朝の風景


任務が一つも入っていない、休日だった。
目覚まし時計をセットすることなく、カカシは思う存分惰眠をむさぼっている。
カーテンから漏れる光で快晴だと分かるが、わざわざ疲れるために外に行く気はしない。
この時間がずっと続けばいいと、生来怠け者の彼は願わずにいられなかった。

目が覚めてもぐずぐずとベッドの中にいたカカシは、掛け布団の上から感じた重みに瞼を開ける。
「おはようございます!」
「・・・・うん」
ベッドの端に腰掛け、自分の顔を覗き込んでいるサクラにカカシは小さく頷く。
「「うん」じゃなくて、「おはよう」でしょう」
「おはよう」
素直に言い直したカカシに、サクラはにっこりと笑った。
「朝ごはん作ったから、早く顔を洗って着替えてきてね」
「・・・分かった」
のろのろと半身を起こし、目を擦るカカシはキッチンへ戻っていくサクラの後姿をぼんやりと見ている。
サクラは肩にかかる髪を二つに分け、緑色のゴムで縛っていた。
毛先が首筋に当たってくすぐったいのだと言っていたが、二つ分けの頭は後ろから見ても可愛くて、この先も同じ髪型でいて欲しいと思ってしまう。

 

 

 

「あれ、頑張ったねぇ・・・」
「先生、朝はご飯がいいんだもんね」
焼き魚や何種類かの煮物が並んだ朝食を前にして、カカシは嬉しそうに席に着いた。
パンや卵をそのまま焼く方が用意は楽だ。
だが、カカシに喜んでもらうため、サクラが一生懸命頑張った結果だった。
ピンクのエプロンをつけたサクラが茶を運び、二人で同時に食事を始める。

「美味しいよ」
緊張した面持ちで自分を見ているサクラに、カカシは開口一番に言った。
そうして、安堵の笑みを浮かべたサクラはようやく箸を取って茶碗のお米を口に運ぶ。
「玉子焼きも自信作なんだから」
「はい、はい」
サクラの促すままカカシは玉子焼きに箸を付けた。
非常に穏やかな朝食の光景だ。
ただ一つの違和感を除けば。

 

 

「・・・・サクラ」
「はい?」
「何でいるの」
首を傾げるサクラに、カカシはやんわりと訊ねる。
サクラには自宅の場所を教えた覚えはなく、玄関の扉も閉まっていたはずだ。
はっきり言って不法侵入なのだが、あまりに居心地がよく、今まで言い出せなかった。
さして動揺した様子のないサクラは、ぱりぱりと音を立てて漬物を食べながらカカシを見る。

「遅い」
「えっ」
「遅いのよ。普通、目が覚めて最初にそういうことを言うでしょ。他人が家に入り込んでいたら」
「ああ・・・・、そうね」
サクラにつられて漬物を口にいれると、カカシも同様にぱりぱりと音を出す。
「・・・何だか、嫌な感じがしなかったから」
「なら別にいいじゃない」

よく分からないうちに言いくるめられたカカシは、それ以上追求しなかった。
味噌汁を飲むサクラはよほど熱かったのか、舌を出してコップの水を飲んでいる。
思わず苦笑したカカシが「大丈夫?」と言うと、サクラは顔をしかめたまま何度も頷いた。

 

 

「場所はサスケくんから聞いて、鍵はこれで開けた」
テーブルの上の器が全て空になってから、サクラは一本の釘をカカシに見せる。
「30分もかかったわ」
「それでも凄いよ」
仕事柄、セキュリティーは万全だ。
アカデミーの授業では針金一つで鍵を開けるものもあるが、サクラは優秀な生徒だったようだ。
そして、サクラは小物を入れているケースから玄関の鍵を発見したらしい。

「毎回、鍵をこじ開けるのは疲れるので、合鍵を作らせてもらいました。次はこれを使うわ」
サクラは湯のみの茶をすするカカシの目の前で、鍵をちらつかせて見せた。
「取り上げないの」
「・・・・別に」
「嫌な感じがしなかったから?」
続く言葉を代わりに口にしたサクラは、身を乗り出してカカシに顔を近づける。
「そういうときは、素直に「嬉しい」と言いましょう」
「はい」


あとがき??
サクラの押しかけ女房。あんな可愛い子が突然いてくれたら、嬉しいと思うけれど。


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