なって見えて、何とも言えず気恥ずかしかった。

 

 

 

ナルトと別れた後、食材購入のためスーパーに寄ったサスケはある異様な光景を目にする。
カメラを持った男達が電信柱の影に集まり、通りを歩く誰かを隠し撮りしていた。
有名人でもいるのかと、カメラの向かう先へと顔を向けたサスケは目を大きく見開く。
見覚えのあるピンクの髪に赤い服の後ろ姿。
買い物途中と思われるサクラだ。
怪しい男達が彼女のあとを追っている場面を見付けたからには、放っておくわけにもいかなかった。

「何してるんだ」
気配を消して近づいたサスケが背後から声をかけると、男達はびくりと肩を震わせて振り向く。
そして相手が里を警備する忍びではなく、少年一人だと分かると安心したように顔を見合わせた。
「君、アイドルの薫ユミ、知ってるだろ」
サスケに話しかけてきたのはリーダー格と思われる男だ。
「・・・ああ、知ってる」
「よく似た子がこの近くに住んでいるって仲間内で噂になっていてね。あの子なんだけど、本当に瓜二つだろ」
「・・・・・」
「マニアの間ではその小さいユミちゃんを一目見たいって人間が多くいる。だから、次のファンクラブの会報であの子の特集を組もうと思っているんだ」

 

 

夕飯のおかずにするコロッケを買ったサクラはにこにこ顔で商店街を歩いていた。
ダイエットのため、油物は控えているのだが少しくらいなら大丈夫だろう。
あとは八百屋に寄れば買い物は終了だ。

「えーと、キャベツと、人参と・・・」
ぶつぶつとメモを見ながら八百屋へと向かうサクラは、その気配に気付き、傍らへと目をやる。
立っていたのは、ナルトと共に薫ユミの握手会へ行ったはずのサスケだ。
「あれ、サスケくん、握手会の帰り?」
「ああ」
頷いて答えるサスケはパトローネから長いフィルムを引っ張りだしている。
現像するつもりもないのか、それらは道端のごみ箱へと捨ててしまった。
「何、あれ?」
「いらない物だ」

 

会報などで紹介されては、サクラの周りを怪しげな男が付きまとう可能性もある。
一部の熱狂的なファンなど、何をするか分からず非常に危険だ。
カメラから出したフィルムを奪い取って忠告しておいたが、不安は完全には拭い去れなかった。

「あの・・・、何か用事があるの?」
八百屋を出てからもあとも付いてくるサスケに、サクラは怪訝な表情だ。
「特にない」
「・・・・別に、いいけど」
素っ気なく答えるサスケを見て、サクラは首を傾げている。
それから数日、サクラは任務の行き帰りにサスケと偶然出くわすことが多くなった。
サクラは不審な眼差しを彼に向けていたが、まさか薫ユミのファンに自分がつけられているとは思いもしない。

 

「そういえば、最近・・・」
「何だ!?怪しい奴でも見かけたのか!!」
「え、ち、違うわよ」
サスケの剣幕に驚いたサクラは、思わず声をどもらせた。
「最近、あったかくなってきたと思って。春が近いのねって・・・言いたかったんだけど」
「そうか」
たどたどしく説明するサクラに、サスケは安堵の吐息をもらしている。
サスケが近くにいてくれることは嬉しい。
だが、異常なほど周囲に気を配っている意味が分からず、どうにも戸惑いを隠せないサクラだった。


あとがき??
すでにサスケの方がストーカーと化しています。あれ。
続きが読みたいとおっしゃって下さった方といたのに、また随分と時間がかかってしまいました。
サスサクは書き出すまでに時間がかかります・・・。
まぁ、タイトルはキョンキョン。


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