理解と誤解


「カカシ先生って、今、どんな仕事についているんですか!?命にかかわったりする、すごく難しい内容とか」
任務の合間の休み時間、ヤマトに問い掛けたサクラの瞳は怖いほど真剣だった。
ここ数日カカシは別件の仕事で7班から離れて行動している。
里を離れているわけではないが、綱手から直々に頼まれた任務にかかりきりらしい。
「えーと、任務内容について簡単に外にもらすわけにいかないけど、火影様の話ではそれほど根を詰めるものじゃなかったはずだよ」
「そんなはずないですよ・・・じゃあ、何であんなに・・・・」
ヤマトから視線をそらして俯いたサクラは、彼の言葉を信用できず、ぶつぶつと独り言を繰り返す。

「何でそんなこと聞くんだ?」
「カカシ先生、疲れがたまっているみたいなんです。すぐに眠っちゃって・・・」
素直に答えたサクラは、家に帰るなり倒れこむようにベッドに横になるカカシの姿を思い出していた。
カカシの任務が立て込んだ時などに、サクラは彼の大切にしている観葉植物の水やりや、部屋の簡単な片付け等を頼まれる。
昨日はたまたまサクラのいるときにカカシが戻ってきたのだが、その疲れ方が尋常ではなかったのだ。
サクラが何を話しかけても目を覚まさない。
敵意が無いからかもしれないが、少しの気配にも敏感なはずの忍びが、そこまで熟睡することは滅多にないはずだった。

 

「・・・・・・眠っちゃうって、どこで?」
「カカシ先生の家よ、もちろん」
悶々と考え込んでいたサクラが顔をあげると、いつの間にかナルトとサイが傍らに立っている。
そして、二人ともいやに真面目な顔つきだ。
「知らなかったな・・・・。先生とサクラちゃんって、そういう関係だったんだ」
「えっ?」
「先輩、体力なさそうだけど、女の子のサクラより先にダウンするなんて」
「男として情けないですね」
ヤマトの呟きに、サイも頷いて応えた。
何が悪かったのか、どうも話が妙な方向に転がってしまったように思える。

「あの、三人とも何か勘違いして・・・・」
「それか、サクラちゃんがよほど激しいのかもよ。先生がギブアップするくらいに」
「ああ、なるほど」
「それは是非見てみたいものだね」
「何の話よ、ちょっと!」
話の輪に入っていけないサクラが声を荒げると、ナルト達はようやく振り返って彼女を見据えた。
「カカシ先生に愛想が尽きたら、いつでも呼んでね。俺達いくらでもお相手するから。何だったら三人一緒でもいいし」
「・・・・・だから、何のことよ、それ」
なんとなく分かるような気もするが、あえて訊ねたくも無い。
額を押さえたサクラは、直接カカシから聞きだすことを心に決める。
いつ帰ってくるかは分からないが、ヤマトの情報が頼りにならない以上、一番手っ取り早い方法だった。

 

 

 

サクラがカカシを捕まえることができたのは、それから三日後のことだ。
ベッドの上に腰かけてカカシの蔵書を読んでいると、ガチャガチャと鍵を開ける音がする。
そして入ってきたカカシは、やはり究極に疲れた顔をしていた。
前に会ったときよりも、さらに目の下のくまがはっきりとしてきたようだ。
「せ、先生・・・・大丈夫、なの」
「ああーーー、ただいま、ただいまーー」
ぼんやりとした眼差しのカカシは、自分に呼びかけているのがサクラだということを認識しているかも怪しく、あやふやな返事をしてきた。
そればかりか、腰を浮かせたサクラを巻き込んでベッドに倒れこむと、そのまま高鼾だ。
装備も外さず眠りに着いたカカシに、サクラは呆れてしまって声を出すこともできない。

「ちょ・・・先生・・・・・」
カカシに圧し掛かられているサクラはその体をどかそうとしたが、抱き枕のようにして彼女を抱える腕はびくともしなかった。
むにゃむにゃと寝言を呟いているところを見ると身の危険はないようだが、ただひたすら重い。
「ま、まさか朝までこのままとか・・・ないわよね」
まだ日は暮れ始めたばかりで、窓からは夕日が差し込んでいる。
疲労回復のための眠りを妨げたくは無いが、この状況はいささか問題だ。
どうしたものかと思案する中、突然玄関の扉を乱暴に叩く音が響き、サクラは肩を震わせた。

 

