Precious 3


まずサクラの怪力で扉をこじ開けようとしたが、よほど固い材質なのか、ヒビ一つ入らないで終わってしまった。
忍術は跳ね返す作りになっており、大きな術を使えば自分達と、保管庫の中にあるものがダメージを受けるだけだ。
万事休すの状態となった二人は、薄暗くなった照明の下に背中合わせで座り込んでいる。
先程からカカシはずっと黙ったままで、サクラは口を開くのが怖くて俯いていた。
異様に静かな空間で、背中に感じるカカシの体温に、妙に安心する。
酸素が徐々に減っていくことが分かっているこの保管庫で、一人きり取り残されたと分かったら、気が触れるのは時間の問題だ。
第三者の存在があるからこそ、まだ正気を保っていることが出来る。
だが、そう感じる自分自身に、サクラは罪悪感を抱かずにいられなかった。

 

「・・・サクラ?」
啜り泣く声に反応したカカシは、我に返ったように後ろを振り向いた。
「・・・ごめんなさい」
両手で顔を覆うサクラは、指の隙間からくぐもった涙声を出す。
「私の、私のせいで、先生まで、こんなところに閉じこめられて・・・本当にごめんなさい」
しゃくりあげて謝るサクラに驚いた風だったカカシは、少しだけ口端を緩めて、彼女の体を引き寄せる。
長い付き合いだが、彼女をこうして抱きしめるのは初めてだった。
カカシが黙っていたのは、サクラを責めていたわけではなく、反省していたのだ。
「俺の方こそ、ごめんなさい、だよ」
サクラの髪を撫でながら、言葉を続ける。
「エリート上忍なんて言われていい気になっていたのに、肝心なときに好きな女の子を助けられないんじゃ意味ないよなぁ」

確かにサクラの荷物運びを手伝わなければ、カカシは保管庫で窒息死などしないですんだ。
だが、そうなるとサクラは一人きりで死んでいたかもしれない。
それを思うと、カカシはこうしてサクラにくっついてきて良かったと思ってしまうのだ。
助けられないのは心残りだが、せめてそばにいるくらいはしてあげたい。

 

 

「イッ・・・・イタタタッ、いた、痛い、何!?」
「ごめんなさい、ついに幻聴が聞こえだしたのかと思って」
カカシの頬をつねっていたサクラは、彼の悲鳴を聞いて手を離した。
「カカシ先生、今、何て言った!」
「イタタタッ、痛い」
「その前」
「エリート上忍なんて言われていい気になっていたのに、肝心なときに好きな女の子を助けられないんじゃ意味ないよなぁ」
「それよ、それ」
俄然元気が出た様子のサクラは、カカシの服の襟元を掴まえて、その瞳を間近で見据える。
「どういう意味の好きなのよ。仲間として?それとも・・・」
「サクラとエッチなことしたいなぁって思う好きだよ、もちろん」

瞬間、サクラの体が一気にカカシから離れた。
警戒するように自分を見るサクラに、カカシは苦笑して手を振る。
「いやだなぁ、いくら俺でもこんな状況で押し倒したりしないってば。最中に死んだら明日になって入ってきた忍びが驚くし」
「あ、あ、当たり前よ!っていうか、先生、私のこと子供だって言ってたじゃない。恋愛感情はなかったんでしょう」
「あれは周りに聞かせるために言った言葉じゃないの。サクラのことは最初に会ったときから可愛い子だって思ってたよ」
「・・・・・」
「でもさ、サクラにすれば俺なんておっさんだろうし、いつも叱られてばかりだし、頼りない先生以上には見てもらえないんだろうなぁって諦めて・・・・・サクラ?」

