Junior Sweet


サスケが里を去り、ナルトが自来也と共に旅に出ると、7班としての活動は停止することになった。
サクラは綱手のもとで修行に励み、カカシは任務に勤しむ毎日だ。
同じ里にいるとはいえ、二人が顔を合わせる機会は以前に比べてめっきり減っている。
同期のいのやヒナタが任務で活躍した話を聞くたびに、喜ばしいと思う反面、サクラは心に大きな隙間が空いたことを自覚してしまう。
一人きりの自分と違い、支え合う仲間がそばにいる彼女達が心底羨ましかった。

 

 

「・・・・こんな感じかしらね」
綱手に頼んで半休をもらったサクラは、拭き掃除をしてぴかぴかになった床を見回し満足げに頷く。
ナルトから鍵を預かったサクラは、週に一度は窓を開けて風を入れに行っているのだが、その話をするとカカシにも鍵を渡されて頼まれてしまった。
確かにカカシは多忙なため家を留守にすることが多く、ナルト同様に里にいないも同然だ。
最初の頃は、どれだけ汚れているかと身構えていたサクラだったが、意外にもいつ訪れてもカカシの部屋は綺麗に整頓されている。
いや、必要最低限な生活用品がそろっているだけで、物が極端に少ないのだから散らかしようがないと言ったほうが正しい。
近くの店で買った花をテーブルに飾ると、殺風景な部屋も少しばかり明るくなったようだった。

今日は久しぶりにカカシが里に戻ってくるため、サクラの掃除も念入りだ。
風通しの良い場所で日陰干しをしていた枕を取り込んだサクラは、さっそく洗濯したカバーを付けていった。
「・・・・先生の匂いだ」
枕に顔を近づけると、懐かしい香りに自然と顔が綻ぶ。
「早く帰ってこないかなぁ」
無意識に枕を抱きしめたサクラは、すぐそばに飾られている写真立てに目を向けた。
そこにあるのは7班のメンバーが全員そろって写っている、唯一の写真だ。
ナルトがいて、サスケがいて、当たり前だと思っていた光景が、今ではとても貴重な記憶となってしまった。
だが、カカシは「大丈夫」とサクラに言ったのだ。
またみんなで仲良く出来る日が来る。
その日を夢見ているから、いや、カカシの「大丈夫」の言葉があるからこそ、サクラは寂しさを隠して頑張ることが出来るような気がしていた。

 

 

 

「・・・・あれ」
目を開けてまず視界が暗かったことに、サクラの頭は混乱する。
自分がどこにいるのかが分からない。
必死に考えた結果、最後に記憶に残っていたのはカカシの部屋で枕を抱えていたときのものだ。
そして、サクラの体は今、掛け布団に包まれている。
「えっ、嘘!!うたた寝しちゃった?」
ベッドから跳ね起きようとしたサクラはこのとき初めて自分の背中に回されている誰かの手に気づいた。
硬直したまま動けずにいると、サクラの隣りで熟睡していた人物がようやく目を覚ます。
「んーー・・・・おはよー」
「か、か、カカシ先生!?な、何でここに」
「何でって・・・俺の部屋だし」
言われてみればそうなのだが、サクラが訊きたかったのは場所よりも何故隣りに彼が寝ているのかということだ。
近くにあった電気スタンドの明かりをつけると、カカシはサクラに向き直りにっこりと微笑む。
「ただいまー」
「・・・・お、お帰りなさい」

カカシが帰宅したときはすでに日が暮れかかっており、ベッドを見るとサクラが枕を抱きしめてすやすやと寝息を立てていた。
それがあまりに気持ちがよさそうだったため、起こすのは気が咎め、見ているうちに彼も睡魔に襲われたらしい。
サクラの体を少々ずらして自分も横になったのだが、ほんの1、2時間のつもりが夜中まで熟睡するとはカカシも予想外だったようだ。

 

 

「サクラの家には、一応電話でうちにいますって連絡しておいたけどね」
「・・・すみません」
遅い夕食を取りながら、サクラはずっと項垂れている。
カカシが帰るまでに腕によりを掛けて料理をするはずが、とんだ番狂わせだ。
カカシの作った料理がどれもこれも自分が作るよりも美味しかったことがまたサクラの自信を失わせていた。
「そういえば、サクラ、あの枕気に入ったの?」
「え?」
「寝てるはずなのに、引き剥がそうとしても絶対離さなかったんだよね。大事そうに抱えちゃって」
「それは・・・・」
おそらく、カカシを抱きしめているような気がして、手放せなかったのだ。
安眠してしまったのも、彼がそばにいてくれるような気がしたからだろうか。
答えられずに黙り込むと、カカシは食べるのをやめてサクラに向き直る。

「もう遅いし、今日は泊まっていきなよ」
「・・・・・えっ」
「子供用のパジャマはないけど、俺のを貸してあげるから。袖とか捲れば何とかなるよね。丸まって寝れば二人でも大丈夫だし、ああ、ちゃんと予備の歯ブラシもあるから安心して」
カカシは笑顔で話し続けていたが、『子供用』という言葉に反応して、サクラはむっとした表情になった。
14の年の差があるとはいえ、サクラ自身は一人前のレディーのつもりだ。
彼はサクラを子供だと思っているからこそ隣りに寝ても全く平気で、今もまた簡単に泊まれと言ってきている。

「別にいいですけど・・・・」
「じゃあ、決まりねー」
明るく笑ったカカシの顔をひたと見据え、サクラは暫しの間を空けて先を続ける。
「でも、私、夜中にカカシ先生の寝込みを襲っちゃうかもしれません」
飲み込んだばかりの茶を吹き出したカカシを横目に、サクラは澄まし顔でみそ汁を啜った。
「冗談ですよ」
「サクラァ・・・・」
情けない表情で台布巾を使うカカシにサクラは目もくれない。
取り敢えず、今のところは動揺してくれたことだけで満足するしかないようだった。

 

 

 

結局カカシの家に泊まったサクラは、当然何事も間違いが起きることもなく、早朝の道を歩いていた。
二人ともすっかり目がさえたため、殆どゲームに時間を費やして夜が明けた感じだ。
「こーんなに可愛い女の子が近くにいて、先生ってば朴念仁よねぇ」
ぶつぶつと呟くサクラは、足下にある小石を蹴り上げる。
そばにいて自分だけがドキドキしていたと思うと、非常に不公平だ。

空を見上げた瞬間、ふわりと風にゆれた髪が頬を撫で、サクラは思わず立ち止まった。
もう一度、確認するように自分の髪に手を触れると、怒りを含んでいた顔にゆっくりと笑みが広がっていく。
「・・・カカシ先生の匂いだ」


あとがき??
綱手姫との修行中、サクラの髪が長かったので、たぶんそのあたりの話。
まだ恋人設定ではないためラブ度が低いです
何だか近頃「いい人」カカシを書きたいようで、サクラに対して強引なことは出来ないらしい。
そして、サクカカっぽくなってしまうらしい。
リクエストは、「初めてカカシの家にお泊りするサクラ」でした。
素敵なリクだったのに、色気もへったくれもなくて申し訳ない・・・・。

506000HIT、有香様、リクエスト有り難うございました。


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