「カカシ先生ー、いるーー??ちょっと聞きたいことがあるんだけど」
続いて聞こえてきた声に、サクラはさらに体を硬直させる。
ナルト達にはなにやら妙な誤解をされたままだというのに、ここでサクラが出て行ってはまた何を言われるか分からない。
このまま無視を決め込もう。
すやすやと眠るカカシの寝息を感じつつ、覚悟を決めたサクラだったが、ナルトはそれほど諦めのいい性質ではなかったらしい。
静かになったかと思うと、今度は爆発音らしきものが聞こえ、がやがやと複数の人物が部屋に侵入してくる。
「あー、サンダルあるよ」
「やっぱりいるんじゃないか」
「せんぱ・・・・・・」
ナルトの後ろから家に上がりこんできたサイとヤマトの視線は、ベッドの上に集中していた。
一見するとベッドで仲良く横になるカカシとサクラだが、二人が眠りにつく前の服装でないことや、サクラを押さえ込んで熟睡しているカカシ等、不自然な点が山ほどある。

「あの、ち、違うのよ!分かるでしょう」
必死に弁解を始めるサクラだったが、カカシの腕の中にいる状況では全く説得力が無い。
むしろ逆効果だ。
「・・・・お楽しみ中だってことが?」
三人ともそれなりに優秀な忍びのはずだが、サクラへの少なからぬ愛情がすっかり彼らの目を曇らせている。
カカシと共にベッドで転がるサクラの姿を見て動揺するなという方が無理だった。
「邪魔者は帰ろうか・・・・」
「どうかお幸せに」
「アバヨー!いい夢見ろよ」
入ってきたときと同様に、三人は騒がしく周りの壁や扉を蹴りながら去っていく。
あらゆる意味で呆然とするサクラは、玄関の扉の閉まる音を聞いて絶望的な気持ちになってしまった。
「お、置いていかないでよぅ・・・・」

 

 

 

ナルト達にはあとで説明するとして、問題はカカシだ。
幸い、カカシは寝付いてから30分ほどで「喉が渇いた・・・・」と言って目を覚まし、サクラは解放された。
室内着に着替えてミネラルウオーターを口に含んだカカシに、サクラは近頃の仕事量についてさっそく訊ねてみる。
どうやらヤマトがさして難しくない内容と言ったのは正しかったらしく、カカシは綱手に頼まれたもの以外にも、別件の任務を引き受けていたらしい。

 

「長期休暇をもらうためー?」
「・・・うん、そう。その分働くことが、火影様との交換条件だったんだ」
カカシはサクラにもペットボトルを差し出したが、彼女は首を振って拒む。
「何でそんな無茶を・・・」
「サクラ、たまには旅行がしたいって言ってたじゃない。短い休みはちょこちょこあるけど、二日以上連続した休みってなかなかもらえないしね」
薄く微笑んで答えるカカシに、サクラは軽く目を見開いた。
カカシがあれほど疲労していた原因は、サクラの何気ない一言にあったのだ。
だけれど、カカシはサクラの言葉を大いに誤解していた。

「馬鹿ねぇ・・・」
「えっ?」
「ああ、ごめんなさい。長期休暇が欲しいって言ったのは、たまにはナルトや先生と遠出してのんびりしたかったからよ。それで先生が体壊しちゃったら元も子もないの」
少し首を傾げたサクラは、寂しげな笑顔を浮べて続ける。
「休暇が取れなくても、先生と毎日会える方が私は嬉しいのに」
口に出してから、サクラは「あれ?」と思った。
あまり深いことは考えずに喋っていたが、いろいろと含みのある発言だったのではないだろうか。

「あ、あの、さっき説明したとおり、ナルト達が鍵を壊してここに入ってきたんだけど、私達のこと何か誤解しているみたいだから次に会ったときに・・・・」
誤魔化すように早口でまくし立てるサクラは、ふいに柔らかなものが唇に当たり、目を瞬かせる。
カカシの顔が、不自然なほど近くにあった。
「誤解なの?」
それがキスと呼ばれる行為だということを理解すると、サクラの顔はみるみるうちに赤くなった。
すぐ目の前で微笑むカカシが、妙にいとおしく感じられる。
「・・・・違う、かも」


あとがき??
『ハートの国のアリス』が元ネタです。ゲームをすれば、どのキャラか分かるかと・・・・。
簡単な話なのに、超時間かかりました。もう、カカサク書きとして駄目なんじゃあ。


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