ああ、カムチャッカ


「え、カムチャッカ出張所!?先生が行くの?」
「んー、何かそこに新しい忍びの隠れ里が出来るらしくて、木ノ葉隠れの里の大使として暫く滞在しろって。火影様に頼まれちゃって」
カカシの家を訪れたサクラはとんでもない話に目を丸くしたが、彼の方は落ち着いたものだ。
カムチャッカといえば、木ノ葉を遠く離れた極寒の地。
好きこのんで行く人間など稀だ。

「こ、断らなかったの?」
「何で」
震える声で訊ねるサクラに、カカシは首を傾げる。
「良いところだよー、自然に囲まれて空気や水はおいしいし、空は綺麗だし」
意外に牧歌的な風景を気に入っているのか、カカシは鼻歌を歌っていた。
「引っ越しの準備もあるし、これから忙しくなるよ〜」

 

本音をはっきりと言ってくれた方が、どれだかマシだったことか。
カムチャッカは徒歩なら一ヶ月以上かかる異国の地。
一度行けばいつ帰れるかも分からず、手紙のやり取りが頼りの遠距離恋愛など耐えられそうもない。
カムチャッカに行くというカカシの言葉は、サクラにとって別離を宣告されたも同然だった。

 

 

 

「で、いつ頃行っちゃうの」
「来週よ、来週。急すぎるっての・・・」
いのの花屋に愚痴りにやって来たサクラは、大きなため息を付く。
「先生の家の荷造りを手伝う身にもなってよ。何で私がそんなことしないといけないの。先生に、行って欲しくないのに」
「あんたも人が良いわねぇ」
「・・・これから、足りなくなったガムテープを買いに行くの。じゃあね」

時計の針を見つめたサクラは、重い足取りで花屋をあとにする。
カカシとの待ち合わせの時間は5分後だ。
宅急便が使えない場所にあるため、カカシの家の物はほぼリサイクルショップに引きってもらうか、友人に譲るかしている。
あの殺風景な家に行くのかと思うと、サクラはどうも憂鬱な気持ちだった。
カカシが遅刻することなく現れても、恨めしい目つきになってしまうのは仕方がない。

 

「いのちゃんとこに寄ったの?」
「うん。ガムテープもちゃんと買ったわよ。先生の荷物は何?」
自分の家に飾る小さなブーケを持つサクラは、カカシが抱える紙袋を見ながら訊ねる。
「あー、向こうの人達に渡すお土産。かさばるものばかりだから、結構大変かも」
「・・・そう」
「それと、サクラの両親にご挨拶に行くときの菓子折とか」
「ふーん・・・・・えっ!?」
適当に聞き流していたサクラは、思いがけない一言に反応して顔をあげた。
「何で先生がうちに来るのよ」
「だって、サクラも当分はご両親に会えなくなるわけだし、きちんとどこに何をしに行くか説明しておかないと駄目でしょう」
「はーーーー!!?」
往来で突然素っ頓狂な声を出したサクラを、カカシは不思議そうに見つめている。

 

 

「ちょっと待ってよ。えーと・・・、何の話だったかしら」
「カムチャッカ。サクラ毎日うちに来ていたけど、自分の物はどれくらい整理出来たの?」
「・・・・・」
腕を組みながら思案するサクラは、段々と事情が呑み込めてくる。
「いつ、私が、先生にくっついてカムチャッカに行くっていったのよ!?」
「来ないの?」
逆に訊ねられ、サクラは思わず言葉に詰まった。

「じゃ、じゃあ、最初から私が一緒に行くと思って話をしていたの?」
「うん。だから、「忙しくなるよー」って忠告したじゃないの」
「でも、普通はもっとしっかり言ってくれるものでしょ!「黙って俺に付いてこい」とか、何とか!!」
「・・・・・ああ」
「「ああ」じゃないわよ、「ああ」じゃ!!私が里から離れたくないって言ったら、別れ話を切り出したらどうするつもりだったのよ」
「それは、考えてなかったなぁー」
激昂したサクラの声をカカシの笑いがかき消した。
「だって、俺、サクラなしの人生なんて想像もつかないんだもの」
殺し文句をあっさりと言ってのけるカカシに、サクラは開いた口が塞がらない。

 

 

「サクラ、一緒についてきてくれる?」
屈んでサクラと顔を近づけると、カカシは改めて誘いの言葉を口にした。
カカシの瞳を間近で見据え、サクラは全て最初から仕組まれていたのではないかと勘ぐってしまう。
カカシと別れなければならないという落ち込んだ気持ちから一転して、今回のプロポーズめいた台詞。
今さらこの手を離せと言われても、どだい無理な話だった。


あとがき??
別に出張所はどこでも良かったんですが、何故カムチャッカ・・・・。
遠い、というイメージが。パタリロの影響だと思われます。
カカシ先生、左遷ですかね。サクラがいれば、地獄でも天国だと思いますが。


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