指輪物語
別件の任務で里を離れていたカカシが明日帰ってくる。
カレンダーに付けた印に目をやると、サクラの顔は自然と綻んだ。
カカシから鍵を預かったサクラは、換気のために三日に一度は彼の家を訪れている。
家主が戻ってくるのだから、今日は窓を開けて風を入れるだけでなく、掃除も済ませるつもりだった。「・・・・あれ?」
鼻歌を歌いながら彼の家に到着したサクラは、鍵を使うことなく開いた扉に軽く目を見開く。
「すわ泥棒か!」と慌てたが、玄関先に脱いであった履物には見覚えがあった。
「カカシ先生?」
思わず小声で呼びかけながら上がりこむと、隣の部屋からすぐにカカシが顔を出した。
「あ、サクラ。お帰り〜〜」
「ただいま・・・・、って、帰ってきたのは先生でしょう!!」
「ああ、そうだったか」
頭をかきながら笑ったカカシにサクラは思わず脱力してしまった。
久しぶりに会ったというのに、どこかとぼけたような言動は相変わらずらしい。「明日、帰ってくるんじゃなかったの?」
「んー、思ったより仕事が早く終わってね」
座り込んで荷物を探っていたカカシは、リボンの付いた小箱を持って振り返る。
「はい、お土産」
「あ、有難う」
「明後日にはもう7班に合流するんだよね。ナルト達の土産はそのとき渡すかー」
会話がすぐに別のものに変ってしまったため、サクラは小箱をポケットに押し込んだままにしていた。
軽いカカシの口調からして、中身はキーホルダーか携帯ストラップあたりかと思っていたのだ。
だから家に帰って小箱を開けたとき、サクラは心底仰天する。
大きなダイヤモンドらしき宝石のついた、キラキラと輝く指輪。
どう考えても、「お土産」として生徒に渡す代物ではない。「な・・・・何、これ」
クッションの上に座り込み、呆然と呟くサクラは暫し指輪を見つめ続ける。
嬉しい、嬉しくない以前に、カカシの意図が全く読めない。
まさか給料の3か月分というやつなのだろうか。
それにしたって、サクラと話すときのカカシはいつもと全く変らない様子だった。
「サクラちゃん、カカシ先生にこれもらったってばよー」
翌朝、7班の集合場所でナルトが嬉しそうに抱えていたのは、観光地につき物の温泉饅頭の箱だ。
指輪に比べたら、一体どれぐらいの金額差があるだろうか。
それでも無邪気に喜ぶナルトが非常に可愛らしく見えてしまう。
視線をその傍らに移すと、サスケが持っている袋は漬物の類をまとめたもののようだ。
ナルトやサスケも指輪をもらってたらどう考えればいいかと思ったが、全く別物だったらしい。「あら、サクラ。あの指輪してくれないの?」
「あんなもの、任務のときにできませんよ!」
「「・・・・指輪?」」
ナルトとサスケが二人の会話に反応して振り返ると、サクラは咳払いをしてカカシの腕を引っ張った。
自分達がもらった土産との落差、さらにそれが指輪であることを知れば、彼らがどう反応するか目に見えている。
これは二人に聞こえない距離で問い質すのが得策というものだ。
「何ー?」
「何、じゃないですよ。どういうつもりなんですか」
「え?」
「あんな高価な物・・・・。普通はお土産として渡さないでしょう」
「・・・ああ」
サクラの言いたいことが分かると、カカシは困ったように首を傾げる。「実はさー、任務の依頼主さんにどうしてもって言われて、謝礼として受け取ったんだ」
「謝礼、あれが!?」
「よほど感謝していたみたいで。恋人に渡してくれって言われたけど、そんなのいないしさ。もちろん俺もアクセサリーなんてつけないし」
「・・・・」
顎を擦って話すカカシの返答を聞くうちに、サクラの心はみるみるうちに萎んでいく。
あの指輪に特別な意味などなかったのだ。
とたんに肩を落としたサクラを見たカカシは、少しばかり屈んで彼女に顔を近づける。
「もしかして、何か期待しちゃった?」
「べ、べ、別にぃー!!」
手を大げさに振り回し、裏返った声で否定するサクラに、カカシはたまらず吹き出した。
カカシは口元に手を当てたまま笑い続け、サクラは面白くない気持ちで顔を背ける。
もともと感情を殺すのは苦手な方だが、これではカカシの存在が気になっていると公言しているようなものだ。
「サクラ」
「何よ!」
「今度は俺が選んだ指輪をあげるね。あれよりずっと質は落ちちゃうと思うけど」
つっけんどんな口調で答えたサクラの頭に、カカシは軽く手を置いた。
顔を上げると、カカシはいつもどおり、にこにこと笑っている。
それはどういった意味合いの発言なのか、指輪問題は当分サクラの頭を悩ませることになりそうだった。
あとがき??
サクラで遊んでいるカカシ先生。
うちのカカシ先生が、こうも余裕なのは珍しいです。
いつも「サクラー、サクラー」と追い掛け回しているので。
拍手SSのつもりで書いていたけれど、微妙に長いのでこっちに。
サスケ編とかナルト編があったんですよー。3つ並べる予定だったのになぁ。