Precious 1


上忍専用控え室の扉を開けたサクラは、きょろきょろと部屋の中を見回し、目的の人物を見つけだした。
顔は確認出来ない位置だったが、背中を丸めて机に向かう後ろ姿は間違いない。
「カカシ先生ー、お弁当よーー」
「・・・・サクラ」
振り向いたカカシは、そのまま壁にかけられた時計へと目を向ける。
すでに正午を過ぎて昼休みに入っていたのだが、気づかないほど集中していたらしい。
それは上忍控え室にいた他の忍び達も同じだったようで、サクラが入ってきたことで皆は一斉に席を立って食事の仕度を始めた。

「いつも有り難うねー」
サクラから弁当箱を受け取ったカカシは、山と積まれた書類を脇にどけ、それを机の真ん中に置く。
「こっちに、スープが入っているから」
「うん」
魔法瓶を鞄から出したサクラに、カカシは頷いて応える。
ナルトとサスケがそれぞれ別の班の助っ人として里の外に出ているため、残ったカカシとサクラは毎日デスクワーク中心の生活をしているのだ。
何か不測の事態がなければ、あと一ヶ月は7班としての活動は行われない。
連日、カカシは長い間ため込んだ書類の処理に追われ、サクラは綱手の手伝いをして執務室に詰めている。
二人が顔を合わせるのは、唯一昼食を取るこの時間だけだった。

 

「いいねー、先生やってると生徒にお弁当まで作ってもらえるんだ」
「いいでしょうv」
菓子パンとかじりながら話しかけてきた上忍仲間に、カカシは何故か胸を張って答える。
栄養面を考えて作るサクラの弁当は彩りが鮮やかで、料理のレパートリーも豊富だ。
この日はミックスサンドイッチに揚げ物や卵焼きといったおかず類とサラダ、スープも付いている。

「先生ってば、放っておくと食事は全部インスタントなんだもの。ナルトには野菜を食べろなんて偉そうに言っているのにねー」
「そうだっけ」
僅か数秒で弁当の半分を平らげているカカシは、素知らぬ顔で視線を逸らす。
「もう、よく噛んで食べないと体に悪いんだからね!それに、そんな急いで食べたら味なんて分からないじゃないの」
「そんなことないよー、美味しい、美味しいvサクラは将来絶対いい奥さんになるよ、うん」
卵焼きを口に入れ、カカシはにこにこと笑ってサクラを見つめる。
おかげで、ふくれ面を作ったはずのサクラの顔はすぐに綻んでしまう。
楽しげに会話する二人を眺めていたその上忍は、口では何を言っても、サクラはカカシを敬愛しているのだと思った。

 

 

「サクラちゃん、俺のもお願い出来ないかなぁ・・・。材料費払うから」
「いいですよ」
駄目もとで頼んでみると、サクラは意外にも簡単に返事をしてきた。
「えっ、本当!?」
「はい。一人分を作るのも二人分を作るのもあまり手間は変わらないですし。どんな物がお好きですか?」
にっこりと微笑むサクラに、上忍は涙が出そうなほど感激した。
独り身で現在恋人もいない彼は、誰かの手作り弁当など長いこと口にしていない。
それを、可愛いサクラが美味しい弁当を作ってくれるというのだから、何も言うことはなかった。

「じゃあ、明日から・・・・」
「駄目駄目ーー」
話がまとまりかけたとき、それまで黙って食事を続けていたカカシが、急に大きな声をあげた。
そして、サクラを庇うようにして二人の間に割り込む。
「サクラ、こいつ女に手が早いんで有名なんだから、簡単に信用しちゃ駄目なんだよー。お前も、うちのサクラに必要以上に近寄らないように」
「何だよ、人聞きが悪い。俺は清廉潔白だ。それに、サクラちゃんはお前の物ってわけじゃないんだろう」
「サクラはまだまだ子供なんだよ。恋人作るなんて早いっての。サクラにちょっかい出す悪い奴は俺が全員退治してあげるからねー」
「・・・・」
確認するように傍らを見たカカシは、そのとき初めてサクラの顔が強ばっているのに気づく。
唇を噛みしめ、何かに耐えているような表情だ。

「サクラ?」
「・・・もう帰る。あとで弁当箱を取りに来るから。洗っておいてよね」
「あー、うん。またねー」
椅子から立ち上がったサクラは、そのまま振り返ることなく戸口から出ていった。
弁当の話がうやむやになってしまった上忍は、カカシに恨みがましい眼差しを向けている。
今、目の前にいるのは彼だけだが、カカシはサクラをちらちらと見ていた若い上忍全員を牽制したつもりだった。
サクラは初めて受け持った、可愛い生徒なのだ。
悪い男に騙されて泣くことがないよう、これからも自分が守っていく義務があるのだとカカシは固く信じていた。

 

 

 

「どー思う?」
たまたまアスマの呼び出しで同じ部屋に居合わせたいのは、彼の顔を窺いながら訊ねる。
「まぁ、子供なのはどっちだって話だよな」
「確かに」
銜え煙草をするアスマの言葉に、いのはしっかりと頷いた。
「カカシ先生はサクラを独り占めしたいだけみたいだし、サクラだって毎日弁当作って会いに来るんだから・・・」
好き合っているのだろう。
答えを出すのは簡単だというのに、当の本人達は相手の想いに全く気づいていないのがおかしかった。

「ま、お互いの気持ちははっきりしているし、何かきっかけがあればすんなり上手くいくと思うのよ」
「・・・・人の色恋に首突っ込まない方がいいぞ。面倒だから」
「サクラが係わっているとなると、黙っていられませんー」
アスマの忠告を、いのは笑顔で否定した。
カカシのどこがいいのかは全く分からないが、サクラが彼を好きなら、何とか上手くいって欲しいと思ってしまう。
サクラはいのの大事な親友なのだから、当然のことだ。
「アスマ先生も協力してくださいねv」


あとがき??
すみません。今回、触りだけって感じで。
この時点でもう、リクから少し外れてきているんですが・・・。(=_=;)
カカシ先生には、『タイタニック』のレオ様のような台詞を言ってもらう予定。(?)
サクラは16歳設定のつもりですよ


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