アイドル


木ノ葉隠れの里では、彼女の姿を見ない日はなかった。
TVCMにドラマ、壁に貼られたポスター、どこにいても視界に入る。
デビューしたてのアイドル、薫ユミ(18)。
顔がすこぶる可愛く、
Fカップの胸となれば誰も放っておかない。
現在、木ノ葉で生活する男性のほぼ全員が彼女の虜といっても良かった。

 

 

「あー、ユミちゃんだーーv」
昼休み、食堂で休憩を取っていた7班は棚の上の
TVを見ていた。
ユミの映る
TV画面をうっとりと眺めるナルトに、サクラは不機嫌そうに顔をしかめる。
「・・・あんたもファンなの?」
「もちろんだってばよ。写真集だって、出掛けにばっちり買ってきたし!」
ラーメンを食べていたナルトは、箸を置くなりリュックサックから紙袋を取り出す。
中に入っているのは、今日発売されたばかりの『薫ユミ、お色気忍法帳』と題された写真集だ。
表紙にはくのいちの服を着たユミが、際どいポーズで写っている。

「あんた、それ子供が買っちゃいけない本なんじゃないの」
「忍術でイルカ先生に変化して買ったから、平気」
不正行為を堂々と公表してしまうのは、素直なナルトのいいところだろうか。
「ばっかみたい!」
やっかみの気持ちから、サクラははき捨てるように言う。
ナルトのことは仲間としてしか見ていないが、普段自分の尻ばかりを追いかけていた彼が別の女性に夢中になっているのは、面白くなかった。
目の前に飛び切りの美少女がいるというのに、
TVの方ばかり見ているのも失礼な話だ。

 

「サスケくんはあんなアイドルに興味ないでしょ!」
「・・・ああ」
念を押すように訊ねると、食事を続けるサスケは涼しい顔で答える。
思わずほっとしたサクラだったが、サスケの隣に座っているカカシは彼のリュックサックを抱えて見せた。
「サスケの荷物、妙に重そうじゃない?何が入っているのかな」
「おい!やめろ」
荷物を奪い返そうとしたサスケの手をかわすと、カカシは素早く中を確かめる。
出てきたのは、どこかで見た覚えのある表紙の写真集。

「・・・サスケくんも、朝、書店に寄ったんだ」
「・・・・・」
半眼で見据えてくるサクラの問いかけに、サスケは顔を逸らしている。
「予約特典でお色気
DVDと握手会のチケットも付いてくるってばよ。お前もそれが目当てだったんだよな」
満面の笑みで訊くナルトだったが、サスケは返事をしない。
いや、サクラの刺すような視線が痛くて何も言えなかった。

 

 

 

「あんな胸が大きいだけの舌足らずのアイドル、どこがいいのかしら!!」
「まぁ、胸はないよりあった方がいいんじゃないの」
肩を怒らせて歩くサクラは、後方にいるカカシを鋭く睨む。
「カカシ先生は行かなくていいの!?」

任務が終わるなり、ナルトとサスケは薫ユミの握手会へと行ってしまった。
おそらく、木ノ葉の男性の半分以上が会場に集まることだろう。
それなのに、カカシはずっとサクラの後ろを歩いている。
カカシならばナルト達よりも早く会場入りしそうなものだが、この日のカカシは軽装で写真集を持っている様子もない。

「俺、別に薫ユミに興味ないし・・・」
「嘘!!?」
思い切り目と口を大きく開けたサクラに、カカシはくすくすと笑った。
「サクラ、凄い顔」
楽しげに笑うカカシを見たサクラは慌てて掌で口元を覆う。
人の好みはそれぞれだ。
もちろん、薫ユミを好きでない男がいてもおかしくない。
だが、それが自分の担任だったことが、サクラは何故だか嬉しかった。

 

「ないよりあった方が良いってことは、やっぱり先生も大きい人が好きなのよね」
「どうだろう」
曖昧に笑うと、カカシはサクラの頭に手を置く。
「昨日、臨時収入があったんだ。サクラ何か食べたいものある?」
「え」
「本当はナルトとサスケも誘おうと思ったんだけど、あいつらそれどころじゃないみたいだしさ」

差し出されたカカシの掌を、サクラはもちろん受け入れる。
手を繋ぎながら向かうのは、サクラ行き着けの甘味茶屋だ。
カカシの掌の温もりを感じながら、サクラの中に先ほどまであった憤りはすっかり掻き消えてしまっている。
思えば、いつも団体行動の7班、カカシと二人きりでどこかに行くのは初めてだ。
カカシの横顔を見つめ、少しだけ薫ユミに感謝したサクラだった。


あとがき??
“薫ユミ”は、“由美かおる”から付けました。(笑)
サクラが映画で「ミッチー!」と言っていたので、サスケも年相応にアイドルに夢中だったりしたら面白いなぁと思って出来た話。
最初はサスサクのはずだったんですね。
しかし、最近まともなカカサクを書いていないので、そっちにしてみた。
見たい人がいれば、書きますけど。サスサク版。


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