教えを受ける者 2


家に帰って紙包みを開くと、中から出てきたのは赤いリボンだった。
こんなものをいつの間に用意したのかと、サクラは暫しの間手元を眺めて考える。
懐かない生徒には、物で気を引こうという魂胆だろうか。
「馬鹿馬鹿しい・・・・」
リボンを袋に入れ直したサクラは、ゴミ箱に放ろうとしてそのままの姿勢で動きを止めた。
カカシのことは好きではないが、リボンには罪はない。
もう一度リボンへと目をやったサクラは、部屋の隅にある姿見の前でそれを髪に結んでみたが、微妙に似合っていないような気がする。
取り敢えず机の引き出しに仕舞っておけば、さして邪魔にはならないはずだった。

 

 

「サクラに似合うと思ったのに・・・つけてくれないの?」
サクラがいつも通りに任務に向かうと、カカシはその後ろを付いて歩きながら、リボンのことをしきりに訊ねてくる。
仕事が終わるまでは何も言わなかったが、おそらくずっと気になっていたのだろう。
「任務中はあんなもの付けませんよ。それに、この額当てもあるし」
「ああ、そっか」
サクラが頭上の額当てを指差すと、カカシは納得したのか大きく頷いた。
「サクラがデートに誘ってくれるなんて、嬉しいなぁー。俺、映画を見に行きたいけど、サクラもどこか行きたいところある?」
「はぁ!??」
「任務以外のときだったら、リボンつけてくれるんでしょう。それって、一緒に出かけようってことじゃないの」
暫しの間呆気に取られたサクラは、満面の笑みを浮かべるカカシを穴が空くほど凝視してしまった。
一体全体、自分の返答のどこにそうした要素があったのか、心底分からない。

「どれだけポジティブシンキングなんですか、あなたは!!私はただ・・・」
「じゃあ、今度の日曜にねー。11時に木ノ葉公園で待ってるから」
「えっ、ちょ、ちょっと!!」
サクラがまだ喋っている途中だというのに、カカシはいつものようにドロンと煙を残して姿を消してしまった。
さすがに上忍、周囲に目を配ったが追いかけようにもその気配はどこにもない。
「・・・・知らないわよ、もう」
サクラはカカシと約束した覚えがないのだから、日曜日に公園に足を運ばなければいいのだ。
険しい表情で帰路に就くサクラは、カカシの言葉を頭から振り払う。
絶対に行かない。
そうすれば、鈍いカカシでも流石に自分が嫌われていることに気づくはずだった。

 

 

 

「ギャーーー!!」
日曜の朝早く、サクラの部屋から響いた甲高い声に、窓際にいた鳥は驚いて飛び立っていく。
少しばかり夜更かしをしたサクラは、8時をすぎてもベッドの中でまどろんでいたのだが、寝返りを打った先に見覚えのある顔があった。
これが驚かずにいられるだろうか。
「な、な、何でここにいるのよーー!!」
「サクラを迎えに来たに決まってるじゃないか。待ちきれなくてさ」
サクラに指をさされたカカシは、平然とした顔で答える。
まだまだ、サクラはカカシのことを甘く見ていたらしい。

「何を騒いでいるの、サクラ?」
廊下にいた母親が扉の陰から顔を覗かせ、カカシとパジャマ姿のサクラを見て大きく目を見開いた。
見知らぬ男が娘の部屋にいるのだから、驚いて当然だ。
だが、サクラ自身がパニック状態なのだから、母親にどう説明したらいいか、すぐには舌が回らない。
「あの、こ、これは・・・」
「おはようございます〜。サクラの担任で、はたけカカシと申します。朝早くから失礼します」
「まあ・・・・」
カカシの名前を聞くなり、怪訝そうだった母親の顔がぱっと輝く。
「サクラってば、いつの間にこんなに素敵な彼氏が出来たのよ。幸せ者ね〜」
「担任って言ってるでしょう!!!それより、この状況の不自然さに気づいてよ」
「大丈夫よ、サクラ!パパには内緒にしておいてあげるから。ママに任せて」
どんな意味があるのか、母親はサクラに向かってウインクで合図する。

「・・・・・・」
何を任せるというのか、サクラには全く分からない。
どうしてこう、自分の周りには人の話を聞かない人間ばかり揃っているのか。
頭を抱えるサクラだったが、二人は何故か意気投合しているようだった。
「そういうわけで、今日一日サクラをお借りします」
「どうそどうぞ。すぐに着替えさせますから、下で待っていてください。幸い夫はゴルフで朝からいないので」
「ママ!!」
サクラが悲鳴をあげても母親はかまわず彼を連れて部屋から出ていく。
靴を手に持っているからには窓から侵入したらしいが、こんな怪しい男を持てなす母親の神経がサクラには理解不能だった。

 

 

 

カカシの提案の通りも映画を見た後、二人は里で一番大きな通りに向かう。
普段サクラは休日といえば図書館通いをするくらいで、こうして誰かと連れ立って歩くことは久しぶりだ。
「あーねえねえ、あの服、サクラに似合いそうだよねぇ」
ショーウインドーに飾られた服に目を留めたカカシは、サクラの手を引いて近づいていく。
「どう思う?」
「・・・・この、隣りの服の方が好きです」
反射的に答えてから、にっこりと笑ったカカシを見てサクラはしまったと思った。
「分かった、こっちの服だね、じゃあ、中に入ろうか」
「別に買ってくれって言ったわけじゃないですってば、先生!!」
「大丈夫だよ、お給料が出たあとだから。その前だったらちょっと辛いけどね。まあ、サクラが欲しいならそれでも買っちゃうだろうけど」
「うーー・・・・・」
何を話しても通じず、サクラはつい唸り声を発した。
宇宙人、まるで宇宙人だ。
いや、カカシと一緒にいると、宇宙人の方がまだ話せば分かってくれるような気さえしてくる。

 

「あー、そうそう。ちゃんとリボン持ってきてくれた?」
試着した服を購入してそのまま外に出ると、今度は向かいのカフェに連れ込まれた。
向かい合わせに座ればいいのだが、カカシはサクラの隣りに妙に密着して座っている。
「・・・・はい」
「じゃあ、俺が結んであげるね。ほら、出して」
もう反抗する気も失せた。
言われるがまま、バッグから出したリボンを手渡したサクラは、突然開けた視界に目を細める。
それまでは長い前髪が目にかかる位置にあったのだが、カカシは額が見えるように整えたらしい。
慌てて髪を戻そうとしたサクラは、カカシに手を掴まれてはっとなる。

「何で隠すの?」
「だって・・・・おでこ広いし」
「隠す方が目立つんだって。おおっぴらにしておけば、逆に誰も何も言わないもんだよ」
「・・・・」
「ほら、可愛い」
朗らかな笑みを浮かべるカカシに頭を撫でられ、サクラは抵抗する気力が失せてしまった。
嘘だと分かっているのだが、こうも素直に微笑まれると、うっかり信じそうになってしまう。

「先生、恋人いないでしょう」
「え、何で分かったの!」
「何となく・・・・」
大げさに驚くカカシを横目に、サクラはストローでジュースを吸い上げる。
ここまで強引で自分勝手な性格のカカシに付いていける人間がいるなら、それこそ顔を見てみたかった。


あとがき??
な、長くなってる!!!もっとあっさり終わるはずが。おかしいな・・・。
暗いカカサク書いていたのぜ、気晴らしに明るいの書きたかったんですよ。
サクラのかーちゃんハイテンション。


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