妖怪事件


同じ里にいるとはいえ、カカシはAランク任務を掛け持ちでこなし、サクラは医療術についての講義を受けている。
顔を会わせることは、一ヶ月に1度あるかないかだ。
そして、カカシがアカデミーの廊下で久しぶりに見たサクラは、雰囲気が一変していた。
内面ではなく外面、長く伸ばされていた髪がいやに短く切られている。

 

「サスケを連れ戻すまで、願を懸けて伸ばすって言ってなかったっけ?」
「イメチェンよ、イメチェン。短いのだって、可愛いから似合うでしょう」
堂々と自画自賛するサクラにカカシは思わず苦笑したが、その表情が僅かに陰ったことを見逃さなかった。
「でも・・・、ちょっと長さが不揃いじゃないの?」
さらさらと手触りのよい髪に触れながら、カカシは眉をひそめて言う。
前にも、サクラが同じような髪になったのを見たことがあった。
あれは中忍選抜試験の最中、音の忍びとの戦いで彼女が自らの髪を切り捨てたときだ。

カカシの瞳を静かに見つめ返すと、サクラは明るい微笑を浮かべてみせる。
「カミカミバッサリっていう妖怪にやられたのよ。悪戯好きの妖怪で、自分より髪の綺麗な女の子を見つけると寝ている間に切ってしまうんですって。私も妖怪に嫉妬されるほど艶のある髪だったってことよ」
「・・・・へぇ」
「ちなみに、先生にくっついているのは、チコクスルーネ。目覚まし時計の音を聞こえなくする妖怪よ」
「じゃあ、遅刻は俺じゃなくて妖怪のせいなんだな。ようやく分かったよ」
カカシが話を合わせると、「反省してないわねー」とサクラは少し怒ったような顔を作った。
それからすぐにチャイムが鳴り、サクラは別れの挨拶と共に走って行ってしまったが、カカシは彼女の不自然な笑顔が気にかかる。
サクラの性格上、何か悩み事があっても一人で抱え込み、訊ねても簡単に返事は返ってこない。
そうなると、行くべき場所は一つだけだ。

 

 

 

「いじめられてるのよ。自分からは絶対言わないけど、髪もその子達に切られたみたい」
その日の午後、入っていた仕事を延期させて花屋に行くと、サクラよりもサクラの事情に詳しいいのが詳しく教えてくれた。
綱手が里に戻ってくる以前にも医療術を学ぶための専門の施設はあり、サクラもそこに入って修行に励んでいる。
勉強熱心で元々才能のあったサクラは一躍主席の成績を収めたようだが、面白くないのはそれまで優秀な生徒とされていた者達だ。
教師達の注目はサクラへと移り、さらに彼女は伝説の三忍の一人、綱手の直属の弟子でもある。
授業の終わったあとに綱手からも教えを受けているのだから、術がめきめきと上達するのも当然というものだ。

「ノートや教科書を盗られたり、教室移動のときに別の場所を教えられたり、そんな細かい嫌がらせから今度の髪のことまで、いろいろやられてるらしいわよ。まあ、よく思っていない生徒はいても友達は出来たみたいだし、実際に行動しているのは3人組のグループみたい。親がどっかの大きな病院の理事と院長で、普段からえばってるんだって」
「そう・・・・」
話を聞いて納得したものの、子供達の諍いに大人が口を挟むのも憚られ、かといって可愛い生徒のサクラが辛い思いをしているというのに、何も出来ないのは歯がゆい。
顎に手を当てて考え込むカカシに、いのはさりげなくメモ帳の切れ端を手渡す。
「これ、その3人の住所と名前」
「えっ」
「大事な髪まで切られて、可哀相よねー、サクラ。カカシ先生もそう思わない?」
意味ありげに笑ういのを見つめ、カカシはその意図をすぐに呑み込む。
「・・・・俺、いのちゃんのこと大好きよ」
「有り難う」

 

 

 

 

朝、サクラが教室へ行くと、珍しくロッカーから何も無くなっている物がなかった。
かといって、荷物にチョコレートアイスをのせられドロドロになっていることもない。
それが普通なのだと分かっていても、執拗ないじめに慣れてしまっていたサクラには不可解だ。

「おはようーー」
仲の良い友達に声をかけると、彼女はすぐさまサクラの元に駆けてくる。
「サクラ、見た!!?」
「え、何を」
「あの、嫌味な3人組。隅の方でしょげているわ。いい気味よ」
何のことか分からず振り返ると、日々サクラに嫌がらせを繰り返していた3人が、別人かと思うほど意気消沈している。
そして、その頭はサクラ以上に、不揃いなざんばら髪になっていた。

「カミカミバッサリっていう妖怪にやられたらしいわよ。人を妬んだり、羨んだりする醜い考え方をする人間のところに現れて、髪をばっさり切っていくんだって。心を入れ替えないと今度は丸坊主にするって言って去っていったらしいわ」
「・・・・・」
どこかで、聞いた覚えのある名前だ。
「妖怪なんて、本当にいるの?」
「そんなのはどうでもいいのよ。これであいつらも少しは静かになるわ。良かったーー、サクラも安心よね」
3人の横柄な態度に少なからず反感を持っていた生徒達は、皆一様に胸のすいた思いで彼らの様子を傍観している。
肩で風を切って歩いていた3人がしょげかえっているのは妙に哀れだったが、今後は邪魔をされることなく勉学に専念できると思うと、少しホッとしたサクラだった。

 

 

「あれ、カカシ先生?」
授業を終えたサクラがいつものようにいのの花屋に立ち寄ると、そこには先客の姿があった。
なにやら楽しげに話していた二人は、サクラを見るなり急に口をつぐむ。
「何よ、どうしたの。先生が花屋にいるなんて珍しい」
「えーと、ちょっと報告に、いや、大事な観葉植物が枯れそうだったから、アドバイスしてもらっていたの」
「ふーん・・・・」
サクラは怪訝そうに眉を寄せたが、カカシといのは何故かにこにこと笑って彼女を見つめている。

「そうだ、サクラにプレゼント。この前、菜の国に行ったときのお土産だよ」
言うが早いか、カカシはポケットから出したものをサクラの髪に付ける。
硝子で出来た、桜の形の髪留めだ。
「うん、可愛い、可愛いv」
「良かったわねー、サクラ」
頭に手をやったサクラは、二人に釣られて自然と笑顔になる。
「有り難う!」
そこには昨日まであった鬱な空気は微塵もなく、カカシもいのもようやく胸をなで下ろしたのだった。


あとがき??
リクは、カカサクで、サクラが他の女子から苛められる話、でした。
修行中のサクラの髪が長かったので、こんな感じに・・・・・。
いのちゃん、ナルトに次いで書きやすいキャラなので、登場回数は多いけれどメインの話は書いたことがない。ごめん。
いのちゃん大好きですよ。
サクラいじめの話ということで、もっと悲惨な予定していたんですが、サクラいじめというより自分いじめのように書くのが辛くなって、出来なかった。
暗い話にならなくて、申し訳ございませんでした。
改めて読むと、いの→サクラ←カカシのような・・・・。

393939HIT、アオ様、有難うございました。


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