こういうカップルは結構上手くいくらしい


カカシが長期任務で木ノ葉隠れの里を離れて5年。
建物はいくつか新しくなっていたが、里は旅立つ前と同様に平和そのもので、道を歩けば子供達が元気に走り回っている。
まず火影に帰国の報告をしたカカシは、懐かしい顔ぶれに挨拶をしていった。
なかでもカカシとの再会を一番喜んだのは、火影のもとで医療忍者として修行していたサクラだ。
月に二度ほど、手紙で彼女の近況を伝えてもらっていたが、送られてきた写真を見るのと実際に会うのとでは全く違う。
髪を長く伸ばし、随分と大人びた雰囲気になってしまったサクラに、昔のように気安く触れることは出来なくなっていた。

「サクラ、綺麗になったねぇ」
「カカシ先生は老けたわ」
にっこりと笑って言うサクラに、カカシは少しだけ頬を引きつらせた。
自分自身はあまり変化がないつもりでも、こうして生徒の成長を目の当たりにすると、年齢を感じてしまう。
サクラが18になったのだから、カカシは32という計算だ。
「でも、先生が無事に帰ってきてくれて、本当に嬉しいわ。お帰りなさい」
笑顔だけは以前のように無邪気なもので、思わず頬を緩めたカカシに、サクラは衝撃的な言葉を続けた。
「約束通り、私と結婚してね」

 

 

 

最初に思い出したのは、5年前に見た、泣いているサクラの顔だ。
アスマに誘われて居酒屋に入ったカカシは、サクラの言った「結婚」の意味を必死に考えていた。
あの後、サクラを呼びに来た者が現れたため、カカシは詳しい話を聞いていない。

「そういえば一緒に連れて行ってくれって言われて・・・・」
ビールの入ったコップを握りしめるカカシは、必死に5年前の記憶をたぐり寄せる。
確か、あのときサクラに好きだと告白されたのだ。
何年も会えなくなるのは、耐えられないと。
しかし、いつ帰れるかも分からない任務に生徒を同行させるわけにいかなかった。
「それで、帰ってきたら結婚するって言って説得したのか」
「・・・・そうかも」
酒のつまみを食べつつ話を聞くアスマに、カカシは唸り声と共に答える。
「だって、どうしても離れないって言うから・・・・。何年か経てば忘れているかと思って」
「でも、しっかり覚えていたんだな」
頭を抱えたカカシは、必死な様子でアスマに訴えた。
「どーーしよーーーー、アスマーー」
「何だ、そんなに嫌なのか」

そう言われると、別にそれほど嫌な気持ちでもない。
5年も変わらずに想っていてくれたことは素直に嬉しく、さらにサクラは美人に成長していたのだから、不満という不満はなかった。
問題は世間体だ。
「絶対言われるよー。ロリコンだとか、12の子供をたぶらかしてたとかーー!!」
「仕方ないだろ。実際14も離れてるわけだし」
「確かに可愛いなぁとは思っていたけど、当時は下心は無かったってば。それに俺はもっと心の準備をする時間が欲しいのよ。国に帰ってきたばかりなのに、いきなり結婚とか言われても・・・・」
「カカシ先生ー!!」
唐突に会話に割り込んできたその声に、カカシは体をびくつかせた。
振り向くと、混雑する店内で人を避けながら歩くサクラの姿が目に入る。

 

「さ、さ、サクラ」
「やっと見つけたー。紅先生に聞いたら、ここにいるんじゃないかって言われて」
カカシの傍らの椅子に腰掛けたサクラは、懐から一枚の紙を取り出してテーブルに置いた。
「はい、これ。名前を書いて。ペンもあるから」
「・・・・これ」
「婚姻届。取り敢えず籍だけ入れて、披露宴はあとでやりましょう」
顔はにこにこと笑っていたが、サクラは本気だ。
促されるままにペンを手にとってしまったカカシは、婚姻届を見つめて唾を飲み込む。
あまりの展開の早さにアスマは目を丸くしていたが、カカシはそれ以上に驚いていた。

「あの、でも、判子を持ってないし」
「拇印でも大丈夫だって!」
懐からさらに朱肉を出したサクラは、カカシの手首を掴んで所定の位置に拇印を押させる。
これを提出してしまえば、いくら足掻こうとも、もう後戻りは出来ない。
「サクラ!」
緊張のあまり、ミミズがのたうつような字になってしまったカカシの名前欄を見つめるサクラに、大きな声で呼びかける。
「何?」
「あの、ほら、実は俺、好きな人がいるんだ。だから・・・」
「・・・・先生」
最期の悪あがきをするカカシを、サクラは優しい眼差しで見つめた。
「大丈夫、分かってるわよ。先生が私を好きだってことは昔から知ってる。私が絶対幸せにしてあげるから、そんなに不安がらないで」
「ポジティブシンキング!!?」

カカシの帰国と同時に恋の暴走特急と化したサクラは誰にも止められないようだった。
椅子から立ち上がったサクラの目は、今まで見たこともないほどキラキラと輝いている。
「さあ、今すぐ役所に行きましょう!!今なら夜間受付をやっているはずよ」
「あーれーーーー、アスマ助けてーーーー」
どこがそんなに気に入ったのだろうかと思いながら、アスマはサクラに引きずられて店から出ていくカカシに、小さく手を振った。
「幸せになー」


あとがき??
サクラが13のときにカカシ先生が里を離れた設定の話でした。
今回のサクラのイメージはハレグゥのユミ先生。
カカサクもいいけど、サクカカも好きなんです。

 

(おまけで約一年)

帰宅したアスマがポストを開くと、そこには一枚の葉書が入っていた。
はたけ家に第一子が誕生したことを伝えるものだ。
写真に写る娘はサクラとよく似た面立ちで、カカシは目に入れても痛くないほど溺愛しているらしい。
今は二人とも育児休暇を取って子供に付きっきりだ。

「・・・・抵抗していたわりに、出来るの早かったよな」


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