サクラサンタ


忍者の仕事に、盆も正月もクリスマスもない。
雪の降る中、とぼとぼと夜道を歩くサクラは、その日ばかりは忍びの仕事を呪った。

「うう。クリスマスだってのに、何で任務が入るのよ・・・」
本来ならば、いの達と集まり、パーティーをする予定だった
しかも、夜中までかかって終えた仕事というのが、レストランの調理場の皿洗いだ。
垣間見る客の殆どが、幸せそうな家族連れやカップル。
あかぎれの出来た手に息を吹きかけ、サクラは惨めな気持ちで一杯になる。
「また明日も仕事かぁ」
呟きながら、大きな大きなため息を付いたサクラだった。

 

 

「・・・あれ?」
疲れ切った体を引きずりながら歩いていたサクラは、微かに耳に届いた人の声に立ち止まる。
そして、通り過ぎたその道を振り返るなり、サクラは大きく目を見開いた。
電信柱の下。
ゴミ置き場のポリバケツと共に雪に埋もれているのは、確かに人だ。
しかも、白髪の老人。
目を瞑って身動きしない老人に、サクラは青くなって駆け寄った。

「お、おじーさん、大丈夫ですか?」
「・・・タッチ」
地面に転がる老人に勢いよく手を叩かれ、サクラは「えっ!!?」と声をあげる。
老人の行動に意表を突かれたのもあるが、その老人を手を合わせた瞬間に、サクラの衣装があっという間に様変わりしたのだ。
赤と白を基調とした、クリスマス特有の色彩の服。
下はミニスカートにブーツだったが、同じような衣装を着て店の宣伝をする人を今日は頻繁に見かけた。

 

「な、何これーーー!!?」
「見てのとおり、サンタの衣装さ」
絶叫するサクラに対し、老人はあっさりと言う。
「いやー、わしももう年だね。ぎっくり腰で動けなくなるなんて」
「そ、それとこのサンタの衣装と何の関係が」
「わしは、この木ノ葉の里を担当しているサンタクロースなんだよ」
飄々と告げる老人を目の前にして、サクラは口をあんぐりと開けた。

「君、わしの代理でプレゼントを届けてもらえるかな。あと三軒だけだから。これ住所」
「さ、三軒って、そんな、無理です、私みたいな素人に!!」
「大丈夫大丈夫。この袋にね、その人の欲しいものが出てくるからそれをあげれば任務完了。そのサンタの服ももとに戻るよ。でも、届けなければ一生サンタの服が脱げないから。じゃあ」
サクラが反論する暇もない。
三軒分の住所の書かれた紙切れと白い布の袋をサクラに押しつけ、白髭の老人は忽然と姿を消してしまった。
電信柱の灯りの下、サクラは呆然としたまま立ちつくす。

「・・・・やるしかないわ」
暫しの時間が経過したのち、サクラは布袋を握り締め、ごくりと唾を飲み込む。
試しに布地を引っ張ってみたサクラだが、それは老人の言ったとおり、どうやっても脱ぐことができなかった。
一生サンタクロースの格好をして生きるなど、ご免蒙りたい。
前向きに考えたサクラは三名の名前の書かれた紙切れに目を走らせた。

 

 

 

 

辛抱強くその家の灯りが消えるのを待ったサクラは、住人が寝静まったと思われるころにようやく窓から侵入を試みる。
サンタクロースに頼まれた三軒の家は、運良くサクラの顔見知りの家だった。
もし住人に見とがめられても、うまくすれば、泥棒に間違われることなく言い訳できるだろう。

「でも、この服って便利ねぇ」
サクラが念じるだけで、体はふわりと窓際へと飛ぶ。
そして、雪の降る夜だというのに、少しも寒くない。
さらには窓の鍵も楽々開いてしまうのだ。
サクラにその気はないが、泥棒が泣いて喜ぶ衣装だろう。

「おじゃましまーーす」
小声で呟いたサクラは、そろそろと部屋の中へとあがり込む。
サンタのブーツが雪や泥を弾いていたこともあり、土足で上がり込んでも足跡はつかなかった。

