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廊下に、いかがわしい本が落ちていた。
何故一目で分かったかというと、堂々と裏表紙に「18禁」の文字がある。
アカデミーの生徒が頻繁に通るこの場所には、あまりにふさわしくない本だ。
サクラがそれを拾い上げたのは、道徳意識が強かったのと、彼らの姿が丁度目に入ったからだった。

 

 

「くれぐれも、ナルトのことはよろしくお願いしますね!!」
「・・・はいはい」
必死な様子のイルカに、カカシはうんざりとした口調で答えたが彼は全く気にしていない。
任務の報告書を提出しにやってきたカカシを捕まえ、イルカは延々と生徒達、主にナルトに対する心配事を語っている。
「あいつは本当に向こう見ずな性格で、放っておくととんでもない怪我をするんです。ちゃんと目を離さないようにして・・・」
「そうですね」
適当に相づちを打ちつつ、カカシはぼんやりと窓の外を眺めていた。
アカデミーの卒業試験が終わり、彼の元生徒の三人は確かにカカシの受け持ちとなる。
卒業生を担当する上忍一人一人にこうして話しているのだとしたら、ご苦労なことだと思った。

「イルカ先生」
ふいに可愛らしい少女の声が入り込み、イルカの視線がようやくカカシから外される。
見ると、木ノ葉の額当てをした桃色の髪の少女がイルカの袖を引っ張っていた。
「こんにちは」
「ああ、サクラ。どうした?」
「図書室に本を返した帰りです。あの・・・」
カカシへと顔を向けたサクラは、「18禁」の文字を表にしてその文庫本を差し出す。
「これ、落とし物です」

 

すぐさまポケットをさぐったカカシは、そこに愛読者がないことに初めて気づいた。
命の次に大切な本を落とすなど、とんだ失態だ。
受け取った本をさも大事そうに抱えると、カカシは感謝の気持ちを込めてサクラに笑いかける。
「有り難うー、無くしたら大変なことになっていたよ!」
「いえ。じゃあ、先生、さようなら」
「待って」
そのまま会釈して行き過ぎようとしたサクラを、カカシが腕を掴んで引き留める。
「ねぇ、何で俺が持ち主だって思ったの?イルカ先生だっているのに」
「・・・・・あなたの方が、好きそうな顔をしていたから」

カカシを見るサクラの瞳には、明らかに侮蔑の色があった。
年頃の少女らしく、年齢制限のついた本に対して抵抗感があるのだろう。
そして「教師の鑑であるイルカが18禁本を外で読み歩くはずがない」というサクラの予想は、大当たりだったわけだ。

 

 

「さ、サクラ、この人は上忍のえらい人で・・・」
慌ててサクラを諌めようとしたイルカだが、カカシは手を振ってそれを遮る。
「まあまあ、イルカ先生。俺が好き者だってことは本当だし。えーと、サクラちゃん。君、怒った顔が可愛いねぇ」
「有難うございます。じゃあ」
サクラがおざなりな返事をして歩き出だすと、カカシは口元に笑みをたたえたままその後ろ姿を見つめる。
「いーなー、あの挑むような目。イルカ先生の生徒さんですか?」
「はい。サクラはくノ一クラスでも成績が常に上位で頭のいい子ですよ。男子に人気があるようで、ナルトもサクラを追い掛け回しています」
話題が自分の教え子のことになると、イルカは我が子を自慢する親のような表情になった。

「彼女も確か、この前の試験をパスした生徒さんですよね。卒業生のリストに名前があったような」
「そうです、けど・・・」
カカシの声に妙な含みを感じたイルカは、嫌な予感と共に彼を見やる。
「あの、カカシさんの担当は、うずまきナルト、うちはサスケ、山中いのの三人に決まっています。サクラはアスマさんの班ですよ」
「重々承知しています」
裏表のないさわやかな笑顔で言われ、イルカも思わず同じように笑顔を返す。

