first contact 2


「サクラ、朝だよ」
「んー・・・・あと5分ーー」
もぞもぞと布団の中で身じろぎしたサクラは、傍らにある暖かな体に顔をすり寄らせる。
いつもならば彼女が恋人を起こす役目を担っているのだが、今日はやけに早起きだ。
遅刻癖のあるカカシらしくない、と思った瞬間、サクラの目はぱっちりと開く。
「おはよう」
「うわっ!!!」
跳ね起きたサクラは、寝ぼけていた感覚を一気に覚醒させた。
カカシなのは確かだが、サクラと一緒に寝ているのは少年の方のカカシで、彼が子供の姿になったことや、中和剤が出来るまで自分が預かったことを、彼女は走馬燈のように思い出す。
しかし、同じ家に暮らしているとはいえ、布団は別に敷いていたはずだ。

「な、な、何で私のベッドに」
「サクラが無理に引っ張り込んだんだよ。お腹がすいたから起こしにきたのに」
「そ、そうなの・・・。ごめんね」
全く覚えていないサクラは、寝癖の付いた髪を撫でつけながら明後日の方角へと目を向ける。
彼がカカシだと頭で分かっていても、視覚的に自分より小さな子供だとどうも落ち着かない。
「じゃあ、急いでご飯作るね」
「うん」

 

立ち上がってカーテンを開けるサクラの背中を見つめながら、カカシはこっそり舌を出している。
本当はサクラのベッドに潜り込んだのは昨夜のうちなのだが、彼女は全く気づいていないらしい。
昨日に限らず、一昨日の夜も、その前も、サクラのベッドで眠り朝のうちに自分の布団に戻るようにしていた。
一人だとなかなか寝付けないのに、彼女の隣りだと安眠出来るのだ。
父親が死んで以来誰にも頼らずに生きてきたが、サクラとの生活を自然に受け入れていることにカカシは自分でも驚いている。

「今日の仕事は午後からだし、ご飯食べたら散歩に行こうか・・・」
振り向いたサクラの提案に、カカシは明るい笑顔で応える。
サクラといると、何をしていても楽しい。
会ってまだ間もないというのに、ずっとずっと前から一緒に過ごしていたような気持ちになるのが不思議だった。

 

 

 

「サクラさー、恋人はいないの?」
唐突な質問に、サクラは朝食のおかずをはき出しそうになる。
「えっ??」
「だって、一人暮らししているのに彼氏が全然連絡してこないじゃない。もしかして、あのサスケとナルトとかいう上忍のどっちかがそうなの」
「ち、違うわよ。好きな人はいるけど・・・・・・」
サクラはちらりとカカシを見ると、小さく咳払いをした。
「今は遠くに行っちゃってるの」
「ふーん・・・」

ぱくぱくと茶碗の米を口に運ぶカカシは、自分の発言など忘れたようにTVを眺めている。
ホッとしたものの、サクラは少し寂しげな表所でその横顔を見つめた。
箸の持ち方も、何気ない仕草も、細かいところはサクラの知るカカシと同じなのだが、やはり違う。
手足が細く上背のない彼にはいつものように寄りかかることも出来ない。
逞しいカカシの腕の中にいるとどんな不安も消し飛んでしまうというのに、今はそれも望めなかった。

「・・・・先生」
無意識に呟かれた声に反応し、カカシの眉がかすかに寄せられる。
先ほどまでいとおしく感じられたサクラが、今は無性に腹立たしい。
この感情がなんと呼ばれるものなのかカカシは知っていたが、あえて気づかないよう努力していた。
いずれ別れの時がくる。
そのときに、未練が残ってみっともない行動を取ることだけは避けたかった。

 

 

 

ナルトが綱手の部屋から持ち出した薬は、潜入捜査をする忍びがチャクラの消費を気にせず変化するための、試験薬だったらしい。
しかし、はからずもカカシが実験体となり、体を変化させると記憶まで消えてしまうことが発覚した。
これでは使い物にならない。
一週間かけて中和剤が完成したという知らせを受けたサクラは、もちろん大喜びをした。
サクラは本当のカカシに会える、そして少年カカシも不安定な状況から解放されることを嬉しいと思うはずだ。

 

「綱手の師匠が、取りにおいでって。良かったね!」
電話を切ったサクラは後ろに立つカカシに笑顔で言ったのだが、彼は何故か浮かない表情で俯いている。
彼にはただ、薬が原因でややこしい事態になったと伝えているだけだ。
中和剤が出来れば全て元通りの状況になると教えてあるが、ここが未来の世界である等、詳しい話は何もしていない。
不安になるのも当たり前だろうか。
しっかりしているとはいえまだ子供、今まで騒がなかったことが不自然なくらいだ。

「あのね、綱手の師匠はカカシくんが知っているように三忍の一人だし、あの人が作る中和剤なら間違いないわよ。すぐに元に・・・」
「違うよ!」
声を荒げたカカシに遮られ、サクラは目を見開く。
真っ直ぐに自分を見据えるカカシの真剣な眼差しに、思わず息を呑んだ。
「俺は、戻りたくない、このままサクラと一緒にいたいよ」
「・・・・カカシくん」
予想外の出来事に二の句を告げずにいると、サクラの体にカカシがしがみついてきた。
「オビトやリンや、他のみんなに会えなくなってもいい。サクラのいないところに、戻りたくないんだ」

仲間のことは、カカシなりに大切に思っている。
だけれど、サクラがいない場所に戻るのかと思うと、それだけで目の前が真っ暗になった。
彼女が、他の誰かを好きでもいい。
自分のそばにいてくれさえすれば何でも良かった。
「サクラのことが好きだ」

 

自分の体を強く抱きしめ、離れようとしないカカシの背中をサクラは優しく叩く。
カカシに告白をされたのは、これで二度目だ。
どちらの時も同じように感動して、カカシへの想いを再確認した。
でも、サクラが恋をしたのは何事もそつなくこなす今のカカシではなく、あと少し年を経た、遅刻ばかりで生活もだらしない、自分がそばにいないと駄目と思える彼なのだ。

「また、会えるよ」
「・・・・」
「会える、絶対に、会えるから。ねっ」
小さい子供に言い聞かせるように、サクラは何度も繰り返す。
嘘ではない。
サクラが人生を共にすべき相手は、これからもずっと決まっている。
「私も、カカシくんのことが大好きよ」


あとがき??
あとは、超短いエピローグと・・・・・変なおまけ。


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