Precious 2


腕力には自信のあるサクラだったが、それはチャクラを練って集中したときの話なのだ。
この日綱手の指示で保管庫へと運ぶよう言われた資料は、膨大な量があった。
運搬用のカートは全て他の者が使用していて、サクラは仕方なく資料を段ボール箱に詰めて自分の手で運んでいる。
執務室から少し離れた場所にある保管庫は最新のセキュリティーを用いており、万が一他の国の間者が忍び込もうとしても、絶対に突破出来ない作りになっていた。
一つだけある保管庫の扉には磁場を感知する特殊な時計が組み込まれ、木ノ葉の忍びが行う毎日の点検の時刻にならないとけして開かない。
その保管庫へ入る許可を得たサクラの責任はかなり重大だった。

 

「あと二つ」
火影の執務室と保管庫を往復したサクラは、大きくため息をつく。
綱手は会議室で打合せ中、運悪くシズネや火影秘書の特別上忍も出払っているため、手伝ってくれる者はいなかった。
「紙ってかさばるし重いのよねぇ・・・力仕事は男の仕事なのに」
少々愚痴りながら段ボールへと手を伸ばしたサクラは、ふいに肩を叩かれて振り返る。
にこにこと笑って立っていたのは彼女の担任であるカカシだ。
「カカシ先生?何でここに」
「廊下で会ったいのちゃんに、「サクラが苦労してるから手伝ってあげてー」って言われたから」
「・・・・ああ」
段ボール箱を運び初めてすぐ、サクラは保管庫の前でいのと出くわしたのだ。
まだまだ荷物があることを話したのだが、心配したいのが助っ人を頼んでくれたらしい。

「でも、先生、忙しいんじゃないの?」
「んー、平気。書き終えた報告書、アスマが自分のと一緒に提出しに行ってくれたから」
サクラが苦労して抱えた段ボール箱を、カカシは簡単に持ち上げた。
さらに、最期に残った箱も小脇に抱えて歩き出す。
足取りはしっかりしたもので、サクラは大きく口を開けて暫くの間その後ろ姿を眺めてしまった。
「せ、先生って、意外と力持ちだったのね。細いからもっと貧弱だと思っていた・・・・」
「それは心外だねぇ」
てくてくと歩くカカシは、小走りで自分に追いついたサクラに笑いかける。
「女の子のサクラには、負けないつもりだよ」

 

 

保管庫には初代火影の頃から集められた貴重な資料が犇めいていた。
中には門外不出の禁術について書かれた巻物もあり、厳重なセキュリティーも納得な所蔵内容だ。
広い奥行きがあったが、サクラが入ることを許されたのはその入り口付近のごく限られた一区画だけで、あとの整理は他の忍びがする予定だった。
「もしかして、この先には金銀財宝があったりするのかな〜」
「先生、むやみに何か触るとすぐ警報装置が鳴るからね。変な考えは起こさないでよ」
興味深げに周りを見回したカカシに、サクラは釘を差した。
「何よ、人を盗人みたいにー」とカカシはすねたような声を出したが、十分あり得そうなことだ。
うっかり触れて貴重な品物が壊れたりしたら、どんな罰を受けるか考えるだけで恐ろしい。

「じゃあ、行くわよ、カカシ先生」
「うん」
滅多に入る機会のない場所に、名残惜しそうにしていたカカシは、サクラに促されて保管庫で唯一の扉へと向かう。
そして、突然立ち止まったカカシに、サクラは怪訝そうに眉を寄せた。
「先生?どうしたの」
「閉まってる」
「え??」
何を言われたか分からず、サクラはカカシの横に体を移動し、その扉を眺めた。
確かにきっちりと閉まっている。
内側から開けることは不可能なため、扉にストッパーを付けて作業をしていたつもりだった。
夢を見ているような感覚で立ちつくすサクラは、暫しの放心状態のあとに、少しずつ自分の置かれた状況を理解し始める。

 

一日に一度、限られた時間にしか開かない厳重な保管庫。
固い扉は1メートル以上の厚さがあり、助けと求めて叫んだところで誰にも届かない。
もし、サクラがここにいることを外の誰かが察したところで、扉はどうやっても開かないのだ。
「嘘ーーー!!!ちょ、やだ、冗談やめてよーーーー!!!」
「サクラ、落ち着いて・・・」
「先生は落ち着きすぎなのよーー!!!!」
絶叫して扉を叩くサクラは、傍らでイチャパラを読んでいるカカシにがなり立てる。
サクラが慌てている理由を、彼は全く分かっていなかった。

「まあまあ、明日になったら扉が開いて点検の人が入ってくるんでしょうー。一日くらいここでじっとしてても、死にはしないよ」
「・・・・・・・23時間呼吸しないで生きていられたらの話だけどね」
「えっ?」
首を傾げたカカシにを横目に、サクラは深呼吸して気持ちを落ち着かせてから語り始める。
「保管庫の扉は一日に一度定められた時間に開くようになっています。そして資料の保存のために、時間にかかわらず、閉まると1時間でこの部屋は真空状態になるんです」
「・・・・ってことは?」
「空気が無くなって人が過ごせる環境じゃなくなります」
「・・・・・・・・・・・うそーん」
「マジです」
引きつった笑いを浮かべたカカシに、サクラも同様の笑みを返す。
笑って誤魔化そうとも、室内の電気は徐々に暗くなり始め、事態は悪化していくのみだ。

 

「開けてぇぇーーーー!!!」
「カカシ先生、落ち着いてください・・・・酸素が減ります」
一瞬の沈黙のあと、一心不乱に扉を叩き出したカカシの後ろで、サクラは冷静になるよう自分自身に必死に言い聞かせていた。


あとがき??
お、終わらなかった。次で最期。
あの、「二人っきりにする」っていうのがリクの一つだっんですが、いくら何でもこんな極限状態の「二人っきり」は嫌ですね・・・。


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