おとなとこども
サクラが右手を差し出してくる。
これは、手を繋ぎたいという合図だ。
任務が終了したあと、サクラとこうして歩くようになったのは、帰り道が一緒だから。
だと、カカシは思っていた。
「先生、私、あの映画が見たいの」
「ふーん・・・」
巷で人気の駿崎ミヤオ監督映画の看板を指差すサクラに、カカシは気のない返事をする。
近頃公開されたばかりでよく話には聞くが、アニメ作品に興味はない。
そんなカカシの気持ちなど知らず、サクラは笑顔で彼の顔を見上げた。「観に行こうよ、明日。仕事も休みだし」
「え」
「11時半からだから、11時に映画館の前ね。食事はそのあとに行きましょう」
「ちょっ、ちょっと」
カカシの手をパッと離すと、サクラは駆け足でいなくなってしまう。
彼の返答はもちろん聞かずに。随分と年下の生徒にいいように扱われ、面白くない。
そのはずなのに、サクラの笑顔と誘いの言葉に、妙に心が浮き立ったのは何故なのか。
カカシは首を傾げて考え込む。
駿崎ミヤオ監督映画は好きではないはずだ。
ならば、どこに自分を喜ばせる要因があったのか、大きな疑問だった。
当日、カカシは10時55分にその場所に着いたのだがサクラの姿はない。
建物の柱に寄りかかるカカシは、ため息を付きながら道行く人を眺める。
結局11時を過ぎてもサクラは現れず、うまく担がれたという気がしてきた。
こうして待ち惚けを食らった自分を、いのやナルト達とどこかで面白そうに見ている。
その姿を想像し、胸が悪くなるというより、ひどく気分が落ち込む。「俺を待たせた女なんて、サクラが初めてだよ・・・」
知らずに呟きがもれていた。
いつもなら、待たされるより待たす立場のはずだ。
ただの思いつきで、すぐ忘れる程度の約束だったのかもしれない。
サクラの気まぐれな言葉を鵜呑みにした自分が馬鹿らしい。
踵を返そうとしたカカシは、後ろから来た誰かに腕を引かれて立ち止まった。
「先生、お待たせー!ちょっと道に迷っちゃって」
エヘヘッと笑うサクラは、カカシが昨日遅刻した際に使ったのと同じ言葉で弁解する。
そうなると、カカシに厳しく追求出来るはずがない。
秋らしく、ローズやブラウンを基調とした服を着るサクラは、カカシの足元から顔まで素早く視線を走らせた。
「・・・・先生、何、その格好」
「いつも通りだけれど」
「だから駄目なんでしょー!仕事で集まったんじゃないんだから、おめかししてきてよ」
「はぁ」
頭をかくカカシの腕をサクラが強く掴む。「予定変更!これから先生の服を買いに行きましょう。見立ててあげるから」
「えっ」
驚くカカシを気にせず、サクラは彼の手を引いて歩き出した。
力では勝っているはずなのに、どうしてかサクラに抵抗できない。
サクラに引きずられながら、カカシは映画の看板を指し示す。
「映画は?もうすぐ始まっちゃうけど」
「嫌だ。そんなの口実に決まっているでしょ」
振り向いたサクラはくすくすと笑ってカカシを見る。
「カカシ先生と一緒ならどこでも良かったのよ。先生ってば、本当ににぶいわねぇ」
「・・・・・」
年下で部下で生徒のサクラに、今度は馬鹿にされた。
上忍としての面子にも係わるのだが、カカシの顔には自然と笑みが浮かんでいく。
先程まで落ち込んでいた気持ちが嘘のように浮上していた。
今、サクラの正体が魔法使いだと告げられれば、カカシは確実に信じる。
悲しくなったり、笑いたくなったり。
自分の心を見事にコントロール出来るサクラが、ただの下忍なはずがないのだから。
あとがき??
おまけSS用だったのに、中途半端に長くなったのでこっちに移動。
サクカカ好き。尻尾をふってサクラに付いていくカカシ先生が目に浮かぶ。