Back to the Future 1


はっとして体を起こしたとき、机の上の書類にはしっかりと涎のあとがついていた。
どうやら任務の報告書を作っているうちに居眠りをしてしまったらしい。
見ると窓からは西日が差し込み、資料室は人もまばらになっていた。
「・・・帰ろ」
腹の虫が騒ぎ出す予兆があったため、カカシは素早く荷物をまとめて席を立った。
報告書はまだ作成途中だったが、明日続きをやればすむことだ。

 

「ふわっ・・・・」
よたよたとおぼつかない足取りで帰路につくカカシは大きなあくびをして目元をこすった。
先ほどから愛読書の文字も頭に入らず、疲れが相当たまっているらしい。
まだ若いつもりでいたが、無理できない年になったのだろうかとしみじみ思っていたとき、ふいに肩を叩かれて振り返る。
そこにいたのは暗部時代からの同僚で、笑みを作ろうとした顔のまま、カカシは動きを止めた。
相手の名前も顔も、もちろん覚えている。
だが、何か違和感があった。
しいて言うならば、髪に白いものが混じり、急に年をとった。
「・・・老けた?」
「第一声がそれかよ」
思わず口をついて出た言葉に、当然のことだが、同僚は機嫌を損ねたようだ。
「お互い40近いんだから老けてもしょうがないだろう」
「えっ・・・」
突然何を言い出すのかと、カカシは目を瞬かせる。
彼はカカシと年が近く、現在は30前後のはずだ。
鯖を読むにしても、古い付き合いのカカシ相手に年を10も多く言うのは不自然だった。

「それよりお前、自分の家を通り過ぎてるぞ。本なんか読みながら歩いているからぼんやりするんだ」
「通り過ぎてるって・・・・」
カカシに与えられている上忍専用宿舎は今歩いている道のずっと先にあり、彼もそのことは十分承知している。
かみ合わない会話にいささかたじろぎながらも、同僚の指差す方向を見たカカシは、確かにそこに「はたけ」の名前の入った表札を発見した。
通りに面した一軒家。
玄関先には子供用の自転車が置かれ、庭の花壇には季節の花々を垣間見ることが出来る。
苗字は同じようだが、独身のカカシの家であるはずがない。
「カカシ、今日はなんだか変だぞ。早く家で休んだ方がいいって」
「えっ、ちょっ・・・」
カカシが止める暇もなく、彼がインターフォンを押すとすぐさま中から住人とおぼしき人物が扉を開けて顔を覗かせた。
なにやら狐につままれたような気分だったカカシも、これにはさすがに驚きの声をあげる。

「サクラ?」
「はい」
怪訝そうに名前を呼ばれ、門の外まで出てきた彼女は首を傾げて返事をする。
顔や声や仕草はサクラそのものだが、これもまた違う。
軽くウエーブの入った長い髪は左肩の上で一つに纏められ、ほっそりとした体はそれでも女性らしい丸みがあり、薄く紅をさした唇は微笑をたたえている。
誰がどう見ても間違いなく美人だ。
「綺麗になったねぇ」
「・・・・そういうことは家に入ってから言って欲しいんだが」
あきれ果てる同僚を横目に、サクラは困ったように笑った。

「じゃあ、俺は帰るよ」
「あ、今日は寄られないんですか?先生と飲むなら何かおつまみ作りますけど」
「たまたま近くを通りかかっただけなんだよ。またな」
「はい」
手を振って立ち去る同僚に頭を下げたサクラは、くるりとカカシに向き直る。
「今日のご飯は先生の好きな金目鯛の甘辛煮よ。さあ、早く入って」
「は、はあ・・・・」
背中を押されたカカシは、言われるまま家の敷地内へと入っていく。
玄関の扉の向こうにあったのは、その日一番の衝撃だったかもしれない。

 

「パパ、お帰りなさい」
「おかえりー」
とてとてと駆け出してきた子供二人を、カカシは目を丸くして見つめた。
桃色の髪に緑の瞳のミニチュアサクラと、彼女より小さい、これまた幼い時分のカカシに瓜二つの男の子。
「うわー、これは可愛いなぁ」
しゃがみこんだカカシは、自分と同じ目線になった少女の頭を優しく撫でる。
子供は好きな方だが、仕事がら接する機会はめったにないため、カカシの頬は自然と緩んでしまう。
「パパー」
「あー、はいはい。よっこらしょっと」
不満げに服を引っ張る男の子に気づいたカカシは、彼の期待にこたえるように、その体を高く抱えあげた。
「ほら、たかいたかい」
とたんに楽しげな声をあげた彼の姿を目を細めて眺めながら、これは夢なのだとカカシは心の中で確信する。
おそらく仕事の疲れがこうした癒しの空間を夢として見せているのだ。
妻的立場が生徒の少女なのは謎だが、恋人が不在で、今のところ一番身近な異性だから登場した可能性が強い。

「先生、早く着替えてきてよ。それまでにご飯の準備しておくから」
「うん」
男の子を下ろしたカカシは、サクラの言葉に素直に頷く。
どうせいつかは覚めるのだから、暫しこの幸せな夢に浸るのも悪くはなかった。


あとがき??
ちょっとほのぼのしたくなった。
ラストは決まっているが飽きた・・・ら書けないかも。


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