ラブストーリーを君に


日曜の午前中、カカシからの緊急の呼び出しに駆けつけた下忍達は、用件を聞くなり唖然とした。
カカシの家の引越しの手伝い。
何か事件が起きたのかと緊張していただけに、拍子抜けだった。

「あの、俺、先生からの電話に出たとき思い切り寝起きだったんだけど・・・」
「見れば分かるよ」
不満げなナルトの顔を見ながらカカシは苦笑をもらす。
頬には涎のあとがくっきりと付き、髪の寝癖はそのままだ。
他の二人も顔は洗ってきたようだが似たようなものだった。

「時間外労働じゃないのか」
「特別手当は出るの?」
「まさかー」
サスケとサクラの頭をカカシは順番に撫でていく。
「仲間なんだから、助け合いましょう」
人の良い笑みを浮かべてはいるが、逆らえば忍犬達をけしかけるつもりだ。
その笑顔の下の本心を察し、目を合わせたサスケとサクラは深々とため息をついた。

 

 

「休日に呼び出されて荷造りの手伝いなんて、絶対嫌がらせよ。先生、私達のこと嫌いでしょー」
ナルトとサスケは諦めきって作業を続けているが、サクラはまだぶつぶつと呟いている。
暇を持て余していたナルト達と違い、いのや他の友人達と買い物の予定があったのだから当然だ。
「そんなことないよー、大好きだよーー」
「いーかげんねー」
「何だよ、どう言えばいいのさ」
棚の本をダンボール箱に移しながら、カカシは背後で古紙をまとめているサクラへと目を向けた。
「そうね。先生が私のこと愛してるって10回言ってくれたら、喜んで手伝ってあげようかし・・・」
「愛してる」

その瞬間、サクラの体は石のように固まる。
耳にした言葉を頭で理解するまで暫しの時間を要した。
サクラがぎこちない動作で振り返ると、カカシは再び繰り返す。
「サクラを愛してる」

 

真っ直ぐにサクラを見つめるカカシは、別人かと思うほど真面目な表情だった。
自分が言い出したこととはいえ、このように面と向かって愛の告白をされるのは、もちろん初めての経験だ。
少しも逸らされない視線に頭がくらくらする。
火が出るかと思うほど顔を赤くしたサクラは、何か言いかけたカカシを慌てて押しとどめた。

「も、もういいわよ!!聞こえています!愚痴って悪かったわよ」
まともにカカシの瞳を見られないサクラは、足元にあるゴミ袋を引きずり玄関へと逃げていく。
「収集場所に持っていきます!」
乱暴に扉が閉められたのは、照れているせいだ。
一部始終を目撃していたナルトは、感心したようにカカシを見やる。

「先生ってば、人の動かし方を分かってるね」
「ばかーー」
窓拭きをさぼるナルトの頭をカカシは軽く小突いた。
「本当じゃなかったら、言えるかい。あんなこと」
「・・・さいですか」

 

 

 

収集場所にゴミ袋を置き、ネットをかぶせた後も、サクラはぼんやりとその場に佇んでいる。
外の風に当たっても、顔は耳まで赤く、鼓動は早いままだ。
カカシの声と真摯な眼差しが、不思議と心に残っている。
「・・・変なの」
7班の担任としてしか見ていなかったはずだった。
それなのに、今は彼のことで頭がいっぱいになっている。
悶々と考えるサクラは近寄る気配に気づかず、肩を叩かれて大げさに飛び上がった。

「び、びっくりしたー」
「ごめん、ごめん」
そこにいたのがカカシでよけいに驚いてしまったのだが、彼はくすくすと笑って道の向こう側を指差した。
「サクラ、うちの建物のゴミ置き場って、あっちなんだ。ここは隣りのマンションの人達のなの」
「あ、そ、そうなんだ」
「紛らわしいから、サクラが間違えてるかと思って追いかけてきたんだ」
ゴミ袋を再度持ち上げて話すカカシはいつもどおりで、サクラはほっとした気持ちで彼の後ろをついて歩く。

「先生、新居ってもう決めてあるんでしょ」
「うん」
「どこ?」
「木ノ葉横丁の3番目」
その返答を聞くなり、サクラは目を見開いた。
「うちのすぐ近くよ!」
「・・・そう」
「何でそこにしたの?」
「んー、好きな人がそのあたりに住んでるから。頻繁に遊びに来られると思って」
「そっか、じゃあその人の家もうちの近所なのね」
頷きながら言うサクラを横目に、カカシは苦笑いをしている。
「・・・・何よ」
「いえ、何でもありません」

 

ゴミを指定の場所に置き、戻る間サクラはずっとカカシの横顔を眺めていた。
気づいていたけれど、カカシはそのことには触れずに声を出す。
「遊びに来てくれる?」
「え、な、何」
「サクラ、引越したらうちに来てくれるかな」
「・・・・先生が寂しいなら、行ってあげてもいいわよ」
何気なく口にしてから、しまったと思った。
だが、全ては後の祭りだ。

「寂しいよ。だから、サクラに来て欲しい」
無防備な笑顔と共に言われたサクラは、赤面した顔を誤魔化すために必死に俯いている。
妙なところで素直な人だ。
このままずっと一緒にいたら心臓が持ちそうにない。
彼の言動一つで何故こうも動揺するのか、その理由についてはまだ分からないサクラだった。


あとがき??
恋の始まりでしょうか。
ちなみに、「ばーーか」ではなく「ばかーー」なのがポイントなのです。
井上さんの声で「愛してる」なんて言われたら、どんな女の子でもおちるでしょう。(笑)
自分に好意を持っていると分かって気持ちが傾くってのも、ありかと思いまして。
タイトルは仲村トオルと後藤久美子の映画ですね。


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