赤い屋根の家


「先生」

アカデミーの屋上へと続く、階段の踊り場。
サクラは窓枠に頬杖をつくカカシの後ろ姿を、強く睨んでいる。
聞こえないはずなどない距離なのに、カカシは身動き一つしない。
サクラは声を荒げて、もう一度呼び掛けた。

 

「カカシ先生!」
「・・・んー?」
「んー、じゃないわよ!!!駄目じゃないの!」
ようやく顔だけ振り向いたカカシを、サクラは厳しく叱咤する。
「7班だけ報告書がまた提出されてないって、イルカ先生が怒ってたわ!」
「あーーー」
言われて思い出したのか、カカシは急にへらへらとした笑みを浮かべた。

「期限、今日の午後だったっけー」
「そうよ!もう一週間分もたまってるって、どういうことなの」
「あら、イルカ先生ってば告げ口したのね」
「違うわ!私が無理矢理聞き出したのよ!!どうして先生はギリギリにならないと何もしないの!!?朝だって遅刻ばかりだし!」
身を乗り出して詰問するサクラに、カカシは小首を傾げてみせた。
「サクラ、怒鳴ってばっかだね。カルシウム足りないんじゃないの。牛乳飲んでる?」
「・・・・・」
「ほら、良い天気だし眺めも抜群だよ。さっきなんて、あそこに鷺がいたんだから」

 

目くじらを立てるサクラに対し、カカシは脳天気に笑って階下を指差している。
その顔を見ていたら、サクラは自分だけ提出期限を気にして焦っているのが馬鹿らしくなった。

「・・・カカシ先生、この場所好きよね」
ため息をつくと、サクラはカカシの傍らに歩み寄る。
確かに、その窓から望む街の風景は最高だった。
夕日が沈む頃には、日に照らされた街並みが更に美しく映えることだろう。

「ここからだと、よく見えるんだよねぇ」
「何が?」
「サクラは何が見える」
サクラの質問には答えず、カカシは逆に聞き返す。
窓からは、7班の集合場所である橋も川も、公園も商店街も何でも見えた。
だが、その中でカカシの目を留めそうなものといえば、サクラはすぐにぴんとくる。

 

「『イチャイチャパラダイス』の映画の看板!!当たりでしょ」
勢いよく振り向いたサクラに、カカシは何故か苦笑いをした。
「はずれ」
「ええー!?じゃあ、何よ。やっぱり焼き芋の屋台?それとも、公園の白いブランコ??」
「時間、ないんだろ。イルカ先生、怒ってるし」
サクラを無視したカカシは、踵を返して歩き始める。
頬を膨らませたサクラは、面白くなさそうに口を尖らせた。
「そういえば、カカシ先生ってば、何でいつも一度呼んだだけじゃ振り向いてくれないのよ。聞こえてるくせに」
「お前がいつも一度目で俺の名前を呼んでくれないからだよー」

 

 

 

上手くはぐらかされてしまったが、サクラは答えのない問い掛けがどうしても気になった。
翌日、同じ場所に立って外を見下ろしてみても、よく目に付いて、カカシが見えることを喜びそうなものは『イチャイチャパラダイス』の看板だけだ。
それならば、あのカカシの苦笑の意味はなんだったのか。

暫くして、人の気配に振り向いたサクラだったが、それはカカシではなかった。
階段を駆け上がってきたナルトを、サクラは拍子抜けしたように見る。

 

「サクラちゃん?何でこんなところにいるの」
「あんたこそ、どうしたのよ」
「木ノ葉丸が屋上で遊ぼうっていうからさ。たぶん、もう上で待ってると思うけど」
「ふーん・・・・」
つまらなそうに頷いたサクラはナルトから視線をそらした。
そして、再び窓の外を眺めようとして、サクラははっとなる。

「そうだ!ナルト、あんたはここから何が一番に目に付く?」
「え?」
「いいから、見てみてよ」
「う、うん。えーと・・・・」
サクラに強引に腕を引っ張られたナルトは、窓枠に手を置いて外の景色を見渡す。
そして、数秒もしないうちに、目星をつけたらしい。
嬉しそうに顔を綻ばせたナルトは、弾んだ声音で言った。

「サクラちゃんの家の屋根がよく見えるよ!」


あとがき??
同じサクラを好きな人間の視点で見たから、分かるのですね。(笑)
カカシ先生はのらりくらりとサクラをかわしているのですが・・・・。
かまってほしいだけなのでしょう。(^_^;)
好きに書いて良いと言われたので、本当に好きに書いてしまいました。

140000HIT、麻井様、有難うございました。


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