ピンクの髪と恋愛事情


「あれ、また短くしたんだ」
「うん。そろそろ暑くなってくるしね」
サクラは肩の上で揺れる桃色の髪に触れながら答える。
サクラといのの二人は中忍選抜試験の最中、揃って髪を切った。
以後、いのは再び髪を伸ばし始め、サクラはそのままの長さをキープしている。
彼女達がロングを目指していたのには、もちろん理由があった。

「何よ、サスケくんのこと諦めたの?」
「そんなはずないじゃない。サスケくんは私が助けるし、里に戻ってきてくれたらまたアタックするわよ」
怪訝な表情で訊ねるいのをサクラは笑い飛ばす。
廊下での短い立ち話を終えると、サクラは出口とは別の方向へ向かって歩き出した。
もう
5時を過ぎたのだから終業時間のはずだ。
「どこ行くの?」
「ちょっと、師匠のところ」

 

 

 

師匠は師匠だが、サクラが言ったのは綱手ではなく7班の担任のことだった。
報告書の提出のためにカカシがその部屋に入ったのを、サクラは少し前に見ている。
カカシの報告書は大雑把なためにいつも受け付けでチェックが入るのだ。
それを直し、部屋を出てくるのは
15分ほど後だろうか。

「カカシ先生!」
うろうろと歩いていたサクラは、彼の姿を見つけるなり駆け出した。
「あれ、サクラ。どうしたの?」
「図書館に行った帰り。偶然ね」
エヘヘッと笑うサクラを見下ろしたカカシは、彼女の頭にそっと手を置く。
「髪、さっぱりしたね」
「うん」
優しく頭を撫でられたサクラは、嬉しくてたまらないというように笑った。
名の通った上忍の彼は多忙なため滅多に里にいない。
密かに彼の仕事のスケジュールをチェックし、こうして張っているわけだがカカシは全く気づいてないようだ。

「先生、これから忙しいの?」
「んー、今日の仕事は終わりだよ。明日と明後日は珍しくオフなんだ」
すでに知っている情報だったが、サクラは「そうなんだ」と答えておいた。
「飯食べに行くんだけど、サクラも一緒に行く?」
「うん!」
待ってましたとばかりに頷くサクラを見て、カカシは顔を綻ばせる。
サクラの好きな、優しい笑顔。
高鳴る胸を誤魔化すように、サクラは胸元の服を掴んだ。
もっともっと、彼の笑顔を沢山、間近で見つめていたいと思う。
サスケに憧れていたときと違い、誰にも言えない、秘密の恋だった。

 

 

「サクラは髪が綺麗だから、すぐに切っちゃうのはもったいないって」
「え!?」
カカシの一言に、サクラは持っていた椀を落としそうになる。
二人の入った定食屋は混雑しているため、自然と声が大きくなっていた。
「紅がねー、いっつもサクラの髪を褒めるんだ。自分は枝毛だらけだから、羨ましいって」
「そ、そう。紅先生」
箸を置いたサクラは自分の髪の先を少しだけつまんでみる。
手入れを欠かさないこともあるだろうが、さらさらした髪質は元からのものだ。
長かった頃は友人達に何度もシャンプーやリンスは何を使っているのかと訊かれていた。

「ま、短い方が元気なサクラに似合っていて、俺は好きだけど」
にっこりと笑うカカシを見たサクラは思わず頬を染めた。
彼にこうしたことを言われたのは、二度目だ。
最初は試験中に髪を短くした自分を気遣って言ったのだと思ったが、その言葉は自然とサクラの頭に残っていた。
以来、少しでも髪が肩に付くと、美容院に向かってしまう。
何故だろうかと自分の行動を考えたとき、カカシの顔が頭をよぎり、サクラは初めて彼への想いを自覚したのだ。

「サクラ、顔赤いよ。暑いからかなぁ。水、もらう?」
サクラの返事を待たず、カカシは店員に向かって合図をしている。
上忍のくせに鈍すぎるが、サクラは運ばれてきた水を黙って受け取った。

 

 

 

 

