ギャンブラー


久々に、すっきりとした朝だった。
いつものように頭にもやもやとしたものが残らず、体もすこぶる快調だ。
理由は何だろうかと考えて、カカシはハッとなる。
とっさに掛け布団を捲ったカカシは、そのまま頭を抱えてしまった。

傍らでは、裸のサクラがすやすやと寝息を立てている。
彼女の肌に残る鬱血した痣はカカシが昨夜付けたものだ。
裸エプロンで登場されては、さすがのカカシも理性のたがが外れた。
今まで我慢していた分、サクラを思う存分嬲ったのだから気分が晴れて当然だろう。
そして、頭の中をリフレインしているのは、サクラの両親に言われた言葉。

 

『サクラとは、清い関係でいてくださいね』

 

自分を信じて娘を預けた彼らに、カカシはしっかりと頷いたのだった。
青ざめたまま凝固するカカシは、身じろぎして目を開けたサクラから思わず視線をそらす。
「・・・せんせい」
「ああ、お、おはよう」
「んー」
目元を擦るサクラはカカシのいる方へと寝返りを打ってくる。
「先生、まだ6時よー。今日、任務休みでしょう」
「・・・うん」
頬をすり寄らせてくるサクラに、カカシは静かにその頭を撫でた。

「サクラ、大丈夫?どこか痛かったり」
「だるくて、まだ起きられない。あと、まだ何かはさまってる感じ」
「・・・」
率直な意見にカカシは無言になったが、彼を上目遣いに見るサクラは微笑している。
「でもね、嬉しかったよ。先生のこと大好きだし、優しくしてくれたから」
「サクラ・・・」
朝日に照らされたサクラの笑顔はいつも以上に愛らしく見えて、カカシは彼女を抱き寄せる。
サクラを手放すなど、今さら出来るはずがない。
彼女と一緒にいるためならば、何があっても嘘を突き通す決意をしたカカシだった。

 

 

 

 

「どの店に行く?」
「うーん、いのの花屋の向かいの店はどうかな・・・」
「良いね。その隣りも、確かカフェだったよね」
手を繋いで歩く二人は、ブランチを食べる店を探して辺りを見回していた。
まだ午前中ということで、いつもは賑やかな商店街も幾分人が少ない。

「・・・先生、少し顔色悪くない?」
「え、そう?」
無理に微笑むカカシは、サクラに気付かれないよう、小さく吐息を漏らす。
サクラの顔を見るたびに思い出す、彼女の両親との約束。
言わなければ分からないと思いつつ、彼らに偶然出くわしたなら、絶対に動揺しそうだった。

「あ、パパとママだ!!」
「え!!」
タイミング良く叫んだサクラに、カカシは目を見開く。
だが、遠くの路地からやってくるのは、サクラの両親に間違いない。
嬉しそうに手を振るサクラの傍らで、カカシはどうしたらいいか分からなくなる。
心の準備が、まるで出来ていなかった。

 

「パパ!」
少々ファザコン気味のサクラは、彼の胸に勢いよく飛び込んでいく。
「サクラ、恥ずかしいぞ。人前で」
「ごめんなさいー」
口調はしかっているが、舌を出すサクラに向ける父親の眼差しは限りなくあたたかい。
カカシの胸がズキズキと痛んだ。

「カカシさん」
「あ、はい」
父親との会話に夢中になるサクラを見たあと、母親はカカシににっこりと笑いかける。
「約束、破ったでしょう」
「・・・・はっ?」
「母親ですもの。娘の変化はすぐ分かるわ」
「・・・」

言葉に詰まってしまっては、肯定したのと同じだ。
上忍として、今まで数え切れないほど嘘をついてきた。
しかし、笑顔の母親を前にして、今までのように良い嘘が思い浮かばない。
どうしてか、サクラに関してだけは、偽りを言うことが出来なかった。

 

 

「申し訳ございませんでした!!」
唐突に土下座をしたカカシに、サクラだけでなく、その両親も目を丸くしている。
そして、周囲の人々の注目を一身に浴びることとなった。
だが、どんなに恥をかいても、サクラとの仲を認めてもらわないわけにいかない。
サクラのためなら、何でもする覚悟はあるのだ。

「・・・・一ヶ月か」
「私の勝ちね」
「仕方がないな」
嘆息するサクラの父親は、妻に向かって幾らかの紙幣を手渡した。
「もー、また何か賭け事をしていたのね!」
激昂するサクラに、サクラの両親は苦笑いをしている。
和やかな雰囲気の中、何が起きたのか分かっていないのは、カカシ一人だ。
惚けたように地べたに座るカカシに、サクラは両手を伸ばす。

 

「うちの両親、生っ粋のギャンブラーなの。毎日、何かにつけて賭けているのよ。私達のことも何か賭け事の対象にしたんでしょう」
「まあね」
唖然とするカカシに、サクラの父親はウインクをして見せる。
「最初は一週間耐える方に賭けていたんだが」
「私は三日。動く気配がないから、パパが三週間、私が一ヶ月に賭け直したのよ」
「はぁ・・・・」
まだ事態を呑み込めないカカシは、二人のやり取りを呆然を見守っている。

「いのちゃんを使ってけしかけたのは、ルール違反じゃないのか?」
「そんなことないわよ」
喧々囂々と言い合ったあと、サクラの母親はカカシに向き直る。
「私達、カカシさんのこと気に入っているんですよ。サクラのことよろしくお願いしますね」
「・・・はい」
「次は孫がいつ出来るかだな」
さっそく次回の勝負へと意気込むサクラの父親は、電卓を叩いて何やら計算をしている。
彼らの思考はどうにもカカシに理解出来そうになかった。

 

「カカシ先生!!」
もう一度その場にへたり込んだカカシに、サクラは心配そうに駆け寄る。
変わった両親だが、娘のサクラはまともに育ったことが救いだ。
自分の忍耐力が賭け事のネタにされていたことは面白くない。
だが、今後は何も気兼ねしなくて良いのだと思うと、例えようもなく幸せな気持ちのカカシだった。


あとがき??
普通の両親ならば、下忍になるときに止めると思ったのですよ。
死ぬ可能性もあるわけですし。サクラはナルトやサスケほど、忍びという仕事に信念を持っていたわけではないし。
というわけで、少し(?)変なサクラの両親でした。(汗)
お目汚しで申し訳ない・・・。


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