アニマル・ロジック
「先生、馬鹿でしょう。絶対、馬鹿でしょう」
「ハハハハハッ」
「笑って誤魔化さない!」
「・・・ごめんなさい」
しょんぼりと肩を落として謝罪するカカシに、サクラは大きなため息をついた。
河川敷を歩く二人が抱えているのは、生後数日の仔犬達だ。
『拾って下さい』と書かれたダンボール箱の中に入れられ、カカシの家の前に捨てられていた。
ここに置けば何とかなると、噂になっているのかもしれない。
カカシが捨てられた動物を拾うのは、習慣のようなものだった。「この前は猫5匹、その前は兎だったからしらね?蛇とか蜥蜴とか置いていかれたら、どうするの」
「うーん・・・、飼い主を見つけてあげる」
「・・・・」
傍らを見上げつつ、サクラは呆れてしまって声も出ない。
寒空の下、動物の飼い主を探して知人の家を巡るのはこれで何度目だろうか。
そのカカシに付き合っている自分は、彼よりも馬鹿だとサクラは自覚があった。
「困っている人は助けないと駄目だって、昔、先生に言われたんだ」
「・・・・これ、人じゃないでしょ」
「同じ動物だよ。人も、犬も、猫も兎も全部。可愛い、可愛い」
微笑みを浮かべたカカシは、すっかり自分に懐いた仔犬を優しく見つめている。
無言になったサクラは、思わず足元の石を蹴り上げた。本当に馬鹿な話だ。
彼が抱える犬相手に、嫉妬するなんて。
カカシは今まで拾ったどの動物ともすぐに仲良くなっていた。
それに対し、サクラがあまり懐かれないのは邪魔だと思っているのが分かるのかもしれない。
里中を訪ねて回り、何とか仔犬を飼える家を見つけたのは日が暮れる頃だった。
重い足を引きずって歩くサクラに、カカシは懐から出したものを差し出す。
それは、カカシが何故か常備している酢昆布だ。「あげる」
「・・・・有難う」
箱を受け取ったサクラはそれを一枚噛み、残りをポケットへと入れる。
だが、不思議だ。
カカシは会うごとにこれをサクラに渡す。
非常食として持ち歩くよう、定められているのだろうか。「・・・・先生、酢昆布好きなの?」
「別に、普通。サクラが好きなんだろ」
「はー??」
くちゃくちゃと昆布を噛んでいたサクラは素っ頓狂な声をあげて傍らを見る。
「何で?」
「だって、サクラ、それあげたら凄く嬉しそうに笑ったじゃないか。おかげで持ち歩くのが習慣になっちゃったよ」
「・・・・・・」
顎に指を当てたサクラは真剣に考え出す。
酢昆布は嫌いではない。
だが、特別好きということもない。
最初にサクラがそれを渡されたとき笑ったのは、下忍3人に対してではなく、サクラ個人でもらったはじめての物だったからだ。
カカシがくれた物なら、何でも良かった。
このまま自分は酢昆布大好き少女として認識されてしまうのかと思ったサクラは、何とも微妙な表情でカカシを見上げる。「美味しい?」
「・・・・・うん」
カカシににっこりと微笑まれたサクラは、酢昆布を握り締めながらつい頷いてしまう。
頭を撫でられながら、サクラはカカシが動物に好かれる理由が分かってしまった。
あのように笑いかけられたら、たとえ昆布嫌いだったとしても、頷かないわけにはいかない。
「先生―、まさか酢昆布だけで済ますつもりじゃないわよね」
「え?」
「今日一日付き合ってあげたんだから、ご飯おごってよ」
「いいけど、あんまり高いものは駄目だぞ」
苦笑するカカシは、差し出されたサクラの右手を握って歩き出す。
満面の笑みを浮かべたサクラは、掌から伝わるぬくもりに、少しだけ優越感を抱いた。
カカシはどの動物も平等に好きだ。
だが、実際にこうしてカカシと手を繋いで歩けるのは、人間であるサクラだけなのだから。
あとがき??
飼いならされているサクラ?