ゆっくり話をするため、定食屋から出た二人はその足でサクラの行き着けのカフェに寄る。
カカシの任務の話を聞き、サクラが綱手の元での近況を話すうちにすっかり外は暗くなっていた。
サクラとしてはもう少しカカシのそばにいたかったが、思えば彼は任務で何日も泊り込んだあとだ。

「ご、ごめんなさい。先生、疲れているのに私が引っ張りまわして・・・」
「んー、平気だよ。サクラの顔見てれば癒されるから」
冗談めかして言うと、カカシは伝票を持って立ち上げる。
「少し遅くなっちゃったね。送っていくよ」
「平気よ。私だって忍者なんだし、先生はまっすぐ帰って休んで」
「駄目―」
前を歩くカカシは少しだけ後ろを振り向きながら言葉を続けた。
「可愛い生徒のサクラに何かあったらと思うと、心配で眠れないからね。忍者とはいえサクラは女の子なんだから、夜道を一人で歩いたりしたら駄目だよ」

明るく笑うカカシの声を聞きながら、サクラの表情が僅かに陰る。
生徒だから、カカシはサクラに優しくするのだ。
いくら可愛いと言われても、楽しかった気持ちがしぼんでいくのを感じる。
14も年が離れていては、恋愛の対象として見ないのが普通なのかもしれなかった。
告白したくとも断られれば元の教師と生徒として付き合っていくのは気まずいものがある。
悶々と考えるサクラはレジから戻ったカカシが声をかけても気づかないほど真剣な表情をしていた。

 

「サスケがロングの子が好きだから伸ばしていたって、本当?」
「えっ」
店を出てすぐ言われたサクラは、何のことか分からず首を傾げる。
「髪。サスケの好みに合わせて伸ばしていたんでしょう」
「あ、ああ、そうよ。サスケくんってあんまり自分のこと喋らないし、その情報を信じてくノ一クラスの子はみんな髪を伸ばしていたの。本当かどうかなんて、本人に訊いたことないけどね。先生、何で知ってるの」
「アスマが、いのちゃんから聞いたんだって」
「そう」
仲の良い
10班は何でもツーカーのようだ。
カカシと並んで歩き出したサクラはクスリと笑う。

「そんな眉唾ものの情報に頼っちゃって、私達も子供だったわよね」
「今はもういいの。ロングじゃなくても」
「うん。短い方が似合うって言われたし、それが嬉しかったから私は・・・・」
そこまで口にして、サクラはハッとなる。
長い髪はサスケへの想いの象徴なのだから、今の言い方だと彼への未練を断ち切ったように聞こえなくもない。
そして、短い方が似合うと言ったのはカカシだ。

自分の気持ちを悟られたかと恐々傍らを窺ったサクラだが、カカシは表情を変えずに前方を見ている。
安心して視線を戻したサクラは、突然肩に置かれた手に叫び声をあげそうになった。
「サクラ、明日、暇?」
「う、うん。とくに用事はないけど・・・」
「じゃあ映画でも観に行こうか」
屈んでサクラを見やったカカシは感情のつかめない曖昧な顔をしている。
邪魔な額当てとマスクがなくとも、やはりサクラには分からなかったことだろう。
「え、エッチな映画じゃなければ、いいわよ」
「分かった」
動揺しつつ何とか言葉を発したサクラに、カカシは小さく頷いて顔を離す。

 

カカシはいつもどおりの笑顔を浮かべたが、何が何だかサクラには全然分からない。
そして、肩に置かれたままになっている彼の手が気になって仕方がなかった。


あとがき??
定食は先生の趣味ですね。焼き魚定食だったと思います。
死にそうに落ち込むことがあったので、カカシ先生とサクラに助けてもらおうと思って書いた
SSでした。
サクラ
×カカシも好きです。
いつもサクラにベタ惚れな先生を書いていますが、実際はこんな風に何を考えているか分からない人だと思います。
サスケのことを確認してから動いているので、たぶん先生もサクラを好きなんですよ。
ああ、何だか本当に・・・・辛い。でも、この二人好きだ。


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