 

 

サクラが寝室へと入ると、目的の人物はよほど寝付きがいいのか、高いびきをかいている。
「あーあ、お腹出しちゃって」
サクラは彼が蹴飛ばしている掛け布団をいそいそと体にかけてやった。
ナイトキャップをかぶり、幸せそうに眠っている金髪の少年はサクラと同じ7班のメンバーだ。
律儀にも、近くの机の上にはサンタ用の靴下が置かれている。
どういう機能かは知らないが、灯りをつけずともサクラの目には部屋の内部が丸見えだった。

「どれどれ」
サクラはサンタクロースの老人の言葉通り、白い布袋の中に手を入れ、触れた物体を外へと引き出した。
かなり重量のあるその箱には、こう書かれている。
『通信販売用の“一楽”ラーメン、一ヶ月分。ラーメンファン推進vこれで自宅で“一楽”の味を楽しめる』。
思い切り脱力したサクラは、思わずその場で座り込んでいた。
「・・・・・クリスマスプレゼント、こんなんでいいの、あんた」

 

 

 

二軒目の家。
そこもサクラの班のメンバーの家だった。
黒髪の少年の部屋は綺麗に整頓され、ベッドに入っている彼は、呼吸をしていないのではと心配になるほど静かだ。
息をひそめてベッドに近づいたサクラは、縁にかかった靴下に気づくなり笑いをかみ殺した。
あのサスケが、サンタ用の靴下を用意していたことが意外で、また可愛らしくもある。

何とか呼吸を整えたサクラは布袋へと手を伸ばしたが、その手首を何者かに掴まれた。
驚いて振り返ると、それは眠っていたはずのサスケだ。
「・・・誰だ」
「さ、さ、サンタクロースです!!」
恐ろしいほど低い声音で誰何され、サクラは悲鳴じみた声をあげる。
とっさのことで、まるで言い訳を考えられずに答えてしまったのだが、サスケは何故か納得して頷いた。
「そうか、サンタか。サンタ、サンタ・・・・・」
ぶつぶつと呟いたサスケは、大人しくベッドに戻っていく。
掛け布団にくるまったサスケを横目で見つつ、サクラは額に滲んだ汗を袖口で拭った。
「ね、寝ぼけていてくれて、良かった」

一刻も早くこの場を去ろうと考えたサクラは、少しばかりわくわくして袋をさぐったのだが、中身はナルト同様色気のないもの。
サスケの望んだプレゼントは、人間国宝が丹精こめて作った高級手裏剣セットだった。

 

 

 

そうして最後にやってきた、三軒目の家。
建物の外でサクラは首を傾げ、何度も住所を確認したが、確かにこの場所で間違いなかった。

「何でかしら。先生はサンタにプレゼントをもらえる年齢じゃないわよ?」
自分の担任の名前が書かれた紙に向かってサクラは疑問をぶつける。
すると、その声が聞こえたのかどうか、サクラの手元の紙切れが急に眩しく光り始めた。
そして、紙の上に浮き出たのは、サンタクロースの老人の姿だ。

「ここでいいんだよ。親のいない子供達にこうしてプレゼントを配ってるんだけど、この人は子供の時分に一回もプレゼントをあげられなくてね。今回、住所が定着したようだったからリストにあげておいたんだ」
「はぁ、そうなんですか・・・・」
立体映像で浮かび上がる手のひら大の老人を、サクラは珍しそうに見つめる。
「お疲れ様、あと一件だね」
「そうですね」
「これが終わったら、もう帰ってもいいよ。このリストの紙と布袋は自動的に回収されるけど、サンタの衣装はお礼として君にあげるから」
「・・・・有難うございます」
にこやかなサンタクロースに対し、サクラは微妙な表情で礼を述べる。
大変役に立つグッズだと思うが、この服を使うのはサンタのバイトをするか、親しい者とのクリスマスパーティーに出席するときのみだろう。
任務のときはかなり使えそうだが、目立ちすぎて忍者服にはそぐわない。
人様の家に盗みに入るには打ってつけの衣装でも、サクラの考える使い道にそれらはちらりとも含まれなかった。
サンタクロースがサクラを選んだのも、そうした人柄を見抜いてのことかもしれない。

