近距離恋愛 3


里を出る前は物資を届ける簡単な任務と聞いていたが、思わぬところで敵と交戦。
一人はぐれたサクラは、道の窪みに足をとられて蹲っていた。
敵とはいっても中忍、下忍クラスの者が10数名いるだけで、上忍のカカシ率いる七班ならば物の数ではない。
このまま待っていればすぐに誰かしら駆けつけるはずだ。
「しくじったなぁ・・・・」
女のサクラは甘く見られたらしく、二人の小物を相手にするだけですんだ。
早々に倒したまではよかったが、攻撃を避けた際に足をくじいたのは失態だった。
合流する前に怪我を治そうとチャクラを練り始めたサクラは、近づく足音に気づき、警戒の色を滲ませる。
それは予想通り彼女の仲間のものだったが、大いに問題ありだった。

 

「どっか怪我したの?」
「カ、カカシせんせ・・・・」
「大丈夫」
「先生が大丈夫ですか!!?」
仰天したサクラが大声をあげたのも無理はない。
心配そうにサクラを見やるカカシの腕からは血がだらだらと流れ落ち、一見して彼の方がよっぽどひどい傷を負っている。
それなのに、平然とした顔をしていることに強い違和感を覚えた。
「あー、ちょっとやっかいな術を使う奴がいてねー。油断しちゃった」
「と、とりあえずそこに座ってください。まずは血を止めますんで」
「ん、サクラの治療が終わったあとでいいよ」
「何馬鹿なこと言ってるんですか!」
重傷な見た目と裏腹に、のんきな声を出すカカシにサクラは思わず声を荒げた。
確かにサクラの足もズキズキと痛み出していたが、誰が見ても治療を優先させなければならないのはカカシだ。

「でも、サクラ、痛いんでしょう」
「先生の方が痛そうですよ」
「えーと、そうでもない」
真っ青な顔になっているサクラを安心させるためなのか、カカシは微かに笑ってみせた。
「慣れてるからね」
「・・・・」
カカシの笑顔に、サクラはより一層不安をかきたてられる。
慣れているのは怪我をすることに?
それとも、笑顔を作ることに、だろうか。
にこにこと愛想が良いように見える彼だが、いつだって本音は口にしない。
初対面での自己紹介もひどかったが、長い付き合いとなった今でも自らのことは何一つ語ろうとしないのだ。
こんなときくらいは素直に痛がる素振りを見せてもいいと思ってしまう。

「先生って、不器用な人ですよね」
不思議そうな顔をしているカカシを、サクラは手招きをして自分の前に座らせる。
「心配だわ」
あとは何も言わずに、カカシの治療に集中した。
厳しい表情のサクラから何か感じ取ったのか、カカシも口を挟むことなく、自分の傷に手をかざす彼女を見つめる。
「・・・血が派手に出ちゃったけど、そこまで深くないよ」
「怪我のことじゃないです」
言っても、カカシには伝わらないに違いない。
それがとても悲しいことのように思える。
サクラがカカシをただの上司ではなく、なんだか放っておけない人だと思ったのは、それが最初だった。

 

 

 

「あんまり、いい感じの人じゃないね」
素っ気無く呟いたカカシを、サクラはきょとんとした顔で見つめた。
あまりの驚きにスプーンの上にあったシャーベットの欠片も皿へと落ちてしまう。
もしかして、今のは悪口だろうか。
誰のことも、好きなようで嫌いなように見えるカカシが、誰かを批評することがあるとは思わなかった。
今までどんなに態度の悪い依頼人がいても、笑顔を崩さなかった人だ。
全く忍びの鏡といってもいい。

「何」
「あ、えっと、カカシ先生がそんな風に言うの珍しいと思って」
「そう?」
「うん。それに、ちらっと見ただけじゃそんな詳しい人柄は分からないでしょう」
くすくすと笑ったサクラは再びシャーベットをスプーンですくう。
カカシが何も言わないのをいいことに、近頃ではすっかり彼の家に入り浸っていた。
クーラーがあるからというのは言い訳だ。
サクラが様子を見に来なければ、外食ばかりのカカシの食生活は野菜嫌いのナルトと同レベルの荒みようで、健康面での心配が強い。
とことん自分の体に無関心な彼のためにも、サクラは拙いながらも彼の家で料理の腕をふるうために通っているというわけだ。

「えーと、一郎さんのことでしたよね。何度も言いますけど、いい人ですよ、凄く」
にこにこと笑って言うと、何故か、カカシの顔が泣きそうに見えた。
一瞬のことだったから、たぶん勘違いだろう。
火影や、親しい友人の葬儀の際でも、カカシは一度も涙を見せなかった。
豊かな表情は、日常で本音をのぞかせることが極端に少ない。
そんなカカシだから、サクラはどうにも気になってそばを離れることが出来ない。
いつかカカシが本気で感情をぶつけられる相手が見つかったら、彼を心配しなければならないサクラの毎日も終わるのだ。


あとがき??
唐突に番外編。サクラ視点です。2より前の話かと。
次で終わり。カカシ視点に戻ります。


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