Back to the Future 2


「・・・・」
「不味いなら食べなくてもいいですって!っていうか、先生が食べたいっていうからカレー作ったんじゃないですか!!」
一口食べるなり無言で皿を見つめたカカシに、サクラはつい声を荒げてしまった。
念願の一人暮らしを始め、悠々自適な生活を送るサクラの家に、カカシがひょっこりと姿を見せたのは一週間前だ。
珍しいこともあるものだと思った。
ナルトやサスケの家にはちょくちょく様子を見に行っていたらしいが、彼は今までサクラのことを殆ど放置していた。
二人がいろいろと問題をかかえていたためサクラはしょうがないと納得していたのだが、今になって周りをうろつき始めた理由が分からない。
任務が重ならないときも、ほぼ毎日カカシの顔を見ている気がする。
土産に甘い菓子を持ってこなければ、間違いなく追い返していたことだろう。

「不味いなんて言ってないよ」
「でも美味しいとも思っていないでしょう」
「んー、そういうことじゃあなくってさ」
ふてくされたサクラはすでにそっぽを向いている。
カカシの要望に従って作られたカレーは、しいて言うなら及第点。
それに美味い不味いの評価ではなく、カカシが微妙な顔をしたのは、味が違ったからだ。
未来の世界で食べたものと。
「私だってね、素敵な恋人を見つけたり、結婚したら、もっと一生懸命料理の勉強するわよ。でも、今は他にすることが沢山あって大変なの」
「そっか。サクラ、頑張ってくれたんだねぇ・・・」
労わるような眼差しでしみじみと言われ、サクラの機嫌はさらに悪化していく。
「うざい!究極にうざいわ」
どこか会話のかみ合わない現状はもううんざりだ。

「あのさ、先生熱でもあるんじゃないの。変すぎるってば」
折りたたみ式のテーブルで向かい合っているため、手を伸ばせばすぐに届く距離だ。
表面的にはいつもどおりだが、その額に触れるとわずかに平時よりも高いものを感じる。
「・・・嫌だ、本当にあるかも」
「ああ、そういえば昨日からちょっと熱っぽくて。まあ、ただの風邪だろうし、放っておけば治るってー・・・・」
へらへらと笑ったカカシの言葉は最後まで続かなかった。
鬼の形相になったサクラの顔が間近にあり、ごくりとつばを飲み込む。
今までどんな敵と対峙したときも恐怖を覚えなかったカカシが、このときばかりは心底怯えた。

「早く言ってくださいよ!それならカレーなんて刺激物作らなかったのに。どこまで馬鹿なんですか。馬鹿馬鹿馬鹿馬鹿馬鹿馬鹿馬鹿ーーーー」
「・・・・・」
『写輪眼のカカシ』と呼ばれ、木ノ葉隠れではエリート上忍で通っているカカシ相手に、ここまで「馬鹿」を繰り返した相手はおそらくサクラが初めてだろう。
でも不思議と怒りは涌いてこない。

 

 

それからサクラの行動は迅速だった。
常備していた市販の薬を飲ませ、敷かれた布団にカカシを押し込み、氷嚢を額に押し当てる。
完全に重病人扱いだ。
「あのー、サクラ、ちょっと大げさなんじゃあ」
「風邪は万病の元です。あと、明日の任務は全部キャンセルの連絡入れておきましたから」
「いつのまに!!?」
「先生はちょっと忙しすぎるんですよ。一日くらい休んだって罰はあたらないですから平気です」
「サクラの寝るところ取っちゃったし・・・」
「任務で使う寝袋がありますから。人の心配していないで早く寝てくださいよ。はい、ちゃんと肩まで布団かけて」
「うん・・・あっ」
もそもそと布団をかぶったカカシが突然声をあげ、サクラは怪訝な顔で振り返る。
「何ですか」
「んーん、何でもない」
眉を寄せたサクラは首をかしげたが、カカシはにこにこと笑うだけだ。

「サクラって、いつもナルトのこと殴ったり怒鳴ったりしてるよね」
「そうですね」
「でも、ナルトはずっとサクラのこと好きだよね」
「・・・そうですかね」
「うん。ずーっとサクラのこと見てるよ」
サクラが強引に飲ませた薬が効いてきたのか、カカシの声は段々と心細いものになっていく。
「何だか、ちょっと・・・分かったかも・・・・」
自分のために本気で泣いたり、怒ったりしてくれる人が身近にいるのは、存外気分がいい。
今度は彼女が本気で喜んでくれることを考えてみようかと思いつつ、カカシは深い眠りに落ちていった。
平和な顔ですやすやと寝息を立てるカカシを、サクラは複雑な思いで見つめる。
普段の任務のときは何も感じないが、ふとしたときに見せる表情が寂しげで、どうもほうっておけない気分になってしまう。
「本当に、変な人ー」

 

 

お日様の下で干した、ふかふかの布団。
夢の中の未来で眠りについたときと同じ、サクラの匂いがした。
寝つきはいい方ではないはずなのに、それだけで何故だか安心して眠りに落ちる。
夢の断片を見つけたからといって現実の延長線上にあるものと断定は出来ないが、成長したサクラと子供達の待つあの場所に帰れたらいいなぁとは思う。
未来なのに、帰りたいというのも不思議な話だった。


あとがき??
恋愛感情はまだないんですが、一人にできない(サクラ視点)と、何だかいい感じ(カカシ先生)くらいは思っているかと。


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