飼い犬


スーパーマーケットの出入り口に、首輪をつけた一匹の犬が座っていた。
行儀良く姿勢を正し、中で買い物をしているであろう飼い主を待っている。
サクラは小一時間ほどその子犬を見つめ続けていた。
同じように待ち惚けを食っているその姿に、共感したのだ。

カカシがサクラとのデートに遅れてくるのは、いつものこと。
それでも、待つことに慣れるというのはあり得ない。
時間が長くなるほど、自分がないがしろにされているようで、サクラはひどく悲しくなってくるのだ。

 

 

「サクラーーー」
暫くして現れたカカシは、見せかけだけかもしれないが、走ってやってきた。
肩で息をするカカシは、不機嫌そのものといった顔のサクラににっこりと笑いかける。
「お待たせ!」
「・・・・何か、言うことがあるんじゃないの」
「ごめんなさい」
サクラがじろりと睨め付けると、カカシは素直に頭を下げた。

「カカシ先生、私がいつまでもここで先生を待ってると思ってる?」
「え」
「もう、10人の人に声をかけられちゃったわよ。一緒に遊びに行こうって」
「・・・・・・誘拐?」
「ナンパよ!!!」
とぼけているカカシに、サクラは声を張り上げる。
「いつもいつも遅刻ばかり!!もうカカシ先生とは金輪際プライベートでは会わないからね!!!馬鹿!」

 

肩を怒らせて歩くサクラが横目で見ると、犬はまだ飼い主を待っている。
だが、サクラは忠犬ではない。
あの犬のように、黙って彼を待っていることはできないと思った。

 

 

 

 

カカシに絶縁状をたたきつけてから3日後。
サクラがスーパーマーケットの前を通りかかると、また、あの犬が同じ場所に座っていた。
よほど買い物好きの飼い主なのだろうか。
立ち止まったサクラは、しゃがみ込んでその犬の顔をじっと見る。
サクラが触っても気持ちがよさそうに鼻をならすだけで、まるで吠える様子を見せない、人懐こい犬だった。

「連れて行っちゃおうかなぁ・・・」
自分にすり寄る犬を見つめて、サクラはぽつりと呟く。
どのような人物かは知らないが、毎回毎回、このような場所で長時間犬を待たせている人が良い飼い主のはずがない。
自分の方が、ずっと大切にしてあげられる。
衝動的に立ち上がったサクラは周囲に目を配り、犬を連れ出そうと引き綱を手に取った。

「・・・・何で動かないのよ!」
引き綱を引っ張ったサクラは、微動だにしない犬に怒鳴りつける。
だが、犬は困ったようにサクラを見上げるだけだ。
頼りなげなその瞳を見るうちに、サクラは無性に泣きたくなった。

本当に悲しいのは、この犬ではなく、自分だ。
どんなに待たされても、気持ちが変わらない。
他の人にどんな優しくされても、彼でないと駄目だと思ってしまう。
相手は、自分などいくら待たせても構わないと思っているのに。

 

 

「サクラ?」
犬のすぐ隣りに座り込んでいたサクラは、その声に顔をあげる。
「何やってるのよ、こんなところで」
「・・・・いの」
スーパーに買い物に来たのか、ラフな格好をしたいのが不思議そうにサクラを見下ろしていた。
サクラは何となく罰の悪い気持ちで傍らを見やる。

「別に。ただ、この犬と仲良くなったから」
「ふーん?今日はカカシ先生とデートじゃないの」
「何でよ」
「探してたわよ、先生。あんたのこと」
意味深な笑みを浮かべてみせるいのに、サクラは勢いよく立ち上がる。

「本当!?」
「うん。そういえば、カカシ先生、この間大活躍だったわね」
「・・・何が?」
「虫垂炎で倒れていた女の人を助けた話よ。カカシ先生が病院まで背負って連れて行ってあげたの。もう少し遅かったら、死んでたかもしれないって」
初めて聞く話に、サクラは目を丸くする。
「いつの話!?」
「先週の土曜日。サクラ、聞いてなかったの?」

 

先週の土曜といえば、サクラが待たされたあの日だ。
普段、カカシは道に迷った等のいい加減な言い訳ばかりで本当のことを話さないのだから、サクラが知らないのも道理だった。

「アスマ先生に聞いたんだけど、その前の日曜は道を訊ねたおばあさんに掴まって2時間も話し相手させられてたんだって。意外といい人なのかもしれないわねー」
聞きようによっては随分失礼な物言いだったが、サクラは無言のまま考え込む。
日曜といえば、やはり二人のデートの約束の日だった。
今まで全く気づかなかったが、カカシはサクラが思うよりもずっと要領が悪く、ずっと善良な人間なのかもしれない。

「・・・いの」
「カカシ先生だったら、“木ノ葉通り”の銀杏並木のあたりだと思うわよ」
「有難う!」
以心伝心で答えるいのに礼を言い、サクラは駆け出した。

 

 

それまで、一度も吠えなかった犬の鳴き声が背後から聞こえてくる。
切羽詰まっての声ではなく、歓喜の声。
あの犬の飼い主が、ようやく帰ってきたのかもしれない。
主人に飛び付いて尻尾を振る犬の姿が、サクラの目に見えるかのようだった。


あとがき??
カカシ先生が親切なのは、相手が女性のとき限定というオチがあるのだけど・・・・、まぁ、いいか。
うちの先生はすでに別人28号だしね。
もちろん、一番に優しいのはサクラに対してですよ。(笑)ラブ。


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