せんせいの初恋
「サクラー、おいで」
任務の合間の20分の休憩、手招きをされたサクラはカカシに駆け寄る。
「何?」
「ここ、ここに座って」
椅子に腰掛けるカカシは自分の膝を指差していた。
指示に従って大人しく座ると、「軽いなぁ〜」という声がすぐ耳元で聞こえる。
駄賃代わりに渡された飴は苺の味だった。「せんせいー、ずるいーー」
「何が?」
「サクラちゃんを独り占め!」
ふてくされるナルトを横目に、カカシは意地悪く笑う。
「いーの、俺、上司だもん。お前らは部下。命令に従うのみ」
「職権乱用!」
二人の言い合いを聞き流しながら、サクラは口の中の飴をカリカリと噛んでいる。
こうしたやり取りはいつものことで、慣れてしまった。
二人きりのときは、カカシはもっと優しい。
突然抱きつかれることも多く、自分をペットか何かと勘違いしているのではないかと、思ってしまう。「先生、何だか私だけ特別扱いしていない?」
「だってー、サクラ、可愛いんだもん。ピンクの髪ってラブリーだよね」
怪訝な表情で訊ねるサクラに、カカシは即答した。
頭を撫でるカカシの笑顔があたたかくて、サクラは口をつぐんでしまう
あとに続く言葉さえなければ、サクラはずっと幸せな気持ちでいられたはずだ。「俺の初恋の人も、ピンクの髪なんだよ」
遠い日の初恋を思い出しているのか、遠い眼差しをするカカシをサクラは凝視する。
髪の色が同じだから。
実に単純な理由だった。
自分に向ける笑顔が全て、その彼女のものだと思うとサクラはひどく気分が悪くなる。
後先のことなど考えていない。
任務の帰り道、行きつけの美容院に入ったのは、衝動的な行動だった。
「あれ、まぁ・・・・」
翌朝、サクラを一目見るなり、カカシは絶句した。
もちろん、ナルトとサスケも驚いている。
髪を黒く染めたサクラ。
長さはそのまま、色を変えただけなのに、イメージが一変していた。
「サクラじゃないみたいだね」
心なし、寂しそうに言うカカシに、サクラの胸がずきずきと痛む。
これで初恋の彼女とは混同されなくなったが、それは好意の対象ではなくなったということだ。「どうしたの、急に?」
「イメージチェンジよ。珍しくないでしょう、髪を染めるくらい」
「・・・・まぁ、そうだけど」
軽い口調で答えるサクラに、カカシは首をかしげている。
日ごろ、サクラが髪の手入れをかかさないことを知っている者にすれば、不思議でならない。
ぼんやりとサクラの髪を眺めていたカカシは、何かを思い出したのか、懐を探り出す。「そうそう。これ、昨日サクラに買ったんだけど」
「えっ?」
言いながら、カカシはある物をサクラに差し出した。
それは、以前休憩中にサクラが見ていた雑誌に載っていた髪留めだ。
カカシと談笑しているときに、それが欲しいと言ったのを覚えていたらしい。
「・・・有難う」
唇を噛み締めるサクラは、早くも髪を染めたことを後悔している自分が、腹立たしくなる。
初恋の彼女の、代わりとして扱われるのは嫌だ。
だけれど、カカシが自分にかまわなくなってしまうのは、もっと嫌だった。
「まぁ、黒い髪のサクラも良いかもね。どんな色でもサクラはサクラだし」
頭に手を置かれ、サクラが顔を上げると、いつもの明るい笑顔を浮かべるカカシがいる。
「先生ってば、またサクラちゃんばっかり。俺達には?」
「ナルトとサスケには、この前ラーメンおごってやっただろう。それとも、リボン欲しいか?」
「いらないよー」
「はいはい、今日も昨日に引き続き河川敷の清掃任務だから。歩いた、歩いた」
身振りで二人を追い払うと、カカシはサクラに向き直る。
「じゃあ、サクラは先生と手を繋いで行こうか」
「・・・・うん」
サクラの小さな手を握ると、カカシは嬉しそうに顔を綻ばせた。
カカシの態度はそれまでと全く変わっていない。
カカシの掌を強く握り返したサクラは、真剣な表情で問いかける。「先生、私のこと嫌いにならないの?」
「え、何で?」
「・・・先生の初恋の人って、髪がピンクだったんでしょう」
「うん。でも、今は黒くなっちゃった」
「・・・・」
笑いながら答えるカカシに、サクラの頭は混乱していく。
昨日までは、初恋の人はピンクの髪だと言っていたのだ。
何か、大事なことを見落としている気がした。
「ねぇ、先生の初恋っていつだったの。私くらいのとき?」
「ううん。すごーーく最近だよ」
あとがき?
いろんなもの書いていますが、カカサクが一番好きなのですよ。ずっと。