王女と仕立屋


前々から秘密主義でプライベートをいっさい明かさないカカシに興味のあったサクラは、彼から呼び出しの電話をもらうと嬉々として出かけていった。
依頼主の都合で任務が延期されたため、急遽休みを取れた7班だったが、サクラは暇を持て余していたのだ。
教えられた住所を頼りにその家のチャイムを鳴らすと、カカシに笑顔で歓待される。
出された茶を飲んで暫く談笑を続けた二人だが、1時間ほど経った頃にサクラはふと我に返った。
他のメンバーのことも考えて4人分の菓子を手土産に持ってきたというのに、まだナルト達がやってくる気配はない。
距離的に、ナルトもサスケもサクラと同じ所要時間でこの家に到着するはずだ。

「そういえば、ナルトとサスケくんはいつ頃来るの?随分と遅いわよね」
「呼んだのはサクラだけだよ」
サクラが時計を眺めつつ訊ねると、カカシに即答された。
「えっ・・・・・」
「今日はサクラと親睦を深めようと思って。この頃あんまり二人で話す時間ってなかったしね」
「・・・・・・」
首を動かすと、ソファーの隣りに腰掛けるカカシとの距離が妙に近い。
どうも居心地の悪い空気に、さりげなくソファーの端へと移動したサクラだが、カカシはかまわず体を寄せてくる。
「じゃあ、まず服を脱いでもらおうか」

 

 

 

花屋にやってきたサクラの衣装を見たとき、いのはどこかの雑紙に新作として紹介されていたものとよく似ていると思った。
有名なブランドの服だったはずだが、デザインが少しばかりアレンジされている。
若草色の生地のワンピースはサクラの瞳の色と同じで、彼女によく似合っていた。
アクセサリーや靴もなかなかお洒落だ。
「サクラ、最近可愛い服ばかり着てるわよねー。どこの店で買ってるの?」
「・・・・・これ、売り物じゃないの」
「えっ?」

いのに勧められて椅子に腰掛けたサクラは、大まかに事情を説明し始める。
あの日、カカシの家にサクラが招かれたのは、彼の作った服の試着が目的だった。
名の通った上忍の趣味が裁縫だとは、誰も想像しないに違いない。
初めから、採寸もしないのに服がぴったりだったのが気になったサクラだが、カカシには女性の体型を一目見ればサイズが分かる特技があるそうだ。
「女の子の服は華やかだから、作るのが楽しくて。ナルト達には内緒ね〜」
浮き浮き顔で言われてしまえば、いらないと突き返すわけにいかず、さらにカカシの作る服はどれもセンスがいいのだ。
趣味で作ったものだからという理由は、カカシには料金はとくに払っていない。
サクラが捻出しているのは、カカシの家に寄る際に持っていく茶葉と茶菓子の費用くらいだった。

「へー、お抱えの仕立屋がいるなんて、どこかのお姫様みたいねぇ。羨ましいー」
「・・・うん」
楽しげに語るいのに頷いて応えたサクラだが、その表情はどこか暗い。
可愛い服を着られるのはもちろん嬉しいことだ。
だが、サクラに向けるカカシの眼差しは、着せ替え人形で遊ぶ子供と同じように思えて、それが少し引っかかった。
たまたまサクラが近くにいただけで、カカシは好みの服を作れるなら誰でも良かったのかもしれない。
同じ班にいる女の子だからという理由だけでなく、そばにいたいと思うのはおそらくサクラの我が儘だ。

 

 

 

「先生、これだけ作れるなら、どこかの店で売り物として置いてもらえるんじゃないの?」
いつものようにカカシの家を訪れ、スケッチブックに描いた新たな服のデザイン画をにいろいろとアドバイスをしていたサクラは、思いついたように言った。
「えー、そうかな?」
「うん。いのも良いって言ってたし、私が保証する」
サクラが熱のこもった声で主張すると、カカシは苦笑して頭をかいた。
「でも、俺はサクラ専属でいいよ」
「何で、もったいないわよ。忍びやってるより服作る方が儲かりそうよ。先生のデザインでブランドを立ち上げたり出来るかも!」
「有り難いけど、それは無理」
口調は柔らかだが、カカシの意思は固いようだ。

「・・・・やっぱり、忍者でいたいから?」
「いや、それもあるけど」
スケッチブックに目を向けると、カカシは呟くような声で続ける。
「俺は好きな女の子の服しか作りたくないんだ。サクラがこれを着るとどんな感じになるかな〜って考えるのが楽しいの。それが俺の趣味」
「・・・・・」
「ん?」
告白めいたことをさらりと言ってのけたカカシは、黙り込んだサクラを怪訝そうに見つめる。
「サクラ、顔赤いよ。熱があるんじゃないの」

「だ、だ、大丈夫よ!」
自分の額に手を置こうとしたカカシから、サクラは慌てて身を引いた。
今、触られればよけいに体温が上昇してしまう。

「じゃあ、一生私のお抱え仕立屋としてカカシ先生を雇おうかな。子供や孫の服も、ずっとずっと先生に作ってもらうの」
熱のある顔を誤魔化すように、頬に手を当てながら言うとカカシはにっこりと笑って頷いた。
「それはいいアイデアだ」


あとがき??
ラブラブ〜なんですよ、これでも。
のだめの母が娘のためにいつも可愛い服を創作しているので、何となくこんな話が。
仕事が暇なときは手芸に勤しむカカシ先生を想像してください。


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