木ノ葉野鳥の会 1


たとえばサクラと二人、レストランでメニューを眺めているときだった。
海老グラタンの他にデザートを注文するか否か、頭を悩ませるサクラをカカシは微笑んで見つめている。
さして太っているように見えないが、年頃の少女らしくカロリーを気にしているサクラは大変可愛らしいと思う。
だが、次の予定を考えるとそうのんびりとしていられなかった。
「サクラ、そろそろ注文しないと映画が始まる前に食べ終わらないよ」
「あ、そうか」
腕時計に目をやったサクラは急に慌てた様子でウエイトレスの姿を捜し始めた。
「シンさんはどれにするか決まった?」
「えっ・・・・」
サクラの口から出た名前に反応すると、彼女はようやく自分の言い間違いに気づいて小さく頭を下げる。
「あ、ごめんなさい。シンさんは医療忍者の先輩なの。このところ仕事でよくかち合うから一緒にいることが多くて」
「へー」
「すみませんー」
カカシの表情がにわかに曇ったことも知らず、サクラは手を振って近くのウエイトレスに合図をした。
これが一度や二度ならばカカシも気にしなかったかもしれない。
しかし、三度目ともなるとサクラにとことん甘いカカシといえど、さすがに見逃しておくわけにもいかなかった。

 

 

 

「実はサクラの言い間違いはこのときだけじゃないんだ。サクラが気づかないものを含めると、三日に一度は俺は「シンさん」の名前で呼ばれている」
「はぁ・・・」
緊張した面持ちで語るカカシとは対照的に、ナルトはいやに気の抜けた声で応えた。
もう何度も同じことを聞かされているため耳にタコだ。
しかし、これを聞かなければ話が進まないのだから、仕方なくおとなしくしている。
「「カカシ先生」と「シンさん」、間違えるにしても全然似てない名前だよね!一緒にいないのに自然と名前を呼んじゃうなんて、どれだけ二人が親しいのかって話だよ」
「そうだね」
「そこで君の出番だ、ナルトくん。調査報告をお願いする」
「・・・・カカシ先生、キャラが変わってるってばよ」
こほんと一つ咳払いをしたナルトは、カカシに促されるまま、この数日で調べ上げた事柄の報告書へと目を落とす。
依頼料は一楽のラーメン三杯。
他の仕事の片手間だったが、報酬に見合うだけの仕事はきっちりとこなしたつもりだ。

「えーと、「シンさん」の本名は徳田シンノスケ。どっかの貧乏旗本の三男坊みたいだけど生まれてすぐに養子に出される。アカデミーに入ってから才能を見込まれて医療忍術の勉強を専門的に始めたらしい」
「ふむふむ」
「綱手のばーちゃんのお気に入りらしくて火影の執務室に頻繁に出入りしている。だから同じくばーちゃんに呼び出されることが多いサクラちゃんと接触することが多いのかもね。あ、これが彼のここ数日の行動と写真ね」
ナルトから受け取った写真を見るなり、カカシは顔をしかめる。
さらさらの金髪に碧眼、目の前にいるナルトと全く同じ色合いだったが顔の造作は段違いだ。
そのさわやかな笑顔と相まって、映画スターといっても十分通じる。
「・・・・随分いい男じゃないか」
「だねー。成績優秀、眉目秀麗と欠点の見当たらない人だけど、なんと性格までいいらしいよ。ちょっと聞き込んだだけだけど、彼の悪口を言う人が一人もいなくて、見事褒め言葉ばっかりだった」
「そんな男がこの世にいていいものか!不公平だ、全てのもてない男の敵だ!!」
「・・・・そんなこと言われても、ねぇ」
握りこぶしを作り、怒髪天を衝く勢いのカカシを横目にナルトは小さくため息をつく。
エリート上忍として有名なカカシも、ナルトに比べると十分もてる男の部類に入るのだが、そのことは頭から消えているらしい。
いや、今現在はサクラ以外目に入っていないため、忘れているというべきか。

 

「っていうか、何、何なの、この写真!?」
何枚かある写真の中で、カカシは徳田とサクラが並んで写っているものを選んでナルトに突きつける。
カカシにすれば絶対に許すことのできない密着具合だ。
「ああ、それ、よく撮れてるでしょう〜。サクラちゃんの笑顔が可愛いし、二人はいい雰囲気だし、秀才カップルでお似合いっていうか・・・」
「そんなのはどうでもいい!この距離で写真撮ってるなら、どうして二人の邪魔をしないの!!」
「だってサクラちゃん怒らせると怖いし、一応密偵として仕事中だったし」
「貸せ!もうお前には任せておけん」
消極的なナルトからカメラをひったくると、カカシは廊下へと続く扉に手をかける。
幸いカカシ達のいるこの空き部屋からサクラが身を置いている医療班の控え室は目と鼻の先だ。

「カカシ先生?」
「この徳田をつけまわして、暗いところが怖いとか、高いところが苦手だとか、弱点をこのカメラにおさめる。そして、サクラは奴に失望して見向きもしなくなるって寸法だ」
「・・・・・やり方がせこいってばよ」
「なんとでも言え。写輪眼のカカシの怖さを見せてやる」
「いや、それ、写輪眼の力じゃないし・・・」
呆れ返るナルトの批判的な眼差しも、カカシの情熱を冷ますことは出来なかったらしい。
まさに恋は盲目というやつだ。
「うおおぉぉーーーーーーー!!」
廊下を走る、大声を出すという迷惑行為と共にいなくなったカカシを、ナルトはのろのろとした足取りで追いかけた。
「カカシ先生―、サクラちゃんが徳田の兄ちゃんとカカシ先生を間違えたのって、たぶんー・・・・・・って、もう聞こえないか」
廊下にいるのは、怪訝な顔でカカシの消えていった先を見つめる忍者数名だけだ。
ばりばりと頭をかくナルトだったが、口元には自然と笑みが浮かんでいる。
「優秀な上忍のはずなんだけどなぁ」


あとがき??
久々のカカサクがこれって、どうなのか・・・。
いや、実際、名前の呼び間違えってあるんですけど。似てない名前なのに、何故。
どうも昔と違ってカカサクというより、サクカカの話の方が頭によく浮かびます。
たまには強引なカカシ先生にしようと思ったら変な人になりました。
徳田さんの名前はかの暴れん坊将軍からですよ〜。
後編は近日中にアップです。


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