お父さん


仲間の命を優先させたために、任務は大失敗。
死者は出なかったが、依頼主の屋敷は大破し、大きな損害となった。
悪評は近隣の国々にも広がり、木ノ葉隠れの里への依頼は減っていく。
謹慎処分で当分自由に動けないが、里の衰退が目に見えるようだ。
まさか、カカシは自分が父と同じ轍を踏むことになるとは、思いもしなかった。

 

 

 

「親父もこんな気持ちだったのかなぁ・・・・」
町に出れば白い目で見られることが分かっているから、じっとしている。
忍者として、誰が死のうと任務を優先させるのは当然のこと。
「お前が助けたせいで、生き恥をさらすことになった!!」と、命を救った仲間にも非難された。
全く父の時と同じ状況だ。
「あー、やだなー」
笑い声が混じるバラエティー番組が耳障りで、カカシはリモコンで
TVを消す。
任務の失敗を予期しながら、仲間を助けたことを後悔などしていない。
だが一人で閉じこもっていると、滅入っていく気持ちをどうすることもできなかった。

「・・・はいはーい」
ぼんやりと空を見つめる中、激しくチャイムを連打する音が聞こえ、カカシはゆっくり立ち上がる。
また嫌がらせの荷物等が置かれていたら嫌だなぁと思いつつ扉をあけた。
多少警戒していたのだが、そこに立っていたのは、荷物の宅配業者の人間ではなく彼の生徒のサクラだった。
大きな荷物を持ち、息を切らせている。
「あれ、サクラ。綱手様のお使いで雪の国に行ったって聞いたけど、帰ってたの?」
久しぶり、という意味を込めて頭を撫でたのだが、何故かサクラの表情は硬い。
首を傾げたカカシを見据え、サクラの瞳はみるみるうちに潤んでいった。

 

「先生――――!!!」
「うわっ」
体当たりするように飛び付かれ、カカシは後方へ一、二歩さがった。
そして、これは新手の技じゃないだろうかと思うほど強く抱きしめられる。
腕力の強化は綱手に弟子入りした効果だろうが、これ以上このままだと非常に苦しい。
「ちょ、ちょっと、サクラ、どうしたの」
「うぅ・・・」
サクラの肩に手を置いてその顔を見ると、ひどい顔だった。
涙と鼻水でぼろぼろだ。

「ほら、サクラ。鼻」
カカシがポケットから出したティッシュをサクラに持っていくと、サクラは勢いよく鼻をかんだ。
「・・・みっともない」
恥ずかしいのか、カカシから奪ったティッシュでサクラはしきりに顔を拭く。
確かに忍者らしくはないが、赤くなった目元や、派手に鼻をかむ姿がカカシには何だか可愛く見えた。

 

「先生がね、任務に失敗したって話を聞いて、すぐ里に戻ってきたの。信じられなくて」
「・・・うん」
カカシの失態は雪の国にも伝わっているらしい。
恥ずかしい気持ちで頭をかいたカカシだが、サクラの眼差しは真剣だった。
「私、先生が怪我をしたんじゃないかって、心配で心配で・・・・」
話している間にもサクラの瞳には再び涙が浮かび、会話が不可能な状況になってしまう。
「先生・・・・無事で良かった」
しゃくりをあげながら言うサクラは、丸めたティッシュで両目を強く押さえている。

サクラは泣き続けているのに、不思議だった。
カカシは嬉しいと感じている。
その動作や一つ一つの言葉が、胸に染み入るようだ。

「でもさ、任務が・・・」
「大成功だったじゃない。死者は、出なかったんでしょう」
鼻をすすったサクラは、どもりながらも、話が出来るまでに呼吸を整えた。
「壊れた建物は直せばいいし、無くした信用は何年かけても頑張って取り戻せばいい。でも、死んじゃった人は何をしても戻ってこないもの」
「・・・サクラ」
「先生は里の英雄よ。私、鼻が高いわ」

サクラはきっとカカシの里での立場を知った上で言っている。
泣きはらした目で笑ってみせたサクラを見ているうちに、自分も泣き出しそうになって、カカシは彼女を抱き寄せた。
分かってくれる人が、一人でもいてくれる。
そのことがただ嬉しい。
この先誰が何と言おうとも、構わないと思った。

 

 

胸を渦巻くのは、たまらない感謝の気持ちと、大きな大きな後悔の念。
唯一の家族である自分が、あの人に言ってあげれば良かった。
今のサクラと同じ言葉を。


あとがき??
おまけ
SSのつもりで書いていたのに、微妙な長さに・・・・。
先生はお父さん大好きだったけど、結構覚めた子供だったから、言えなかったのね。


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