つがい


「サクラってば本当に可愛くってさ〜〜。それでね、そのときサクラがねー」
「・・・・・」
延々と恋人の自慢(本人に自覚なし)を話し続けるカカシを、同じ上忍の白鳥は半眼で見つめる。
「サクラ」の名前は耳に胼胝が出来るほど聞いた。
とにかく、そのサクラがいかに可愛くて優しくて素敵な女の子であるかを、カカシは皆に広めたいようだ。
正直うんざりしていたが、付き合いはじめて数ヶ月のうちは誰でも同じように舞い上がっているのかもしれない。
「あっ、そういえばお前も中忍のくノ一と付き合ってたよな。あの子とは、どうなってるの?」
突然痛いところを突いてきたカカシに、白鳥は舌打ちしたくなった。
彼女とは浮気が原因で先週別れたばかりだ。
だからこそ他人ののろけ話を聞くのに嫌気が差していたのだが、カカシは白鳥の返答を待たずに再びサクラ語りを再開している。
出来ることなら、その口にガムテープを貼ってしまいたい心境だった。

 

 

 

その日は上忍仲間は全て任務で出払っていて、控え室に残った白鳥は一人で資料整理をしていた。
ぼんやりと宙を見ながらこれから書く報告書の内容を考えていると、扉の開く音がする。
振り返ると、戸口に立っていたのは若いくノ一だ。
「こんにちは」
白鳥と視線が合うなり、ぺこりと頭を下げた彼女は、柔らかな微笑みを浮かべる。
任務で何年か里を離れていたため、若い忍びの顔は殆ど見覚えがなかったが、一目で分かった。
淡い桜色の髪に、広めのおでこ、明るくはつらつとした印象のある少女。
カカシが掌中の珠のように愛でている恋人だ。

「あの、カカシ先生は・・・・」
「すぐ帰ってくるよ。こっちで待っていたら?」
白鳥が手招きをすると、サクラは素直に彼のところまでやってくる。
カカシが自慢するだけあって、確かに人目を引く愛らしい顔立ちをしていた。
「僕はカカシの古くからの友人で白鳥優一。君は、春野サクラちゃんだよね。いつもカカシから話を聞いているよ」
「えっ・・・・・」
少しばかり顔をしかめたサクラは、不安げな様子で白鳥を見やる。
「何か、変なこと言っていませんでした?」
「いや、君のことを褒めてばかりいるよ」
安心したのか、白鳥が傍らに置いた椅子に腰掛けると、サクラはにっこりと微笑んでみせた。
おそらく、カカシの前ではいつも同じように笑っているのだろう。
恋人に去られたという不幸な境遇なせいか、幸せな二人がひどくねたましく思えてしまった。

 

「サクラちゃん、髪に埃がついてるよ。取ってあげる」
不自然に近づいた白鳥の言葉をそのままの意味で受け取ったサクラは、髪ではなく自分の頬に当てられた掌に目を見開く。
二人の唇が重なったのはほんの一瞬だったはずだ。
気づいたときには、頬に衝撃を受け、白鳥はその場で殴り倒されていた。
最初は何が起きたのか分からなかったが、じわじわと痛み出した頬が、今がどういった状況なのかを彼に伝えてくる。
油断していたとはいえ、格下の中忍のくノ一に殴られたのだ。
「友達の女に手を出すなんて、最低です!」
白鳥を見下ろすサクラは、憎憎しげな口調で言った。

「私も忘れますから、あなたも忘れてください」
踵を返したサクラは、肩を怒らせながら扉を目指して歩き出す。
そして、出て行く前に白鳥に一言、忠告を残していった。
「カカシ先生には言わない方が身のためですよ」
最後の最後にサクラが微笑んだように見えたのは、気のせいだったのだろうか。

 

 

 

「・・・なんだ、あの女」
腫れた頬に氷をあてて冷やす白鳥は、知らず知らずのうちに呟いていた。
時が経つにつれ、怒りの感情がこみ上げてくる。
くノ一の仕事をしていて、さらにはカカシと交際しているのだから、まるっきり初い娘ではないはずだ。
ほんの気まぐれの口づけなのだから、それなりに合わせるか、軽くいなすかすれば良かった。
何も突然殴ることはない。
「何、それー、任務中にやられたの?」
任務から戻ってきたカカシは、白鳥を見るなり怪訝そうに訊ねてくる。
坊主憎けりゃ袈裟まで憎い。
何も知らない能天気なカカシがひどく恨めしい。

「お前の女にやられた」
つい正直に答えてしまったのは、この苛立ちを誰かに吐き出してしまいたかったからだ。
彼女の恋人がカカシなのだから、慰謝料といわずとも、何らかの謝罪があってもいい。
「ちょっとからかっただけなのに、殴られて・・・・・。お前の話と違って、随分凶暴じゃないか」
氷を離して傍らに立つカカシを見上げた白鳥は、そのまま二の句が告げなくなった。
カカシの体から、サクラとは比較にならないほどの、怒りの気が発せられている。
カカシがこうした目をしたときは、血を見ないと収まらないことは、長い付き合いからよく承知していた。
「・・・・・・・・からかったって、サクラに何をしたの」
「・・・・・あの、カカシ?」
「何したか聞いてるんだよ」
薄く微笑んで訊ねるカカシがひたすら怖い。

 

『カカシ先生には言わない方が身のためですよ』

サクラは確かにちゃんと忠告していた。
それに従わなかった方が悪いのだ。
カカシに病院送りにされた白鳥は心の底から自分の浅はかな言動を悔いていたが、全ては後の祭りだった。


あとがき??
元ネタは『羽衣ミシン』。助けた白鳥が綺麗な女の子になって家を訪れ、妻として主人公と一緒に住む話です。
「つがいに手を出すなんてー」と怒っているのを見て、カカサクでやってみたくなりました。
ちなみに白鳥優一の他に、南十字輝、花園亮、風間健という名前にピンときたら、お便りください。(笑)こいつら100%伝説・・・・。
この話のその後のカカサク小話を、おまけで書けたらいいかなぁ・・・。


駄文に戻る