イルカの不安は珍しく的中した。

 

 

 

「サクラ」
職員室の前を足早に通り過ぎた影に気づき、イルカは走って追いかける。
本の虫の彼女は、三日とあけずに図書室に通っていた。
ここで張っていればいずれ現れると思ったが、狙い通りだ。
「あっ、イルカ先生、こんにちは」
イルカに懐くサクラはたちまち明るい笑顔になり、イルカも顔を綻ばせる。
だが、ほのぼのしている場合ではない。

「サクラ、セクハラ被害にあっているって、ナルトから聞いたけど」
「ああ・・・・」
ふと目線を下げたサクラは、今までイルカが見たことがないような愁いを帯びた眼差しで呟く。
「もう、慣れました」
仕事の合間に体をべたべたと触られるだけでなく、近頃ではプライベートな時間にもカカシが入り込んできている。
どうやって取り入ったのか、サクラの両親を味方につけたカカシは堂々と春野家に出入りしているのだ。
両親がすぐ近くにいようと構わず抱きついてくるのだから、サクラは気が気ではない。

 

「サクラ、ごめん・・・」
「何で先生が謝るんですか?」
項垂れたイルカをサクラは不思議そうに見やる。
イルカがあのとき、あの場所でカカシを引き止めていなければ、サクラ達が出会うことなかった。
そうなればカカシが強引に班のメンバーを変えると言い出すこともなく、サクラは平穏な生活をしていたはずだ。
「何でも、埋め合わせはするから」
「イルカ先生?」
サクラの手を握り、泣きそうな顔で言うイルカを彼女は不思議そうに見つめている。

「あーー、そこの駄目中忍ー、サクラから手を離しなさーーい!」
二人の邪魔をするように聞こえてきたのは、ガーガーと雑音混じりの拡声器の音だ。
サクラのあとを付けてきたと思われるカカシが、イルカを鋭く睨みながら近づいてくる。
「全く、油断も隙もない。そういうのをセクハラって言うんですよ。可愛い生徒に色目を使うなんて、最低です!!」
「・・・・」
カカシは本気で怒っているようだった。
自分のことは棚に上げ、厚かましく言ってのけるカカシにイルカとサクラは突っ込みを入れる気力もない。
イルカの手を振り払ったカカシは、満面の笑顔でサクラの肩を引き寄せる。
「さあ、サクラ。俺達の家に帰ろうねv」
「・・・あれは、私の家だってば」
「あ、そうそう、忘れるところだった。サクラにプレゼントがあったんだ」

半眼で自分を見るサクラを無視し、カカシはポケットから小箱を取り出した。
サクラの左手を掴み、有無を言わせずつけたものは銀色のシンプルな指輪だ。
「・・・・何のつもり?」
「これはね、知り合いに作ってもらった特注品なんだ。時空間忍術の目印で・・・」
「そんなのどうだっていいわよ!!どうしてこの指なのか聞いてるのよ!!」
左手の薬指にある指輪をサクラはすぐさま抜こうとしたが、それは全くびくともしなかった。
「な、何で!!」
「人の体温に反応して大きさが変化するんだー。一生外れないから、安心だよ。結婚指輪だと思って大事にしてね」

 

にこやかに言ったカカシだったが、光の速さで繰り出されたサクラの右こぶしが頬に当たりその場で転倒する。
そばで見ていた中忍のイルカでさえ見切れない、素早い攻撃だった。
「・・・・外す方法、作った人に教えてもらってきて」
「分かりました」
目を吊り上げ、恐ろしく低い声で呟くサクラに対しカカシは低頭して答える。
サクラとて、やられてばかりで黙っているか弱い少女ではない。
彼らの真の力関係を見たようで、イルカはとりあえず胸をなでおろしたのだった。


あとがき??
カカサクというより、カカ→サク!??
風邪中なので、あんまり身が入っていない様子。
最初の話とノリが違いすぎるってばよ。


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