 

 

「先生のところには、さすがに靴下は置いてないわね」
サクラはカカシのベッドの付近を確認すると、早く仕事を終わらせようと布袋に手を突っ込んだ。
だが、どうもおかしい。
今まで二回とも、サクラが手を入れればすぐに物が形になって現れた。
それが、今度はどんなに手で袋をさぐっても、何もない。

「・・・まさか、望みが何もないとかいうオチなんじゃ」
そうなれば、サクラはいつまで経ってもサンタクロースの仕事を終えられないということになる。
「ちょっと、やめてよ。そんな。カカシ先生!!」
慌てたサクラは気配を消すのをやめ、眠り続けるカカシの体を必死に揺すった。
「先生、欲しいもの考えてよ!そうじゃないと、私、一生サンタの格好のままなんだから」
「んんーー・・・・、何、誰―?」

目元を擦ったカカシは、緊張感の全くない声を出すと、枕元の電気スタンドのスイッチを入れる。
そして、自分の顔を覗き込んでいるサクラを、じっと見据えた。
「・・・・あれ、サクラ?」
「そうよ、私よ。さぁ、何か欲しいものを・・・キャア!!!」
そのまま腕引かれ、ベッドに倒れ込んだサクラは小さく悲鳴を上げた。
「ちょ、ちょっと、先生!!私よ、サクラだってば!」
「うん、うん。本物だ。いい匂いするし」
「ギャーーー!!!!」
頬ずりをされたサクラは、本格的に絶叫する。

「先生、や、嫌だ、駄目だって!!!」
「いやー、サクラの方から夜這いに来てくれるなんて、先生感激だなぁー。たっぷり可愛がってあげるね」
「ひーーー!」
脱げないはずのサンタの衣装が、カカシの手でどんどんはぎ取られていく。
もうこれ以上四の五の言っている余裕はサクラにはなかった。

 

 

 

 

「おはよーー!!」
翌朝、7班の集合場所にやってきたナルトは、いつものように元気よく挨拶をする。
非常に珍しいことに、担任であるカカシもすでにやってきていた。
そのこともあるが、ナルトが驚いたのはカカシの顔だ。

「カカシ先生、どうしたの、その痣!!誰かに殴られたの?」
「うーん、それが分からないんだ。朝起きたらこうなっていてさ。誰かが家に侵入した形跡はなかったんだけど」
カカシは目元に出来た青痣をさすりながら言う。
その隣りにいるサクラが、不機嫌そうに顔を背けていることには気づいていない。
あのとき、カカシが寝起きで体の動きが鈍っていなければ、確実にサクラは手込めにされていただろう。
カカシ全く覚えていないのは、サクラが殴りつけたショックか、夢だと思っているからなのか。

 

「そういえばさ、うちにサンタが来たんだよ」
「へぇ、それは良かったなぁー」
カカシはさして驚くことなくナルトの話に相槌を打つ。
「で、何をもらったんだ」
「ラーメンセットvv」
「・・・・お前らしいね」
のんびりとした会話をするカカシとナルトの間に、サクラが強引に体を割り込ませる。

「カカシ先生!!」
「ん、何?」
「もし、サンタクロースにお願いするとしたら、何が欲しい」
サクラはしごく真面目にその質問をしたのだが、カカシは何故か含み笑いをして彼女を見る。
「あーー、俺の願いはサンタじゃ駄目かもねぇ」
「何よ、それ!」
ふてくされたように言うサクラに、カカシはにっこりと笑いかけた。
「だって、俺が欲しいのはサクラだもん」


あとがき??
カカシ先生の望みを叶えたから服が脱げるようになったんですねぇ。
だからよけいに危なかったようですが。(笑)
リクエストは、「クリスマスが近いのでサクラorカカシをサンタにしたお話」「カカサク」ということでしたが、クリアしてますでしょうか。(^_^;)
く、クリスマスが過ぎる前に終わって良かった・・・・。

135100HIT、染子様、有難うございました。


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