木ノ葉野鳥の会 2


僅かに開いた扉の隙間から様子を窺うと、捜すまでもなく目的の人物はすぐに見つかった。
元々目をひく容姿だったが、高身長なため人が沢山いる場所でも目立っている。
さらに超がつくほどのイケメンだ。
あんな男に微笑まれれば、どんな女でもイチコロに違いない。
そして、その中にはおそらくサクラも含まれている。
思わず歯軋りするカカシだったが、とりあえずカメラの性能を知るためにも、レンズを彼へと向けてみた。
「あれ?」
すると、数秒前までそこにいたはずの徳田の姿が消えている。
「ど、どこに・・・・・」
「こんにちは」
あせってカメラから顔を離したカカシは、背後に立つ人の気配に飛び上がりそうになった。
「何してるんですか、こんなところで」
非常に嫌な予感がしたカカシだったが、案の定、振り向いた先にいたのは輝く美貌を持つ徳田シンノスケだ。
移動距離を考えると、自称カカシのライバルであるガイにも匹敵する素早さだった。

「バ、バードウォッチングです」
「そうですか。でも、窓はあっちですよ」
上ずった声を出すカカシに、徳田はやんわりと指摘する。
そこに嫌味らしきものは全く感じられないところがまた憎らしい。
「もしかして、上忍のはたけカカシさんですか?」
「はい」
嘘をつく理由もなく、いまさら逃げ出すわけいかないカカシは素直に頷いた。
「ああ、やっぱり。サクラちゃんから話はよく聞いていますよ。格好よくて、優しい先生だって」
「サクラがそんなことを・・・・」
「ええ。サクラちゃんは今ちょっと留守にしていますけど、すぐ戻ります。お茶でもどうですか?」
「有り難く頂きます」
優しげな笑みに釣られて笑顔になったカカシは、そこでハッとなる。
この人のよさそうな口調と微笑みに騙されては駄目だ。
あやうくここに来た理由を忘れて「ちょっといい奴かも」などと思ってしまうところだった。
ひそかに握りこぶしを作って気持ちを引き締めたカカシは、徳田に促されるまま部屋の中へと入っていく。
今は警戒させないためにも、サクラに会いに来たと思わせておいた方が得策だ。

 

「皆ー、はたけカカシさんだよ」
「えっ、あの、写輪眼の・・・」
徳田の隣りにいるカカシを訝しげに見ていた下忍や中忍は、その紹介に目を見開いた。
彼らの中には名前を知っていてもカカシに接した者は少ない。
尊敬の眼差しで見つめられれば、もちろん悪い気はしなかった。
最近ではナルトやサクラから頼られることがめっきり減ったため、よけいに嬉しく感じてしまう。
「医療班にもカカシさんのご活躍はいろいろ伝わっていますよ。僕もずっと憧れていたので、お会いできて嬉しいです」
「え、そんな」
全く裏表のない徳田の言葉に、カカシは照れくさそうに頭をかいた。
いかん、いかんと思うのに、どうしても彼田のほんわかした空気に触れるとほだされそうになる。
そして、こんな奴ならばサクラでも惚れてしまうかもなどと思ってしまうのが嫌だ。
首から提げたままになっていたカメラをちらりと見たカカシは、サクラを取り戻すためにも、心を鬼にする覚悟を決めた。
とにかく徳田に何らかの失態を演じさせ、それを周囲の目に焼き付けさせるのだ。
まずは常に温和な態度を崩さない彼から笑みが消えたとき、一体どんな顔を見せるかの確認だ。

「カカシさん、お茶をどうぞ」
「有難う。そんなに気を遣わなくても・・・あっ」
お盆を持ってやってきた徳田の前で、カカシはわざとらしく手を滑らせる。
相手には故意であることを気づかせない、絶妙なタイミングだ。
茶の大半は徳田の足に引っかかったため、尋常ではない熱さのはずだ。
「大丈夫でしたか!?」
「はっ?」
取り乱す徳田を想像していたカカシは、とっさに何を言われたのか分からなかった。
「すみません、僕の不注意で。カカシさんにはかかりませんでしたか」
「いや、そんなことはいいから君、早く冷やさないと火傷が・・・・」
「あっ、はい」
流し場を指差して言うと、徳田は我に返ったように自分の足元へと目をやる。
「カカシさんは本当に優しいんですね」
顔をあげた徳田に微笑まれ、カカシの肩にずしりと罪悪感が圧し掛かる。
会った瞬間から視線で敵意をあらわにしているというのに、あくまで冷静なその対応。
そして、今も茶を浴びせたカカシを批難することなく、逆に心配をしている余裕。
完敗だ。
自分ならば怒り出すまでいかずとも、不快な表情を少しは見せたはずだった。

 

 

「・・・負けたよ、徳田くん」
「えっ、何ですか?」
十分に冷やしたあと、軽い火傷に薬を塗り終えた徳田は不思議そうに訊き返す。
彼の気持ちを確かめて、サクラと両思いならば老兵はただ去るのみ。
徳田の肩に手を置いたカカシが、滲んだ涙を拭ったときだった。
「あ、本当だ。カカシ先生が来てる」
「先生ーー」
弾んだ声音に振り返ると、ナルトと肩を並べて歩くサクラが笑顔で手を振っている。
「サクラ、ナルト・・・・」
「あれ、どうしたんですか?」
ズボンの裾を捲くっている徳田に気づいたサクラは、心配げな顔で駆け寄った。
「ああ、ちょっと湯のみをひっくり返しちゃって。たいしたことないよ」
「シンさんってば、気をつけてくださいよ」
「うん」

その会話を横で聞いていたナルトは、何か納得したように深々と頷いていた。
「サクラちゃんの言っていた通りだねーー。これは驚いた」
「でしょう」
面白そうに笑いあう二人を見て、カカシと徳田は怪訝な表情になる。
「何、何の話?」
「カカシ先生と徳田の兄ちゃんの声、そっくりだってばよ」
「へ?」
思わず顔を見合わせたカカシと徳田だが、彼らの方には全く自覚がない。
「そうかなぁ?」
「喋ってる声と自分の耳に届く声って、違って聞こえるみたいだからね。録音した自分の声が他人のものに聞こえるのと一緒だってばよ」
「ああ、言われてみると・・・」
以前、議事録を作るためのテープを聴いたとき、自分の意見が第三者の声に聞こえて首を傾げた記憶がある。
あれと同じことだろうか。

「って、ちょっと待って。サクラが最近、俺のこと「シンさん」って言い始めたのって・・・」
「声が似てるからよ。顔を見ないで話しているときって、どっちと一緒にいたかとっさに分からなくなっちゃって。話し方まで一緒なんだもの」
「へぇ」
先ほどからカカシの前で丁寧な言葉遣いをしている徳田だが、どうやら年が近い仲間には砕けた物言いになるらしい。
にこにこと笑って自分を見ている徳田と目が合い、カカシは穴があったら入りたい気持ちになった。
勝手に勘違いをして、嫌がらせをして、諦めて、道化としか言いようがない。
「ところでカカシ先生、何をしにここに来たの」
サクラはカカシが持っている望遠レンズ付きのカメラを訝しげに眺めている。
「・・・・バードウォッチング」


あとがき??
何でこんな話を書いたのか自分でもよく分かりません。はて。
井上声素敵〜ってことかな。
カカシ先生が可哀想だったので、短いおまけ


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