答案用紙には、赤いペンで大きくはっきりと「0」の数字が書かれていた。
全ての解答は未記入だ。
名前しか書かれていないのだから、ゼロ点なのは当然だった。
これが毎回テストで最下位の成績を取るナルトの答案用紙ならば問題はない。
いや、問題はあるだろうが、誰もが納得しても驚くことはない。
だが、その答案用紙の主が学園きっての才媛、春野サクラ嬢のものだったことが教員達をパニックに陥れたのだ。

 

「正直に言ってくれ。テストの日は体調が悪かったんだろ。そうに決まってる」
放課後、教室に一人残されたサクラは、担任のイルカに切迫した声音で訊ねられた。
0点を取った教科は国語だけで、その他はいつもどおり満点かそれに近い成績だ。
そしてその国語も以前は連続して100点だった。
授業態度も真面目でサボったことなど一度も無いため、他に理由は考えられない。
「いいえ、あれが私の今の実力なんです」
真剣なイルカに対し、サクラはすまし顔で答える。
「なんだか突然、全然問題が解けなくなっちゃったんです。全部がちんぷんかんぷんで。もうお手上げです」
「サクラァ・・・そんなこと言うなよ」

泣きそうな声を出したイルカに、流石に罪悪感が芽生えたサクラは、少しだけ表情を和らげた。
「心配かけてごめんなさい。先生のおっしゃるとおりですよ。次は頑張りますから」
「ああ・・・・」
完全ではないものの、平常心を取り戻したイルカは教室の隅にいたカカシを振り返って見る。
「じゃあ、カカシ先生、お願いしますよ」
「はいー・・・」
気の抜けた声で返事をしたカカシは、補習のために用意した教材を机に並べ始める。
サクラの今までの授業態度と成績を考慮し、例外として三日後に国語の追加試験が行われることになったのだ。
あの点数は何かの間違いだと、学園側はどうしても認めたくないらしい。

 

「俺に何かうらみでもあるの?」
イルカの姿がなくなると、カカシは開口一番に言った。
「カカシ先生、なんだか疲れてます?」
「疲れてるよ。もう死にそうだよ」
サクラの成績が落ちたのは全ては国語を担当しているカカシのせいだと決め付けられ、校長に大目玉を食らったのだ。
何せ全国レベルでトップ3に入る成績のサクラは学園の期待の星、有名大学への進学も当然と目されている。
他の生徒に同じような落ちこぼれが出ていなかったことと、イルカのとりなしで何とかクビは免れたが、今度サクラが0点を取ったら本当に危ない。
この不況下で、教職を失うことは何としても避けたかった。

「じゃあ、始めるぞ」
「はーい」
カカシに促され、サクラは素直に机に教科書を広げた。
隣りの席について先日のテストの範囲をつらつらと説明した後、カカシは再度サクラに向き直る。
「何か質問は?」
「はい。カカシ先生、お見合いするって本当ですか」
小さく手を上げたサクラの言葉に、カカシは一瞬思考が停止した。
「・・・・・勉強の質問についてなんだけど」
「本当なの?」
サクラは隣にいるカカシの顔を覗き込むようにして見る。
間近にある澄んだ翡翠色に引き込まれそうになったが、カカシは何とか視線をそらして咳払いをする。

「そういう話があったのは・・・本当。だけど断ったよ。俺、全然貯金とかないしそういうのまだ考えてないから」
その瞬間、サクラの顔が雲間からさした太陽のように、明るく輝いた。
「なんだー、心配して損した」
満面の笑みを浮かべるサクラに、何が「なんだ」なのかとカカシは首を傾げる。
「じゃあ先生、次のテストではまたいい点数取るから、そしたら私とデートして」
「・・・あの、さっきから話に脈絡がないように思うんだけど」
「どこがですか?」
「・・・・・」
笑みを消したサクラに真顔で返され、まるで自分の方が変な質問をしたようだとカカシは思った。

 

 

 

本当に好かれているのか、からかわれているだけなのか、判断に苦しむ。
年頃の少女というのは心中が複雑で、何を考えているのか全く分からなかった。
2階にある教員室の窓から下を望むと、友達と仲良く談笑するサクラの姿がある。
桃色の柔らかそうな髪が肩の上で揺れて、ころころと変わる表情は見ていて飽きない。
正直に可愛いと思う。
だけれどそれはまだ生徒という範疇で、恋愛対象になるかどうかといえば別の話だ。
あの後行われた追試でサクラは無事に100点を取り、教師達を大いに安心させた。
カカシしか知らないが、それは条件付の100点なのだ。

友達との会話を終えたサクラは、立ち去る彼女に手を振ったあと、ふいに顔をあげる。
こうしてサクラは、自分のいる教員室をいつも見上げていたのかもしれない。
カカシはふとそんな風に考えた。
鈍感な自分に、見合いの話、サクラが行動を起こしたのはそれらの積み重ねが原因だろうか。
「約束――」
手を口元にあてたサクラは大きな声で呼びかけてくる。

暫しの逡巡の後、カカシは両手を挙げて大きなわっかを作って見せた。
つまり
OKサインだ。
また0点を取られて校長にどやされるよりはいい・・・・というのは建て前で、サクラのことをもっと知ってみたくなったというのが本音か。
受験を控えているというのに、わざと0点を取るなど愚行もいいところだ。
だけれど、自分には無いその思い切りの良さと積極性が何となく好ましく思えた。
彼女の顔に広がる笑みを、窓の桟に頬杖をついて見ながら、ばれたら別の意味で校長に怒られそうだとカカシはため息をついた。


あとがき??
唐突に学園もの。ガンダム
00の学園パロを見たら書きたくなりました。内容とは関係ないですが。
今後、内緒でお付き合いをするカカシ
×サクラとかいうのもいいですね。


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