サクラの瞳から、止まっていたはずの涙が再び流れ出したことに気づいたカカシは、懐を探ってハンカチを取り出した。
乱暴にそれを奪い取ったサクラは、勢いよく鼻をかむ。
「わ、私だって、カカシ先生とならエッチなことだって、何だって、したかったのよ」
言いながら、サクラは自分達と外界とを隔てる冷たく固い扉へと目を向けた。
ここが開かなければ、二人に明るい未来などやってこない。
保管庫に入って30分は経過しているのだから、そろそろ呼吸が苦しくなり始めてもおかしくない頃合いだ。
「こんなになって分かっても、遅いじゃないのよ。カカシ先生のばかぁー」
「んー、そうだねぇ・・・・じゃあ、せめてチューくらいは」
「ギャーー!!!ちょ、ちょっとこんなときに何考えてるのよ、離してーーー!」

 

 

作戦が成功したことを喜んでいたアスマといのだったが、二人がじゃれ合い始めたせいで、どうにも出て行きにくい雰囲気になってしまった。
むしろ、バカップルはこのまま窒息して死んでくれ、という気持ちだ。
綱手の協力もあり、カカシとサクラをまんまと保管庫へと閉じこめたアスマ達だったが、この扉は決まった時間内ならば鍵を使って何度でも開閉出来る仕組みになっている。
綱手がサクラに一度きりしか開かないと教えたのは嘘の情報だ。
いまわの際ならば誰でも素直に本音を語るという、いのの発想はまんまと的中したことになる。

「でもさー、私達が扉を閉めたって知ったら二人とも絶対怒るわよねー。一度は死ぬと思ったわけだし」
「こうやって、盗聴器で会話を聞いていることも含めてな」
彼らのためにやったこととはいえ、そうしたことを考えると少々憂鬱になる二人だった。

 

 

 

アスマといのの少々危険な仲立ちにより、晴れて恋人同士になったカカシとサクラだったが、日々の生活にそれほどの変化はない。
たまにそろって早く帰れる日に、夕飯を食べて帰るようになったことくらいだ。
相変わらずサクラはカカシのために弁当を作って上忍控え室を訪れ、お互い多忙な毎日を送っている。
あのとき、保管庫から救出されたサクラは泣き、笑い、最期に怒った。
いのとは暫く口をきかないことにしたようだが、たとえ少しの間でも死の恐怖を味わったのだから、当然といえば当然か。
カカシの方はいつも通りの飄々とした顔つきで、何を考えているのかはさっぱりだったらしい。

 

「サクラちゃん、俺との約束、覚えてる?」
「えっ」
上忍控え室の扉を開いたサクラは、自分を迎え入れた上忍の言葉に目をぱちくりと瞬かせる。
任務が入っていたのか、暫く見なかった顔だが、サクラは段々とその約束を思い出した。
材料費を払うから弁当を作って欲しいと言った、少々ハンサムな上忍だ。
「えーと、お弁当の・・・」
「そうそう」
頷いた彼からその隣りへと視線をずらしたサクラは、忍び笑いを漏らしてしまう。
カカシが苦虫を噛みつぶしたような顔をしているのは、サクラの弁当作りに否定的なせいだろうか。

「申し訳ないですけど、私、これからはカカシ先生のためだけにご飯を作りたいんです」
その言葉に深い意味合いを感じたような気がして、上忍は確認するように訊ねた。
「それは、これからずっとってこと?」
「はい」
にっこりと笑ったサクラからは幸せがにじみ出ているようで、少々寂しげな表情になった上忍は、肩をすくめて呟く。
「それは、残念・・・・」


あとがき??
究極の状況での恋愛を目指していたのに、何か違うような・・・・・。
レオ様どころか、カカシ先生の妙な告白のせいで、話も妙な方向へ。もっと真面目な話のはずが、おかしいな。
ちなみにリクは以下の通りでした。

・カカシ先生とサクラは両思い。でも二人とも片思いと思いこんでいる。
・周り(いのやアスマ)の協力により、仕事中の事故にみせかけて二人きりに。
・最終的にカカサク。

細かく設定を考えて頂いたのに、長々とお待たせして申し訳ございませんでした!


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